第6話 (その12)

「馬鹿! やめろ!」

 誰かが叫んだが、遅かった。放たれた銃弾がメアリーアンに命中したところで、傷を負わせることなど出来ないのは相変わらずだった。それ以上に、兵士達が密集していたところに飛び込んできたメアリーアンに向けてむやみに発砲したので、流れ弾が周囲にいた他の兵士達に容赦なく襲いかかったのだった。跳弾を足や脇腹に受けて、彼らは苦悶のうめき声をあげた。

 それはまさに混乱の極みと言えた。

 兵士達は完全に浮き足立っていた。階上にいた兵士達はとにかくメアリーアンから離れようと階段を下りようとするが、下が詰まっていて思うようにはいかない。そんな慌てふためく兵士達に、メアリーアンの方から向かいかかっていくのだった。その腕は気がつけばほっそりとたおやかなそれではなく、指の先が猛禽の鉤爪のように鋭くとがった形状に変容していた。彼女はその爪を振り回しては、兵士達をなぎ倒したり、掴みかかって壁や階段の下に投げ飛ばしたり、次々に兵士達を倒していくのだった。

 兄が彼女を、大事な作品だと言った理由が、私にも少し分かってきた気がした。

 いつからそうなっていたのか、背中の羽根の付け根の辺りから二本の紐のような形状をしたものがぶら下がっているのが見て取れた。淡く燐光を放ち、まるで意志ある生き物のように鎌首を持ち上げたそれは、恐慌をきたし銃を放り出して逃げ出そうとする兵士達に向かって、ゆっくりと伸ばされていく。その先端が鋭利な刃物のような形状に変わったその瞬間、メアリーアンはその触手のような器官を、まるで投げ縄のように、勢いをつけて振り回し始めた。

 背後から足を切断された兵士が、勢い余って前方にいる他の兵士を突き飛ばすようにして階段を転がり落ちていく。その兵士に足を取られたり、背中を押された他の兵士達も足を踏み外して階段の途上で転んだかと思うと、立ち上がろうと上体を起こしたところをメアリーアンの触手が串刺しにしていくのだった。

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