第5話 「レクサスノウシロヲハシルトイフコト」



 気がついたら、そのSUV型の黒いレクサスはずっとずっとワシの前を走っていました。

 そのレクサスの前には大型トラックがいて、トラックに前にも数台のクルマが走っている様子でした。つまりワシがその車列に追いついたということでしょうか。

 ワシは11時20分までに、ここから遠く離れた山口市の「ほっともっと」に寄って、予約しておいた「ノリ弁当」3つを受け取って、それからさらに離れた嫁さんの実家に届けるという重大なミッションの途中でした。昼頃に実家に着いたら、ワシと嫁さんとお義母さんと三人でノリ弁当を楽しく食して、それから嫁さんを連れて帰る予定でした。

 時間的に十分余裕があったので、また前が詰まっていてしょうがないので、ワシはアイサイトの追従クルーズでそのレクサスを捕まえておいて、あとはフォレスターに任せて、それでもブレーキには軽く足を乗せて、ハンドルに手を添えて、その黒いレクサスを目で追いながらのんびり運転しておりました。

 そこまでは良かったのですが、今日はなんかアイサイトの調子が悪いど。というかえらい今日のフォレスターは運転が下手なんですけど。どうしたん?アイサイト。

その原因はすぐに判明しました。アイサイトの調子が悪いのではなくて、アイサイトが捕まえているレクサスの調子が悪いというか、無駄に加減速をくり返しているのです。前のトラックと車間が離れたかと思ったらグワーッと加速して追突しそうになるほど近づいてブレーキを踏むという運転を繰り返されているようです。急いでいらっしゃるのでしょうか。それとも、もしかしたらこのご時世に前の大型トラックをあおっていらっしゃるのでしょうか。

 そうこうしているうちに、トラックは右にウインカーを出して広めの路肩に寄せて止まって道を譲ってくれました。さすがプロのドライバーです。どんな状況でも周りをよく見て、前や後ろに気を遣い、空気を読んで交通の流れを邪魔しない。見ていて気持ちがよかったので、ワシは「ありがとう」の意味でハザードを二回点滅させました。

 レクサスは待ってましたといわんばかりにグワーッと加速を始めました。というかいつの間にか前がすっかり空いていたので、これ見よがしに加速して、ワシを振り切って去っていこうとしました。もしかしたらワシのことも気になっていらっしゃったようです。光栄です。


 レクサスさんには非常に申し訳なかったのですが、ワシのクルマは、8年落ちのあなたのレクサスに比べたら安くてしょぼいフォレスターですが、実はXTなんですよ。わかります?TX。絶対に知らないと思いますが、あのWRXと基本的に同じ280馬力の直噴ターボエンジンがこのボンネットの中に入っているのでございます。(ちょっとディチューンしてありますけど)それからスバルらしくそれに合わせて足回りもきっちり仕上げてくれているのでございます。結果として100km/hまで6秒ちょっとで加速して、ちょっとしたスポーツカーなんか余裕で追いかけまわせるおもろいクルマなのでございます。

 ワシはクルーズコントロールをオフにして、レクサスに合わせて加速してみました。というか別に追いかけるとか勝負するとかいうんじゃあなくて、前にクルマがいなくなることが怖かったのでございます。なしてかというと、あと6カ月でゴールド免許が戻って来るので、単独で先頭を走って警察に今捕まるわけには死んでもいかなかったのでございます。

 とうわけで、ワシは必死でというか余裕しゃくしゃくでレクサスを追走しました。パワーのあるクルマってどんな状況でもドライバーに心のゆとりを与えてくれるのです。もちろん十分な車間距離を開けて、レクサス様に嫌な思いをさせないように気遣ったつもりでした。

 そしたらそれが気に食わなかったのか、レクサスがさらにスピード上げてをワシをぶっちぎろうと(古いなあ)しているご様子でしたので、ワシはさらに気遣って車間を空けようとしたのですが、直線ではうまいこと離れて行くのですが、コーナーではすぐに詰まってしまうのでございます。

 レクサス様はライン取りがあまりお上手ではないようです。あくまでワシの主観ですが、ぐれあーっと入ってハンドルで曲がろうと、つまりアンダーを出して外にふくらんで、ハンドルを切り増すことで曲がろうとしておられるようです。典型的なトヨタ車乗り的な曲がり方なのでございます。

 コーナーリングの基本は、ハンドルじゃあなくて荷重で曲がるのだとワシは思っているいるのですが、それでもなんとかハンドルだけでもなんとか曲がってしまうところがトヨタ車のすごさというか、愚かさと言うか。

 ようするにアンダーが出て切り増しているというかタイヤに無理させているというか、あとちょっとで限界を超えてどっかに飛び込みそうとか。概してトヨタ車は、そういう危機的な状況がドライバーにまったく伝わってこないので、またドライバーもまったく気づこうとしないというか気づかないというか、ようするにトヨタ車乗りのトヨタ車による運転技能の低下のスパイラルでございます。だからワシはトヨタのクルマを運転するのが嫌いというか非常に疲れるのでございます。

 また、クルマを運転してコーナーをキレイに曲がることってとても気持ちのいいことだとワシは思っています。曲がればええっちゅうもんじゃあないじゃろう。概してトヨタ車なこういう感覚というか感性が非常に希薄で、寝そべった姿勢でもハンドルがぐるぐる回せるように手ごたえなく軽くてキックバックが少なくて戻りも悪くて路面からのインフォメーションが希薄で、それは元々トヨタ車のオーナーの好みの運転姿勢と言うかセッティングですので、ワシがどうあがいてもしっくりこない。そういうのもあってワシはトヨタ車が身体に合わないのです。第一運転しとっていっそ(まったく)楽しくない!

 そうして目の前のレクサスは、グワングワンいわせながらちっともスムーズじゃあない姿勢でコーナーを抜けて走っていく。ワシは少し離れてはらはらしながらついていく。

 そうしているうちに、前の軽自動車の車列に追いついてしまいました。

そうしたらこのレクサス様は、あきらかにどけと言わんばかりに、この善良な?軽自動車をあおり始めりじゃあないですか。

 いけんでしょう。さっきのトラックの時はいらいらはしとったんですけどこんなにあからさまにあおりはせんかった。相手が弱いとわかったらあからさまにこの態度でございます。

 この様子を見てワシは、ワシの先輩のフィラメントケイイチさんを思い出しました。強い者には弱く、弱い者には強いという典型的な小心者で、人望なく髪なく色気なく友達いない、それでも出世だけはしっかりしたあのフィラメントケイイチさんにそっくりだと思いました。しばらくあっていないけどまだ生きていらっしゃるかいのう。いかにも丑の刻参りの対象になりそうな方だけど、人形に入れる髪がないので大丈夫か。

 そうか、レクサスはフィラメントケイイチさん的なクルマだったのか。そう考えるとなぜかしっくりとくるど。ワシ悟りを開いてしまい一人で苦笑しておりました。

 レクサスは、軽自動車の後ろでしばらくあがいていましたが、しびれを切らしたのか、直線でぐわんと、わりと上手にその軽を追い越してどっかにいってしまいました。弁当屋さんまであと10分ぐらいのところで、あまりにも突然の別れで寂しさがこみ上げてきたのでありました。

 レクサス「NX300h」とエンブレムが貼ってありました。レクサスの知識に乏しいワシにはそれがどんなクルマなのか想像もつきませんでしたが、家に帰って「ドライバー」誌別冊で調べてみると、なんと600万円もする恐れ多いクルマ様だとわかりました。もはや家ですなあ。

 なんとワシのSJフォレスターの二倍の価格です。ワシのは300万円でしたから。

二倍高性能で、二倍楽しくて、二倍ワクワクして、二倍運転が上手になって、二倍速くて・・。とにかく二倍すごいクルマだということですね。

 でも中身はハリヤーなんか。へえ。見栄ハリヤーのさらに見栄を張るすごいすごい見栄見栄ハリヤーというすごいクルマだということがわかり、ワシは畏敬の念を隠し切れませんでした。

 でももうちょっと運転上手になった方がええと思いますよ。それからトヨタさんはもっと運転が上手になるクルマを作った方がええと思いますよ。大きなお世話だと思いますが。

「レクサスノウシロヲハシルトイフコト」はいろんな人生の勉強になるということでした。


追伸

レクサス乗りの上級国民の皆様。

はっきり言って、貧乏なワシのやっかみですので気にしないでください。重ね重ね申し訳ありません。でもレクサスはあんまり欲しくないのう。第一買えんし(泣)




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る