第23話 環境実査(3) ~森の手前まで

 世界樹ユグドラシルによれば本日は晴れ。

 午後3時過ぎから夜間にかけて雨が降るかもしれないという事だが、午前中は問題無いらしい。

 それなら森を探検しても大丈夫だろう。

 

 朝食の後。

 地図を出してエリとマキに午前中の予定を説明する。


「今日の午前中は少し森の方を調べてみようと思います。歩いても大丈夫そうな獣道があるならそこを使って、無ければExtエクステンディッド-UQ《ユビキタス》で道を作りながら、南東方向に進み、川沿いの低地に出た後、海を目指すつもりです」


 そう言って地図の河口部を示す。


「最終的にはこの辺りを目指そうと思います。地形に変化がある方が、採取できる動植物の種類が多くなりそうですから。

 ただ無理はしません。危険そうなら引き返しますし、今日の所は前進するのは2時間程度までにするつもりです」


 説明は以上だ。

 ここで2人の意見を聞いてみよう。


「取り敢えず僕の計画はこんな感じなのです。もし何か改善点、もっといいだろうと思える提案があればお願いします」


「装備はいつもの外出用の服とエアライフルですか?」


 エリが尋ねた。

 今回も特に意見無しの『わかりました』だけだと思っていたので少し嬉しい。


「そのつもりです。ただ有害な動物や虫類については、基本的にはExtエクステンディッド-UQ《ユビキタス》で対処するつもりです。エアライフルを使うのは、集団で襲い掛かろうとしてくる猿等をけん制する場合位だろうと思います」


「わかりました」

「わかりました」


 問題は無いようだ。


世界樹ユグドラシル、今は何時だ?』


『8時13分です』


 ならキリのいい時間という事で。

 

「それでは8時30分になったら出かけましょう」


 着替えに巻き込まれないよう自室に待避する。


 ◇◇◇


 朝8時30分ちょうどにリビングを出て、観測所1階を経由して外へ。

 少しだけ雲があるけれどほぼ晴れ。

 風は少しだけあるけれど問題はない程度だ。


世界樹ユグドラシル、この前と同様に危険動物確認の通知を頼む。あと空調オン、温度調整無しで風中ぐらい』


『わかりました』


 エリとマキにはもう空調服の事を言わなくても大丈夫だろうか。


世界樹ユグドラシル、エリとマキは空調服をどうしている?』


『2人とも空調を入れています。エリは風量弱めでマキは風量中くらい。2人とも温度調節はしていません』


 なら以降、空調服については言わなくても大丈夫だろう。

 それではまずは東側、森の方へ向けて歩いて行こう。

 一歩踏み出したところだった。


「前の外出と同様、30m以内に食用になり採取できそうな植物、100g以上可食部がありそうな動物を発見した場合、通知した方がいいでしょうか?」


 エリに言われて気付く。

 確かにそれも重要だ。

 

「ありがとう。それでは御願いします」


「わかりました」


 大分僕がいちいち言わなくても大丈夫な感じになってきている。

 あとは話し方や表情にもう少し変化が出ればいいのだけれど。

 ただ僕が2人と出会ってまだ3日目だ。

 焦る事はない。


 それにこのままの方がいいかもしれない、なんて思ったりもする。

 今の状態なら2人とも僕の指示には絶対従ってくれる。

 実際には嫌われていても気付かずに済む。

 

 ただそれを望むのは自分勝手過ぎるだろう。

 それにもし本当にずっとこのままなら。

 彼女達が変化がないままの状況に、僕自身が飽きるというか絶望するような気がするのだ。

 意思が見えない2人しか話し相手がいない状況に。


 さて、今は考えている時間では無い。

 頭を切り替えて周囲をしっかり観察する。


 近づくにつれ森の様子がわかるようになる。

 隙間があるように見えても下草が結構あるようだ。

 良さそうな場所は見つからない。


 あと植物の種類が多彩だなと感じる。

 高い木だけでなくシュロの頭部分だけのような木やシダっぽい葉、ススキっぽい草等、様々な種類の草木が地面を覆っている感じだ。


「いくつか食用になる植物があります。新芽が食べられる大葉のシダ類、若芽や葉が食べられるオノデラ・ハルトの時代にアカメガシワと呼ばれていた植物、芯芽が食べられるオノデラ・ハルトの時代にタコノキと呼ばれていた植物等です」


 エリが教えてくれた。

 森が近くなった結果、一気に採取出来る山菜が増えた模様だ。

 僕の時代の呼び名を聞いてもわからない植物の方が多いけれども。


「エリ、Extエクステンディッド-UQ《ユビキタス》を使って採取出来ますか?」


「出来ます。採取しますか?」


「御願いします。根こそぎでは無く、植物が無くなったりしない程度の量で採取して下さい。

 それぞれ服が入っていた紙袋1袋に目一杯くらい限度で御願いします」


「わかりました」


 自分で探す前に採取まで終わってしまう。

 でもここは効率を重視しよう。

 多様な食料の確保こそが重要だ。


 そろそろ肉も欲しいかな。

 しかしまずは森へ入れる場所を探す方が先だ。

 気軽に入って行けそうな太い獣道なんて都合の良い場所、なかなか見当たらない。


 草地部分の東端、森の5m程度手前に到達。

 今度は南に歩きながら森に入れそうな場所を探す。

 20m程歩いたところだった。


『40m先左側茂み内に毒蛇。どうしますか?』


 危険動物、ついに出てきたようだ。


世界樹ユグドラシルExtエクステンディッド-UQ《ユビキタス》を使って冷やして仮死状態にしてくれ。あとその蛇は食べられるか?』


『食べられますが、頭部分の毒腺と牙に毒液が200mg程あります』


世界樹ユグドラシル、毒がある危険部位は高熱で分解、それ以外は収納して、食べられるように処理してくれ』


『わかりました』


世界樹ユグドラシル、あと蚊やヒル等の不快な生物も、僕やエリ、マキを襲う前にExtエクステンディッド-UQ《ユビキタス》で殺してくれ。これは収納しなくていい』


『わかりました』


 Extエクステンディッド-UQ《ユビキタス》、なまじの魔法より便利なのではないだろうか。

 そう思いつつ歩いていく。


 やっと入れそうな獣道状の場所を発見した。

 場所は草地部分の東南角に接しているあたり。

 明らかに草が踏み潰され、歩けそうな場所がある。


世界樹ユグドラシル、ここから森の中へ入って大丈夫か?』


『いわゆる虫、両生類、爬虫類等については先程の指示通り、Extエクステンディッド-UQ《ユビキタス》で無力化が可能です。

 なお体重5kg以上の哺乳類や鳥類は今の所近くにいません』


世界樹ユグドラシル、植物や地形的に危険という場所はないか』


『今後の歩く経路によって変わります。ただし1km以内でしたら傷害を受ける可能性は低いと判断されます』


 なら大丈夫だろう。

 それではエリとマキに言っておこう。


「そこの獣道から森に入ってみます」


「わかりました」

「わかりました」


 いよいよ森の中へ突入だ。

 

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