第31話 初めての緊張

「今はこの機械で曲を選べるんですね……便利です」


色々とカラオケについて、水瀬さんからの質問に答えつつ、操作端末についても話すと、心底驚いたように感心する水瀬さん。


「もしかして、番号を入れる感じを期待してた?」

「お祖母ちゃんがそう説明してくれました」

「なるほど。一応その方法でも出来るけどね」


一昔前だと、今のように端末から曲を選んで予約するというやり方ではなく、曲の番号の書かれた本から番号を確認して機械に入力して曲を予約するやり方が主流であったらしいので、その頃からしたら革新的と言えるかもしれない。


「水瀬さんは普段音楽は何を聞くの?」

「えっと、実はあんまり音楽は知らなくて……弟と一緒に見たアニメの曲とか、テレビで流れるような少し有名なのしか分からないんです」

「弟さん確か今、小学生だっけ?」

「はい、そういえば昨日、凄くカッコイイ高校生に助けて貰ったってはしゃいでましたね。何でも、怖い人から守ってくれたとか」


へー、何処にでも好青年は居るものなんだなぁ。


……ん?小学生の弟さん、昨日、高校生、助ける……はて、何か引っかかるような……


「蒼井くん、お先にどうぞ」

「いいの?」

「はい、実はまだ決まらなくて……」

「そっか。ゆっくり焦らず選びなよ」


本当はレディーファーストを心掛けるつもりだったけど、こうして待ってる方が急かしてるようにも思えるし、俺が先に歌った方が気楽に選べるかもしれないと俺はとりあえず、水瀬さんが知ってそうな曲をチョイスしてみる。


「あ、これテレビで前に見ました」


前奏の部分の反応でとりあえず一安心しつつ、珍しく歌うのに緊張してる自分に思わず内心で苦笑してしまう。


(昨日はこんな感じにはならなかったのになぁ……)


人前で歌うのにはかなり慣れてるし、変に緊張する事はなかったのに、水瀬さんに歌を披露すると考えると自然と緊張してしまうから不思議だ。


そして、その緊張をバレないように笑みを浮かべ続けるのも初体験かも。


水瀬さん相手だと、優しい笑みが心から浮かべられるのだけど、対人でここまで内心ドキドキするのは、水瀬さんだけかもしれない。


受験の時だって、試験の時だって、面接の時だって、緊張なんてしたことなかったのに、好きな人相手だとそう思えるのだから、心が死んでいた俺をまともにしてくれるのは水瀬さんだけなのだろう。


そう思いながら俺はラブソング(有名で誰でも知ってるので必然的にそうなった)を水瀬さんの前で歌ったのだけど、内容よりも俺の歌の方が気に入ってくれたのか曲を選ぶのを忘れて俺をキラキラした目で見てくる水瀬さんがとにかく可愛かった。









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