堕ちた神獣伝~高貴で傲慢なジョゼフィーヌ~
頼爾
第一章 アタクチはジョゼフィーヌ
第1話
アタクチの名前はジョゼフィーヌ。
アタクチほど高貴で美しいネコ様はいなくってよ。
見て、この純白の美しいふわっふわな毛を。思わず触りたくなるでしょ。可愛らしく頭にのったお耳を。
しゃなりと伸びた尻尾を。そしてくりっとパッチリとした金色の目を。
アタクチの美しさは外見だけではなくってよ。
今それを語ってあげてもいいんだけど。でもねぇ、アタクチの下僕がなんか最近元気なくって。アタクチ、とぉっても優しいからどうしても気になってしまうのよ。
あんなに何回もため息を吐かれた日にはねぇ、何かあったと思うわけ。
「はぁ……」
ちょっとぉ、アタクチと一緒にいるのにため息とはどーゆーことなのよ!!
むかついて下僕が広げた難しそうな本の上に寝転ぶ。
「あ、ごめんね。ジョゼフィーヌ」
そうよ、分かればいいのよ。そうそう、お前のそのマッサージ、気に入ってるのよ。
んーー、そうそうそこそこ。頬っぺたって意外と疲れるのよねぇ。
高貴なるアタクチはいつも笑みをたたえているからかしらね。
ポタリ
何かがアタクチの美しい毛に落ちた。
ちょっとぉ! まさかあんた、アタクチの美しい毛並みの上になんか落としたわけ!?
アタクチの毛を汚すなんて万死に値するのよ!!
ガバリと起き上がり、下僕を睨みつける。でも、次の瞬間アタクチは呆気にとられた。
下僕が泣いている。
下僕が泣いているところなんてここ最近、見たことない。というかここ数年以上見ていない。だってこの下僕、この国のオーヒとかいうものに将来なるらしく、めちゃくちゃ勉強してたもの。マナーとかいうものだって、すっごく厳しくされていたし。いっつも嘘くさい微笑みを浮かべてたわ。なんであんなのが良いとされてるのかしらね。
まぁ、高貴なるアタクチの下僕なら将来のオーヒとかいう偉いものになってもらわないと釣り合わないし、困るわよね。
この下僕、今はコウシャクレージョーというまぁまぁ偉い立場らしい。この国では上から何番目かに偉いんですって。ま、アタクチの下僕なら国一番くらいにはなってもらわないとね。
その下僕が今、アタクチの目の前で泣いている。子供のころから一緒にいた下僕が泣いている。
アタクチは大いに動揺していた。なんなのだ、この気持ちは。
たかが下僕。アタクチのお気に入りの下僕が泣いているだけジャナイ?
アタクチはどうしていいか分からなかった。高貴なるアタクチ、有能なアタクチなのに下僕が泣いていてどうすればいいか分からなかった。
しかし、ここでさっとおやつを食べに行くアタクチではない。すごすご逃げるなんて無能なネコのすることよ!
アタクチは恐る恐る、下僕の手に自分の手を重ねた。アタクチの美しい真っ白なおててを。
ふん、アタクチから触ってあげるのだから。さっさと泣き止めばいいのよ。
お前の涙、ちょっとばかし綺麗だとは思うけどアタクチの足元にも及ばなくってよ。
「ふふ。慰めてくれるの? ありがとう……ジョゼフィーヌ」
人間にしては長いまつげを伏せて下僕は辛そうに笑う。そういえば最近、こんな辛そうな表情ばっかりだ。
うん? 最近?
下僕がおかしくなった日を思い返す。
有能で賢くて美しいアタクチだから、すぐ思い出せるわ。そうよ、あの日。
あのいけすかない男がアタクチの家に来てからだわ。下僕のコンヤクシャだとか言うあの第一オージよ。
いっつもニヤニヤしてアタクチを下にみてくるのが嫌だったわぁ。アタクチにおやつも献上しないのよ。
それに、あの日。
あいつから他の女の匂いがしたわ。なんて気持ち悪い男って思ったもの。ネコの発情期よりも始末悪いじゃないの。
「あの方は私以外に好きなお方がいらっしゃるのよ」
ちょっとぉ、下僕! お前! このアタクチの下僕なのに他の女にコンヤクシャとられてるんじゃないわよ!
でも、待てよ。
あの第一オージ、最初からいけすかなかったわ。アタクチと一度たりとも遊ばないし、跪かないし、褒めないし、撫でないし、マッサージしないし、おやつも献上しないのよ。
あんなのがこの下僕とこのまま結婚したらろくなことないわ。だって、結婚したらこことは別のお城に住むって聞いたもの。
ここのお屋敷のメイドとか侍女とかいう名前のたくさんいる下僕達は、なかなか優秀だわ。
アタクチに敬意をしっかり払うもの。美味しいおやつも献上するし、ブラッシングも丁寧でうまいわ。でも、他の所に行ったら質の悪い下僕しかいないかもしれないわ。
ふむ。
あらアタクチ、いいことを思いついたわ。でも、まずは情報が必要ね。
あら、下僕。やっと涙が止まったの?
仕方ないから今日は一緒に寝てあげるわよ。特別出血大サービスよ。
この高貴なるアタクチと一緒に寝れるんだから、いい夢みなさいよね!
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