第5話 (その4)
錬金術師はノーツヴィルの新しい研究室に本格的に拠点を構えるよりも前に、一年ほどの間は国内のあちこちを旅して回った。私はその旅にずっと同行することとなった。
彼は確かに錬金術師ではあったが、まさか人前でそのように呼ぶわけにもいかない。かといって名前を呼ばれることを彼はあまり好まなかった。親子を装うにしても年齢が釣り合わず……そんなわけで旅の間は年の離れた兄と妹を装うことが多かったので、次第に私は錬金術師のことをごく自然と「兄」と呼ぶようになっていったのだった。
とはいえ、彼は私を弟子にとったわけでもなく、私自身もそのように望んだわけでもなかった。ノーツヴィルに居を構えてからしばらくは兄の屋敷に厄介になっていたけれど、私が王都の大学への進学を志望するにあたって町の予備学校に通い始めると、私は彼に市内で下宿することを勧められ、そのまま体よく屋敷から追い払われてしまったのだった。
だから、メアリーアンの事がなければ、再びこの屋敷に身を寄せるような事も無かっただろう。その錬金術師はといえば、地下の研究室にこもっているか、数日まとめて屋敷を留守にしてどこかへ出歩いているかで、いるのかいないのかもよく分からないようなありさまだったので、実質的には私はメアリーアンとずっと二人きりの日々を送っていたのだった。
そのメアリーアンも、結局のところいつかはここからいなくなってしまう。それはあらかじめ分かっていたことで、彼女がいなくなれば元の下宿暮らしに戻るだけのことなのに、私にはそれがとても寂しいことのように思えて仕方がなかった。
だから、メアリーアンなどという名前を付けるべきではなかったのだ――兄であれば、きっとそう言っただろう。けれどイゼルキュロスなどと大仰な名前を与えられ、彼女はこの先一体どこで何をさせられるのか……私にはそれが心配だった。
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