第24話 環境実査(4) ~森の中へ入ってみた
獣道の幅はそれほど広くない。
このまま突入すると、両側に生えている草や雑木をかき分けていく事になる。
何がいるかわからない場所でそんな事をするのは避けたい。
『
『可能です。左右1m幅、高さ2m程度で、ハルトが進むと予想される前方5m地点までにある障害物の根元その他を高熱で分解処理して切断し、残りを収納します』
『
『範囲を厳密に決めてごく短時間で熱処理をするので、火災が発生する可能性はありません。万が一発火した場合、直ちに冷却措置を行って消火します』
『
これでかき分けた葉に芋虫がいてぎょっとする、とかの心配をしなくていい訳だ。
蜘蛛の巣が顔にひっかかる事も、木の上からぶら下がっている小さな虫にぎょっとする事もない。
何せ僕の意識は21世紀初頭の首都圏住み日本人。
芋虫だのヒルだの蛇だのなんて、考えただけでもぞっとする。
しかし森の中は結構生物が多いようだ。
何かが色々いるという気配はしっかり感じる。
まず聞こえるのがキュイキュイとか、ピュー、ピューとかいう割と甲高い系の音。
おそらく鳥の鳴き声だろう。
姿かたちは見えないけれど。
風が草や木を揺らすガサガサという音。
遠くでゆっくりなっているのは風だなと安心して聞けるけれど、近くの茂み等で聞こえると思わず身構えてしまう。
蜘蛛の巣っぽいのも見かけるし、時々何かが視界の端で動いた感じもする。
小さかったり速かったりで確認は出来ない事の方が多いけれど。
『
『いわゆる虫の類いは至る所にいます。それより大型のものではトカゲに類するものが多いです。哺乳類はほとんどは齧歯類です。比べると鳥類は少ない状態です』
聞かない方が良かっただろうか。
実感が裏付けられてしまった。
ただ
前や足下が見えないという事はない。
それでも舗装道路とは違い、木の根だの石だの凹凸が多い。
下は湿気ているようで、所々泥っぽくもなっている。
足下を確認しつつ、一歩一歩ゆっくり踏み出して歩く。
「昨日狩ったものと同程度の爬虫類がいます。どうしましょうか?」
エリが獲物を見つけたようだ。
僕は気付くどころか、何処にいるのか全くわからないのだけれども。
『
『危険動物の通知と同様の方法で、
ハルトよりエリの方が
ですのでエリが起動しているものと同じ事をするのはお勧めしません』
なるほど、俺が同じように起動しても、エリの方が先に全てを済ませてしまうから意味はないという訳か。
『
『マキは危険探知で同様の事をしています。ハルトの危険探知は20秒以内に遭遇する可能性が高い場合限定ですが、マキの場合は30秒以内の時間範囲の他、50m以内の距離範囲でも通知受信と処理が可能です』
なるほど、知らないうちに2人にサポートされていた訳か。
僕が2人を引っ張っているつもりだったのに。
何というか微妙に情けないが仕方ない。
とりあえず此処での肉入手はエリにやって貰うとしよう。
そうすれば今後、任せてしまう事が出来るだろうから。
「捕まえましょう。エリは
「可能です」
「それでは御願いします」
「わかりました」
これで肉を確保だ。
森の中を歩いた甲斐があった。
何せこの森の中、少なくとも僕に取ってはあまり気持ちがいい場所ではない。
いっそ何も考えず、そこそこ広さのある道を作ってしまった方がいいだろうか。
そうすればもう少し快適に歩ける筈だ
ただ今回は森の中を確認するという目的もある。
だからとりあえず、このまま進む方針で。
しかしあとどれくらい、この状況に耐えればいいのだろうか。
結構歩いた気がするのだけれど。
『
『9時17分です』
前進すると決めた目安の10時まで、まだ40分以上ある。
空調服のおかげで体感そのものは快適な筈。
それでも精神的に思い切り疲れる。
こういう場所にいる事自体が、僕の精神を削っていくのだ。
そうだ、疲れるのは僕だけでは無い。
だから聞いておこう。
「エリ、マキ、体調は大丈夫ですか? 疲れたりとか調子が悪いとかは無いですか?」
「大丈夫です」
「大丈夫です」
2人とも問題はないようだ。
僕よりむしろ調子がいいかもしれない。
「もし疲れたり具合が悪くなったりしたら言って下さい」
「わかりました」
「わかりました」
残念ながら2人とも平気らしい。
止める理由が無いので仕方なく更に先へ。
しかしこの探検、進んだ感じがしない。
確かに背後には道というか、1m幅で整備された空間が出来てはいる。
しかし前方の風景はほとんど変わらないのだ。
太陽も木々に隠れてよく見えないし、まっすぐ進んでいるかも怪しい。
やはり方位磁石か何かがあった方が楽だなと思う。
いちいち
それでも歩きやすい部分、何となく踏み跡がついている部分を選んで歩いて行く。
僕が向いた方向が
時に左右どちらに進むか迷って左右を見た結果、V字形に刈り取ってしまう事もあるけれども。
『
『ハルトは現在、東北東へ進んでいます。現在位置は東側出口から直線距離で323m、方向は東南東です』
その程度しか進んでいなかったのかと思う。
確かにゆっくり歩いている自覚はある。
しかし323mという事は、草を刈ってある部分100mを引けば223mしか森の奥へ進んでいないという事だ。
注意してゆっくり歩き、時々立ち止まったりしているからだろうか。
それともぐるっと迂回するような形で歩いてしまっているのだろうか。
まっすぐ歩けていないのは間違いない。
何せ南東を目指していた筈なのに、東北東を向いているようだから。
方向を余り気にせず獣道を辿っているせいもあるけれど。
『
『今までの歩行経路を印刷した地図を提供する事は可能です。巫女に依頼して下さい』
『
あとでエリかマキに頼んで出して貰おう。
同じ場所をぐるぐる回るような感じだったら悲しいけれど。
いい加減帰りたくなってきた。
それでも今日はこの獣道を10時頃まで辿ってみようと思う。
エリとマキが一緒に来ている手前もあるし。
次回以降については帰って検討して、駄目なら道を作るなりなんなり考えればいい。
この探検で食料もある程度手に入れたし、体力作りにもなった筈だ。
だからきっと無駄では無い。
多分。
そんな感じで自分に言い訳しながら歩いていると、前が少し広くなった。
少し水たまりもあって歩きにくそうだ。
そして泥に明らかに動物の足跡とわかるものが幾つもついている。
これは、ひょっとして。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます