第26話 前座の帰り

「じゃあなー、春斗」

「うん、またね」


何とかクラスメイト達とのカラオケを終えて、解散となって一息つく。


付き合いでカラオケにはよく来るけど、毎回そこまで楽しいとは思えないので、終わるとやはりため息をつきたくなる。


まあ、明日の水瀬さんとのカラオケには、かなりワクワクしてるんだけど……やはり、相手が水瀬さんというだけで、自分でも不思議なくらいに気分が昂揚するので、この短期間にかなり水瀬さんにのめり込んでいるのだろうと苦笑してしまう。


「おうおう、小僧。大人しく金だせば痛い思いはしなくて済むぞ」

「こ、これはお使いに必要なものなので……」

「『お使いに必要なものなので』だってさ!」

「「「ギャハハ!ウケるー!」」」


そうして、明日の用事にワクワクしながら帰宅していると、ガラの悪い中学生くらいの不良少年が数人で小学生くらいの男の子をカツアゲしようとしている現場を目撃する。


何故に年下からカツアゲ?と、一瞬思ったけど、半端な髪の染め方や身なりから、弱い相手にしか強く出れない類なのだろうと察すると俺はため息をつきながら、不良少年達に近づく。


「おら、大人しく金だせや。そうすれば……」

「そうすればどうなるのかな?」

「あぁん?何だてめ――ひっ!」


190cm近い、そこそこ体格の良い俺が見下ろすように圧をかけると、それだけで不良少年達はすくみ上がってしまう。


普段は温和で爽やかな笑みを意識しているけど、どうやらこの体格で凄むとかなり怖いらしい。


小、中学校の頃にその事を知ってから、大抵の面倒な相手をこうして追い払うのが当たり前になっていたのだけど、この不良少年達も例外ではなかったようで、あっさりと逃げ出してしまう。


「君、大丈夫?」

「あ、ありがとうございます……」


ホッとしたように笑みを浮かべるその子は、俺が凄んだ様子にはまるで怖がってなくて、そこも不思議だったのだけど……それ以上に、俺はこの子に既視感を抱いたことに首を傾げる。


以前どこかで、この子を見たことがあるような……いや、それよりも、もっと身近で知ってる人に似てるような……その雰囲気に少し首を傾げつつも、近くの自販機で冷たいジュースを買うとその子にそれを渡して言った。


「お使い、これからなんでしょ。大変だろうけど頑張って遂行してね」

「あ、あの、これは……」

「餞別だよ。買ったばかりだし、冷たいうちに飲むといいよ。じゃあね」


きっと、『知らない人から物を受け取らない』という親御さんの教育も受けてそうだけど、目の前で買って他意もない渡し方をして、優しく微笑んでおいたので、少なくとも気分直しくらいにはなるだろうと思いながら、俺は家へと帰宅する。


明日は水瀬さんとの初カラオケ……楽しみだなぁ。








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