第10話 終幕のムキデレラ

「まさかクイックステップをご存じとは!」


 ムキデレラはクイックステップを全く知りませんが、どうやら“やんのかステップ”に似たダンスがあるようです。


 捕らわれた黒い連中が連行されていくのを横目にしながら、ぐるんと回り、軽快に跳び跳ねてホール中を駆け回りました。

 体力に自身があるムキデレラでしたが、男のほうも全くへばる様子がありません。

 見た目からは分からないが、どうやらこの男も鍛えているようでした。


「やるじゃないですか」


 そうムキデレラが笑えば。


「君もね」


 と男も笑いました。


 そんな感じでいつ勝負がつくのか分からないまま二人は躍り続け、周りの人達が体力切れで動けなくなった頃、ゴーンとお城の鐘が鳴りました。

 この鐘は6時と12時の、1日4回鳴る鐘でした。

 とするならば、今の時刻は12時。

 ムキデレラは足を止めます。


「どうした?疲れたかな?」


 ムキデレラは男の手を離しました。


「申し訳ないですが、お時間です。この勝負は預けました」

「へ?」


 ムキデレラは門へと歩き始めます。


「待ってくれ!!まだ君の名前も!いや、それよりも顔すら私は知らない!!12時だからなんだというんだ!まだ夜は長いぞ!!」


 そんな男にムキデレラは言いました。


「夜更かしは筋肉の敵ですよ☆」


 それでは!とムキデレラは馬に飛び乗り、颯爽と駆けていきました。

 大臣が大慌てで騎士達に追いかけさせたようですが、閉じた門を拳で破壊された挙げ句、途中で見失ってしまったようです。






 その報告を聞きながら、王子は、ふとカーテンの下に輝くものを見付けました。

 それは、彼女が刺客に向かって投げ付けたヒールの片方でした。


 ふ、と王子は笑みを浮かべると、ヒールを大臣に渡します。


「このヒールが合った者と、私は結婚しよう!」









 その翌日、国は大騒ぎとなっておりました。

 襲撃の事もそうですが、それより何よりも、ヒールが合った者と王子が結婚すると宣言したからです。


 我こそは我こそはと名乗りを上げるものが多発しましたが、ヒールを見るなり皆諦めた顔になりました。

 なんとそのヒールは男性ものかと思う程に大きく、並の女性だと絶対に履けなかったからです。


 それでも一応挑戦してみたいと、女性達は順番に試していきました。





 そんなことは汁程にも知らないムキデレラ。

 いつものように家事をこなしております。


「隠す気すらないんかい!!」


 と、アナスタシアお姉さんから言われましたが、何の事だか分からずにムキデレラは首を傾けました。

 お姉さんの目の前には昨日着たドレスがはためいております。


「はぁ。もういいわ。ムキデレラ、こっち来なさい」


 呼ばれたムキデレラが向かいますと、そこには自分のヒールを持った男がおりました。

 昨夜ダンス勝負をした男です。


「おお!!」


 男が目を見開き笑顔になりました。


 後ろでお義母さん達がコソコソと話します。


「ムキデレラ、出して良かったの?」

「いいのよ。昨日、だいたい皆あれを見て「あ、ムキデレラだ」って気付いてたでしょ。それに閉じ込めても無理よ。何処に閉じ込めるっていうの?鍵すら意味ないのに」

「塔に閉じ込めても、壁使っておりてくるものね…」


 何の話でしょうか。


「さ!ここに腰掛けて!」


 男に言われた通りに椅子に座ると、ムキデレラの足にヒールを履かせてきました。

 すると、男達はムキデレラの足にぴったりとヒールが装着されたのを見て大喜び、大臣と伝書鳩係りはベルを鳴らして知らせを飛ばしていきました。


 男が柔らかく微笑みます。


「ああ、君はそんな顔をしていたのか」


 そう言えば昨夜は虎の被り物をしておりました。


「是非とも私と一緒に来て欲しい」

「昨夜の勝負の続きですか?」


 そうムキデレラが言えば、男は笑顔で答えます。


「はい、昨夜の勝負の続きです」





 こうしてムキデレラは城へと迎え入れられました。

 王子の命の恩人ということもあり、王様もムキデレラの事を大層可愛がり、望んだトレーニング器具をたくさん与えられ、王子と一緒にトレーニングをしながら二人は幸せに筋肉ライフを過ごしましたとさ。

 めでたしめでたし。












 追記、お義母さんやお姉さん方も、夜な夜なムキデレラの無遠慮なトレーニングや、唐突な鼓膜破壊の危険が無くなり、平穏な日々を送りましたとさ。


 これにて終幕!!!!!!!



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突撃☆ムキデレラ!!! 古嶺こいし @furumine

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