第5話 (その3)

「……それで、君は一体これからどうするつもりなのだね?」

「そういうあなたは、そんなにたくさん本をかかえて、これからどうするつもりなの?」

「ノーツヴィルという町を知っているかね。そこに新しく研究室を構えようと思って、屋敷を一軒購入してあるのだよ。取り敢えず本はすべてそこに送るつもりだ」

「ノーツヴィル……?」

「王都にほど近い町だ。静かで何もないところだがね」

「そこに私も行っていい?」

「どうしてだね」

「あなたは父の古い知り合いなのでしょう? 母はああなってしまった以上もうあてには出来ないし、叔父の親類を頼るのはいやだわ。今となっては、私には他に頼る人がいないのよ」

「だからといって、それは正直どうかと思うがね。君は私が何者だか分かってて、そういう事を言っているのか? 氏素性の知れぬ怪しい者に、自分の身を委ねるなど、賢い者のする選択とは言えないな」

「あなただって私のことはそんなに詳しくは知らないでしょう。……どのみち私も、そのうち氏素性の知れぬあやしい者と言われるようになるわ」

 そう答えた私に、果たして彼は何と言ったのだったか。

「私とともに来るというなら、それもよいだろう。だが君は知っておいた方がいいぞ。この私が、果たして何者であるかをな」

「一体、何者だというの……?」

 その問いに、彼は短く、こう答えた。

 自分は錬金術師である、と。

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