第2話

アタクチがいつも眠るベッドもふかふかだけど、下僕のベッドの寝心地もなかなかだ。

下僕がガクエンというものに浮かない顔で行くのを、この高貴なるアタクチが見送ってやった。下僕は嬉しそうにアタクチをナデナデして、ガクエンに向かった。


下僕の母親が近づいてくるが、こいつは無視する。だって香水臭いんだもの!!

あと、下僕の父親は加齢臭がするから嫌いだ。高貴なるアタクチに臭い者が近づくなど言語道断! 頭が高い!

アタクチは優雅な足取りで庭に出る。下僕のお屋敷ということはつまり、アタクチのお屋敷だからどこに行くのも自由だ。


「ちょっとぉ、いるんでしょ! 聞きたいことがあるんだけどぉ!!」


一際高い木に向かって呼びかける。下僕達にはニャアニャアというアタクチの鈴のような綺麗な声が聞こえていることだろう。


「朝カァらうるっせーなァ」


バサッと地面に黒い影が落ちる。地面から近い枝に姿を現したのは、羽根の艶が一番美しいカラスだ。体も他のカラスに比べて大きい。ボスカラスである。勝手にアタクチがそう呼んでいるだけだけど。


「あんた、うちの下僕のコンヤクシャの第一オージについてなんか知ってる? 浮気してるらしーんだけど」

「あァ? それが物を聞く態度なのカァよォ?」


高貴なるアタクチが聞いてんのよ! この性悪カラス! アタクチの下僕の一大事なのよ!


「ハァ」


カラスは下僕のようなため息をつくと、一声鳴いて空に飛び立つ。

ちっ、役に立たないわね。


その辺のモグラ叩いて聞いてもダメだろうし……そうね、ネズミでも捕まえて城に忍び込ませればいいわね。あらアタクチ、ネズミなんて食べないわよ。まずいじゃない。アタクチ、下僕達からもっとおいしいものを毎日献上されているもの。


ネズミを探しに行こうとしたら、さきほどのカラスが戻って来た。


「てめェ、聞いといてさっさとどっカァ行くとはいい度胸だァ」

「あら、あんたが尻尾巻いて逃げたかと思ったのよ」

「ちげぇよォ。ほカァのカラスに聞いてたんだァ」


ボスカラスに同意するように他の木にいたカラスが一声鳴く。


「あら、役に立つじゃない。ありがとう」

「……おめーに礼を言われるたァ、寒気ガァするぜェ。仲間に聞いたらァ、第一オージは他の女に入れあげてるらしいぜェ。次のパーチィってやつでここの姫さんとのコンニャクハキするってェ、計画を立ててるようだァ」


思った以上にいけすかない奴だった。やっぱり、アタクチの直感は素晴らしいわ。

美しい上に賢いなんてアタクチ、なんて罪なのかしら。


「国王ヘーカとカァちょうどいないらしいぜェ。ショーコもでっちあげるんだとォ。城の庭に出入りするカラスカァら聞いた話だァ。間違いねぇなァ」

「アタクチに教えて良かったの?」


呼びつけといてなんだが、こんなに情報をもらえるとはアタクチも思っていなかった。


「ふん。あの第一オージって奴ァ、子供の時から仲間の巣を壊したり、仲間に石投げたりしてんだァ。あのオージの取り巻きも一緒になって仲間の子供を殺されたこともあらァ。恨みガァあんだよォ」

「あら、高貴なるアタクチの下僕には随分不釣り合いな最低な人間だこと」

「なんカァするならオレ達も噛ませてもらうぜェ」

「あら、アタクチはアタクチの下僕にしか興味がなくってよ。あんた達は好きにしなさい。邪魔はしないわ」

「ふん。なんだ。思い出したのカァと思ったぜ」


何こいつ変なこと言ってるのかしら。もうボケてるのかしら。

カラスから情報を貰った賢くて美しいアタクチは、念のためネズミ達にも協力してもらって裏どりをした。あら、脅してないわよ。だってネズミ、まずいから食べないもの。

ネズミのネットワークも広いのねぇ。すぐ情報が集まったわ。


「コウシャク家の残飯は美味しいんでチュウ!」

「オイラ達もがんばるっチュウ!」

「チュウゥ、お願いだから食べないでください~」


って感じで快く協力してくれたわ。

ネズミたちは部屋の天井に侵入できるから、情報をたくさん持ってるわね。


で、整理すると。

どうやらあの第一オージは次の卒業パーチィとやらでコンニャクハキをするらしい。

オージの浮気相手がシンジツの愛の相手だとか。で、うちの下僕が彼女をいじめていたというショーコをでっちあげて、バンザイじゃなかった、ダンザイするらしい。


アタクチの下僕がいじめなんてするはずないじゃないのよ~!!!

アタクチの下僕なのよ? 本気出したらそんな女、死んでるわよ! 部屋でメソメソ泣いてないわよ!


あら。ふぅふぅ。深呼吸。

高貴なるアタクチとしたことが、アホな人間どものために怒るなんて無意味だったわね。

よし、そうと決まれば。あの下僕2番に接触しましょう。

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