第6話 (その11)

 弾倉が空っぽになるや、彼女はゆっくりと立ち上がり、首を締め上げていた兵士の身体をそのまま片手でひょいと持ち上げて、無造作に投げ飛ばした。兵士はあらぬ体勢のまま壁の柱に叩き付けられて、そのまま床に崩れ落ちた。それきり、彼が立ち上がる事はなかった。

 それを目の当たりにすれば、彼女がいよいよもって脅威であると他の兵士達も充分に思い知ったようで、彼女に向かって遠慮無しに銃弾を雨あられと浴びせかけたのだった。

 メアリーアンは銃撃に晒されながらも、ゆっくりと足をすすめ、玄関ホールの中央にまで進み出てきた。私はと言えば、流れ弾を避けるべく兵士の一人に無理矢理腕を掴まれて、壁際にまで退避させられたのだった。兵士達は階段の上から下までずらり列になって、吹き抜けのホールの真ん中にいるメアリーアンに向かって一斉射を放った。

 戦場もかくや、というほどに、けたたましく無数の銃声が鳴り響いた。その場の空気すらずたずたに引き裂いてしまうかのような激しい轟音の奔流に、私は壁際の片隅でただ震えていることしか出来なかった。

 砲火に晒されたメアリーアンは、まるで不思議な踊りでも踊るかのように不自然な所作で身をくねらせつづけた。もちろんそれは彼女の意志によるものではなかったが、彼女とていつまでも為すがままではいられなかった。

 一斉射が不意に途切れた、その一瞬の隙を突くように、彼女は背中の羽根を瞬時に大きく広げた。その異形の姿に人々があっと驚いている間隙を縫うようにして、彼女は大きく跳躍する。羽根を羽ばたかせ、一足とびに吹き抜けを二階まで駆け上がって、二階にいる兵士達の群れに自ら飛び込んでいった。

 そもそもの外見はほんの小柄なやせっぽちの小娘に過ぎないというのに、それでも兵士達の目に脅威と映ったのは、すべての銃弾を跳ね返したのもさることながら、羽根を広げた姿がよほど異形にみえたからか。

 それこそ息のかかるような至近距離に唐突に迫られて、兵士の一人がよほど驚いたのか、闇雲に引き金を引き始めた。

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