最終話 先生、勇者になる

 「我が友~♪ 僕とパパと一緒にお風呂に入ろ~♪」

 「先生~♪ お風呂の時間なの~♪」

 「いや、テディとジュニアはどうやって家に来てるのさ?」


 夜、ケイの部屋のドアが開くとテディとジュニアが風呂道具を持ってやって来た。


 「王家のお城と先生のお家は魔法で繋がってるの♪」

 「我が友も聖母様も、国のじゅ~よ~じんぶつだから僕らでお守りするの♪」

 「家のセキュリティが国家レベルだよ~!」


 大人になった弟子とその息子に連れられて、王家の白い大理石でできた豪華な浴室に入るケイ。


 三人で頭や体を洗い湯に浸かりと過ごす、その間メープルとベアトリスは女王様とお茶をしているらしい。


 ケイは王家に風呂を借りに行くと言う、前世ではありえないレベルの少年期を過ごしていた。


 「ああ、先生達はお風呂から出たのね♪」

 「はい、皆♪ お風呂上りの牛乳は用意できてるわ♪」

 「あなた♪ ジュニア♪ こちらへいらして♪」


 メープルとベアトリスと女王様の女性陣も加えて、皆で風呂上りに牛乳を飲む。


 ケイは幸せの味を噛み締めていた。


 翌日、講堂に集められたケイ達生徒に壇上のベアトリス校長が言い放つ。


 「皆さん、明日は楽しい遠足です♪」


 ベアトリスの言葉に生徒達が歓声を上げる。


 「ですが、でどう楽しく過ごして皆で無事に帰って来るかを学ぶ勉強でもあります♪ 外からの持ち込みは禁止ですが、魔法やアイテムで食べ物や飲み物を増やすのはありです♪」


 続けてベアトリスが遠足のルール説明をする、それを聞いたケイはベアトリスが魔法でお菓子を増やしたりしたのを思い出して心の中で笑った。


 そして当日、共通の茶色いリュックを背負った黄色ケープの少年少女達が野道を歩いて行く。


 生徒達を引率するのは、灰色の肌をした四体の逞しい男性型の教師ゴーレム達。


 「これから花畑の山に入ります♪ 皆さん、はぐれないように固まって歩きましょう♪」


 「「は~~~い♪」」


 辿り着いた小山の入り口で先生が告げる。


 「「遠足、遠足、楽しいな~♪」」


 ケイとジュニアを含めた十人の生徒達は歌を歌いながら、牧歌的な山道を進み無事に目的地である色とりどりの花が咲く花畑に辿り着いた。


 「我が友~♪ 綺麗なお花がいっぱいなの~♪」

 「そうだね~♪」

 「パパや、校長先生達も来ればよかったのにね~?」

 「お仕事があるから仕方ないよ、別の日にお願いして連れて来てもらおう♪」


 ケイは、ここが前世でジュニアの父であるテディ達を連れて行った場所だと思い出した。


 そして、この辺りはモンスターも出没する事も思い出すがテディ達が狩ってれているはずだから早々出てはこないだろうと安心していた。


 「それでは皆さん、シートを敷いてお弁当にしましょう♪」


 「「わ~~~い♪」」


 先生の合図に従い、シートを敷いて弁当やおやつに水筒を出して食べだす生徒達。


 「我が友~♪ 僕と一緒に食べよ~♪」

 「うん、良いよ~♪」

 「ジュニアとケイ、何か仲いいよな?」

 「幼馴染だもんね、王子様と聖母の御子様だし」

 「アニーと、ポンタもこっちで食べるの~♪」

 「へ~い♪」

 「おまねきありがとう、王子様♪」


 ジュニアにも親しい友達が出来て来たなと微笑み、内心保護者面になるケイ。


 赤毛の少女アニーと、丸顔の少年ポンタも加えてのランチタイム。


 支給された弁当の中身は皆同じだた。


 メインはパン、肉はハンバーグに付け合わせはポテトとトマトとスパゲティ。


 サラダはレタスやニンジンに玉葱などバランス良く、飲み物は牛乳と水。


 おやつは、ごほうび飴とチョコクッキーが五個ずつ。


 生徒達の四方に立った教師ゴーレム達が周囲を警戒して、皆を見守る。


 皆が楽しいランチタイムを過ごしていた。


 「……我が友? 何か嫌な予感がするの!」

 「ジュニア、どっちの方角?」

 「あっちなの! 皆、警戒態勢なの!」


 弁当を食べ終わり、皆が後片付けを終える。


 さて、皆で家に帰ろうかと集まった時にジュニアが何かを感じて指をさした!


 その方向の大地が揺れ、地中から大きな黒いトカゲのモンスターが現れた。


 「図鑑で見たの! あれは、ブラックリザードなの!」

 「先生達は、皆を連れて逃げて!」

 「え、我が友っ? 何処へ行くの~っ!」

 「僕がモンスターを引き付けるっ!」


 ケイは気づいていないが、教師ゴーレム達の中にあるスキルはケイをまだ主人だと認識して彼に従った。


 ケイはブラックリザードへと向かい走り出した、前世の力はないけれど皆を守りたかった。


 皆を守る為に戦うと決めたケイの額に、光輝く剣の紋章が浮かび上がる。


 「出ろっ! 光の聖剣、勇者ブレード!」


 ケイの手に刀身が青く光り輝く両手剣が握られていた、前世の約束通り女神が彼に勇者の力を与えていたのだ!


 そんなケイに向かい、ブラックリザードが口を開けて黒いブレスを吐き出す!


 「頭に使いが流れて来る、勇者ブレードなら守れる!」


 ケイの持つ劍がブレスに触れるとブレス攻撃を霧散化させた、それと同時にブラックリザードにどこからか光り輝く岩が飛んできてぶつけられた。


 「え? もしかしてジュニア?」

 「我が友をいじめるななの! 僕だってパパ譲りの勇者パワーがあるの!」

 

 岩を投げたのはジュニアであった。


 「ありがとう、ジュニア♪ 止めだ、勇者スラッシュ!」


 ケイがよろめいたブラックリザードに近づき、光り輝く聖剣を振るいその首を叩き切って仕留める。


 「やったの、我が友~っ♪」

 「ありがとう、ジュニア♪ ジュニアも勇者の力があったんだ♪」

 「えっへん♪ 僕は、投球の勇者なの♪」


 敵を倒してハイタッチするジュニアとケイ。


 二人が倒したブラックリザードの首を抱えて持ち帰って来たの見て、拍手するまだ勇者の力に目覚めていない生徒達。


 ケイとジュニアが遠足から家に帰ると、クラッカーが鳴らされて出迎えらえた。


 「「おかえりなさい♪ そして、おめでとう♪」」


 「え? テディにベアトリスにメープル、女王様も?」

 「ただいまなの~♪ 遠足楽しかったの♪」


 ジュニアは呑気に挨拶をすると、テディが近寄りジュニアとケイを抱きしめた。


 「二人ともお帰りなさいなの♪ それと、勇者の力の覚醒おめでとうなの♪」

 「うん、ありがとうテディ♪」


 ケイはテディに礼を言う。


 「先生とジュニアの活躍は聞いたわ♪ 二人とも流石ね♪」

 「女神様、ちゃんと先生に勇者の力を与えてくれていたのね♪」

 「それでは、皆でお祝いの御馳走をいただきましょう♪」

 「二人共ごはんをたくさん食べて、大きくなるの~♪」

 「わ~い♪ 我が友~♪ 食べよう~♪」

 「そうだね、いただきますをして食べよう♪」

 

 メープルにベアトリスに女王様、テディもジュニアも皆笑顔になった。


 ケイはこの暖かい家族や仲間達と、冒険の勝利を祝った。


 後に多くの勇者達を導き率いて、世界を救った大英雄。


 教導の勇者ケイの、幼き日の物語である。

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勇者の先生、転生して教え子に新たな勇者に育てられる ムネミツ @yukinosita

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