第13話 出てくれた意味

 私は映像の中の、白いぬいぐるみを見つめながら、恐怖を感じていました。

 可愛い白いぬいぐるみが、かえって恐く感じます。

 クリッとした黒い目は、かわいいはずなのに、何だか深い闇の様に感じます。

 三枚目のディスクの映像に嫌な感じを覚えながら映像が終わり、廃墟の映像の入ったディスクに入れ替えました。


 流れる映像を見ながら、私は頭の中で別の事を考えています。

 それは、私がなぜこんな恐い映像を見るようになったのかについてです。


 ――いつから見るようになったのかしら。

 最初はテレビでした。

 色々な、不思議な現象を特集している番組だった。

 UFOやUMA、そして幽霊、心霊写真。

 幽霊なんて本当にいるのかしら。この疑問がきっかけ。


 漫画家を目指していた私は、自分の目で見た幽霊の漫画を書けば、面白いのじゃ無いかと考えたのよ。

 そしていつか、皆が恐いと言ってくれるホラー漫画が書きたくて始めました。


 映像は、進みます。

 相変わらず鳥肌が止りません。

 私は、資料として、心霊ビデオ、最近ではユーツベで大量の映像を見ています。

 この映像は、今のところその中で一番恐い。


「すごい映像よね。現地ならもっと恐かったはず」


 私は、建物自体からまず違和感を覚えた。

 昼間の二階の様子と、夜の廃墟全体からの恐ろしい感じ。

 きっと何かを見落としている。

 そして、スピリットボックスの声、ここでも何かを感じた。


「そういえば、安崎さんは髪の長い少女って言った時、すごく怖がっていたわよねー」


 なんだか私は、なにか安崎さんがまだ、秘密を隠しているような気がしました。

 そして、もう一度ディスクを入れ替えます。

 映像はザブさんの自宅に変わります。

 真っ暗な部屋です。

 隣の部屋からザブさんの寝息とうめき声、そして闇の中に響く音。


 光が入った無人の部屋。

 そして、一瞬見える人影。


 ここで私は、全身に悪寒が走った。

 全身に弱い電気が流れるような感じ。

 とっさに人影が、何かを伝えたがっている感じがした。


「だ、だめよ、わからない」


 私は、映像の中に話しかけていた。

 そして、ハッとした。

 すでに、明るくなっている部屋の、人影があった所から視線を感じたのです。

 私は体の震えが収まらなくなり、いったん映像を見るのをやめました。


「うふふ、この感じ久しぶり」


 私は以前、同じ思いをしたことがあります。

 その映像は、廃神社を写した映像でした。

 草に覆い尽くされた境内を、淡々と写しただけの映像でした。

 しかも昼間明るい時に撮影された映像です。


 参道と鳥居は石で出来ている為、そこまで朽ちていませんが、その他の場所は、一面緑に染まっています。

 その映像は特に怪現象が映っているわけでも無く、撮影者の声も無く、ただ歩く足音が入っているだけの、廃神社を散歩しているだけの映像でした。

 でも私は、寒気が収まらず、ずっと嫌な感じがしていました。

 そして、崩れ落ちたお社を写した時に、強い吐き気に襲われて、映像の再生を止めたことがあります。

 その時以来です。


 ふふふ、私に映像を止めさせるとはすごい映像です。

 余裕をかましていますが、本当はもう見たくなくなっています。

 でも、気合いを入れてもう一度再生し始めます。


 いよいよ明るい部屋の中央にザブさんが座っている映像です。

 ザブさんがすぐに眠ります。

 そして、あの音です。


 ガチャーーン!!


「ぎゃああああああーーっ」


 ザブさんが驚いて、手足を動かします。

 その時カメラが倒れて、あの人影が見えます。


「あーーっ」


 私は声を上げてしまいました。

 あの子の姿が見えたのです。


「もう一度出てくれたのね」


 恐らく何度再生しても、黒いぼやっとした影なのでしょうが、でも私の目には、はっきり見えました。髪の長い、鼻と口しか見えない少女の姿が。

 でも何故、ここで


「だめよ、それだけじゃ、わからない」


 私には出てくれた意味がわかりませんでした。

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