第10話

「どうしていつも僕ばっかり……って、ねえ、梁間ハリマ?ちゃんと聞います?」

精一杯の我慢をして留守番をしていたレンは、『世界樹のホワイトボード』の前で、梁間ハリマに絡みついている。梁間ハリマが留守番中のレンをなだめるための「帰ったらゆっくりお話しよ?」という発言は、改ざんされることなく生きており、それだけを楽しみに待ち構えていたレン梁間ハリマの姿を確認するなりこうして梁間ハリマの身体に巻き付き、愚痴をこぼし続けていた。

「でもさ、今回やばくなかった?」

「マジそれな?加賀美……あれマジもんのバケモノだったっしょ?」

「そうそう、カナデ死にかけたしね?」

「そうそうっ……ておい。あれは、まあ……ちょっとした油断というか……だあっ!マジで冴李サイリが居て助かったわ」

レンが絡みついたままの梁間ハリマとともにこの部屋にやってきた世津セツカナデは、すっかりいつもの調子を取り戻している。

「もちろん俺にも感謝してるよね?」

世津セツ世津セツは……何かしたっけ?」

「はあ?そもそも俺のuniqueユニ使わなきゃ全滅不可避だった!」

「はいはい。そうですね……ってか、冴李サイリ碧志アオシは?」

「あー、二人とも疲れたから先に休むって」

「まじか……だよなあ」

「二人とも今回めっちゃチカラ使っちゃってたし。大丈夫かな?」

「それはね、大丈夫だって碧志アオシが言ってた。碧志アオシは寝れば回復するし、冴李サイリには、何か良く効くクスリだかハーブだかを見つけたんだってよ」

「ふうん。ならいっか。じゃあ起きた頃に全力で労おう!」

カナデは突っ走って迷惑かけた分、全力以上の誠意が必要ですな?」

「っく、世津セツ……俺が一番反省してるから、もういい加減にしてくれよ……」

「まあ、色々あったけど、あの女の子が無事でなにより」

「確かに。つーか、縷希ルキの威力まじ凄いよね?バケモノみたいになったあのおばさんが、一瞬で灰に……」

「悪者だったとしても、あれはやりすぎちゃったかな?」

「やりすぎもなにも、縷希ルキくんは調整できないんだから仕方ないんじゃない?それに『世界樹のホワイトボード』から相関図もなくなってるし、何より……」

7人が揃い、詳細な相関図が展開されていたはずの『世界樹のホワイトボード』には現在、「MISSION COMPLETE!」とだけ大きく書かれていた。

「これからも、こんな依頼ばっかなのかな……?」

「何?世津セツビビってんの?」

「そういうわけじゃっ……ない」

「もしかしたら、加賀美がラスボスで、僕が7人を揃えたから、全てクリアって可能性もありますよね?」

レン、てめえはすぐそうやって……でもまあ、その考え方は嫌いじゃない」

「まあ、一件落着なのは間違いないしね」

「あっ!そうだ。縷希ルキの加入祝いやってなくね?」

「たしかにー」

「うそっ?そんなのやってくれるの?」

「だってさ、俺ら、かけがえのない仲間っしょ?」

カナデ?それ揶揄ってる?」

「やめっ、マジそんなつもりじゃねーし!」

「ごめんごめん。何か言い方がね?」

「うわあ、萎えた。もういいよ、冴李サイリたちの労いも兼ねて皆の金で豪遊してやるっ!世津セツ縷希ルキ梁間ハリマたちは置いて、買い出し行くぞ」

「えっ、僕も行きたい」

「もう、カナデはやっぱ突っ走るじゃん。その調子だとまじで散財しかねん……レンレンも連れて、皆で行くよっ……!」


繁華街の喧騒を背に一度ひとたび出逢えってしまえば、非日常は日常に。住む世界が変われば常識も変わる。初めて曲がる角の先に在る世界は、もしかしたら夢物語のそれなのかもしれないけれど、それは今のあなたが知らないだけで、確かに存在し得るのかもしれない。


【了】

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backbone-drops 穂津実花夜(hana4) @hana4

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