第5話
まず目に入ったのは下僕の上に覆いかぶさる男。
頭に血が上る。
しかし、ガンガンと窓ガラスを叩く音で我に返る。ボスカラスたちが部屋の窓を爪で叩いていた。
覆いかぶさる男の急所、つまり首の後ろにアタクチは飛び掛かる。
「ぎゃあっ!」
男が体を起こし、アタクチを振り払おうとした力を利用して窓に飛ぶ。
そして窓の鍵に手を伸ばした。
あーあ、アタクチの美しく整えた爪がボロボロよ。しっかり後でケアしてもらわないと。
窓の鍵が開くと、ボスカラスたちが部屋になだれ込んできた。なぜかスズメやツバメもいる。
鳥たちはいっせいに男、多分第二オージに向かって行った。
「鳥!?」
鳥たちがオージをつついたり、服を引っ張ったりして下僕から引き離してくれる。アタクチは下僕の膝にたたっと上った。
「あ、ジョゼフィーヌ!」
下僕は叩かれたのか頬が腫れていて、抵抗したのか引っ張られたのか髪がかなり乱れている。涙の跡もある。
怖かっただろう。
震えながらも下僕はアタクチに手を伸ばしてきた。ぎゅっと抱きしめられる。アタクチが助けに来たのに、この下僕はまるでアタクチを守ろうとするかのようだ。健気な下僕である。
それはそうとあの野郎。第一オージが失脚したチャンスに、この下僕の家のウシロダテが欲しいからってキセイジジツを作ろうとしたわね。てゆーか、第一オージにまだ復讐できてなかったわね、忘れてたけど。
アタクチの中で何かがキレた。
目の前が白くなる。聞いたこともない声がアタクチの口から漏れる。
しばらく、白い世界で目が見えなかった。
やっと目が見えるようになると、下僕がびっくりした顔でアタクチを見ている。
振り返ると、鳥たちは襲撃をやめ壁に沿って綺麗に並んでいた。さんざんつつかれた第二オージと途中からオージを守ろうと参戦したゴエーキシも、驚愕の目でアタクチを見ている。
どうしたのかしら? アタクチが美しいのは元々よ。
「じ、ジョゼフィーヌ?」
下僕が再度、アタクチを呼ぶ。ん? アタクチの足、大きくなってない?
「神獣だった……の?」
「神獣だ!」
うるさいわよ、そこの第二オージ。誰が口きいていいって言ったのよ。
あとなによ、そのシンジューって。真珠ならアタクチ、大好きよ。アタクチみたいに純白で綺麗だから。真珠欲しいわぁ。この美しい首にしたら映えると思わない?
その時、部屋の鏡が目に入る。
鏡には、大きくなって尻尾の数も増えたアタクチによく似た大きな白猫が映っていた。
ん? んん?
首を左右に振ると、鏡の中の猫も一緒に動く。前足を上げると、上げる。
んんん?
「やっと思い出したカァ。『堕ちた神獣』よォ」
ボスカラスが偉そうに言っているが、は?って感じだ。
しかし、大きくなったなら好都合。第二オージに向けてアタクチは唸る。
「っなぜ神獣が?」
どうよ、大きくなった美しく高貴なアタクチは。てゆーか、こいつら気に入らないから出てって欲しいわ、アタクチの家から。
すると、開いた窓からカラスが一羽入ってくる。そのカラスはニヤッと笑って、足で掴んでいたハチの巣をオージ達に投げつけた。
「ぎゃっ、ハチだ! 刺される!!」
「殿下、刺激しては駄目です! 痛っ!」
不思議なことに巣から出てきたハチはオージとゴエーキシ達しか攻撃しない。
うふふ、ざまーみろ!
アタクチはそこで下僕のドレスが少し破れていることに気付く。間に合ってよかった。
アタクチは増えた尻尾でそぉっと下僕を包む。下僕はおずおずとアタクチの尻尾に身を任せた。どぉよ? アタクチのフワフワの毛は。アタクチがあんたを守ってるのよ。
鳥たちはハチに声援を送っている。「やってまぇ~」とか。あれ? 巣を壊してたのって第一オージじゃなかったっけ? ボスカラスに視線を向けると「レンタイセキニン!」と返ってきた。同じオーゾクだからいいのかしら。
ひとしきりオージ達の醜態を堪能した後、アタクチの一息で城まで飛ばしておいた。あら、小さい体のアタクチも可愛いけれど、大きい体も便利ね。
そうこうしているうちに下僕2番達が帰って来た。その頃にはアタクチは元の大きさに戻り、下僕の膝の上で下僕に撫でられへそ天をしていた。下僕はちゃんとお着替えしたわよ。
残っていたハチの巣はネズミ達が綺麗してくれたし、鳥たちもビシッと翼で敬礼して出ていった。
「やっと戻ってくれて一安心だァ」
「なによ、戻ったって」
下僕に撫でられながら窓の側にいるボスカラスと会話する。
「お前、まさカァまだ思い出してないのカァ? 神獣化しといてェ?」
「知らないわよ、シンジューなんて。アタクチはジョゼフィーヌよ」
「そーゆー傲慢なとこは変わってないんだけどなァ。まぁこれカァら大変になるぜェ」
ボスカラスは確信めいた言葉を残し、高笑いしながら飛び立った。
なによ『堕ちた神獣』って。アタクチはジョゼフィーヌよ。そんなダサい名前なわけないでしょ。
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