どうしてこうなった・・・

健康中毒

どうしてこうなった・・・

「こんなはずでは・・・」


】アレスは頭を抱えていた。




「アレス様ぁ、悩みがあれば言ってみてくださいよぉ~。

 口に出すだけでもぉ、楽になりますよぉ~」


 薄暗くもきらびやかな店内、やわらかく手触りのいいベルベットのソファに沈み込む。


 両側の美女がヘビのように絡みつき、その御自慢の胸を押し付けてくる。

 淫靡えっちな雰囲気の店内の空気とは裏腹に、俺の心は冷め切っていた。



「どうしてこうなった・・・」








 運命の歯車はほんの数ヶ月前に回りだした。


 1年前、所属していたB級パーティー【北極星ポラリス】が大規模討伐戦で別パーティーの失策の余波を受け崩壊。

【北極星】内での犠牲者は2人、大怪我による冒険者活動復帰不能が2人と大きすぎる被害を出してしまった。

 その犠牲者の中に俺の婚約者『アイナ』も含まれていた。


 失敗した討伐戦の事後処理を終え、パーティーはそのまま解散となった。



 すべてが空しかった。

 まるで世界が灰色の霧で覆われたかのような感覚だった。


 この先生きる意味も無いと絶望し、彼女の実家に今までの貯金をほぼ全額渡して、彼女の両親からの罵倒から逃げるように立ち去った。


 そのあとは冒険者を辞めることもできず、ただの野良として死に場所を求めて戦地を転々と渡り歩いていた。


 その左手の薬指には【敏捷の指輪】、右手薬指には【魔法運用強化の指輪】が嵌っていた。

 効果のある【魔法のアクセサリ】は、複数つけると干渉しあって効果が無くなるというのが世界の理、いわゆる常識なのだけど将来を誓い合ったアイナとの心の絆を手放すという選択枝は俺の中に全く無かった。



 その命知らずの戦いっぷりから【狂戦士バーサーカー】と呼ばれ、そのうちに味方の人間軍からも敵の魔族軍からも【死神】とその通り名を変えて恐れられるようになっていっていた。




「よくぞここまで来たな、【死神】。

 その心意気、褒めてやろう」


 気がつけば周りに味方はゼロ、敵陣のど真ん中でしたよ・・・



ることはひとつ。貴様ら魔族を根絶やしにすること」


 いやまあ自分が強いとか思ってないし、俺ひとりでなんとかなるとも思ってないですけどね。



「我は魔王軍四天王シヴァ・キタオス様の右腕ベtごばぁあっ!」


 なんか名乗ってたけど問答無用で切り捨ててしまった。

 司令官のいなくなった魔王軍はそのまま瓦解し、やや不利に見えた人間軍が戦況をひっくり返して逆転大勝利となった。



「また今回も死ねなかったか」


 タダで死ぬ気は無い迷惑なおっさん予備軍がカッコイイ感じで呟いてみる。


 少し目に付いて四天王の右腕ベtごばぁ氏から接収した親指の爪ほどの大きさの金のリングピアスを鑑定してみる。



【全能力倍化のリングピアス】、だと!?


 これは元婚約者との心の絆を外しても、耳にピアス穴あけてちょっと目立つ装備をつけることも厭わないだけの破格性能!!


 ピアスのつけ方なんてよくわからんが回復ポーションはあるし、手持ちの鉄串で右耳に穴を開けてリングピアスを通してみる。

 ちょっと力を入れてC型になってる開口部を閉じたとき、「ちゃら~ん」って音が響いた。

 あたりを見回してみるけどその音に気付いた人はいないみたい。




 報奨金を使う間もなく次の戦場に向わされる。


【全能力倍化のリングピアス】の装備効果は絶大だった。

 また、気がつけば敵の大将の前に一人で立っていた。



「さすがだ、【死神】と呼ばれる人間よ。

 我は魔王軍幹部、地獄の門番ヘぎょみつっ!!」


 なんで名乗るとき完全に無防備になるのだろう。解せぬ。


 ドロップアイテム?は【はやぶさの耳飾り】だった。

 これも『物理攻撃が2回攻撃になる』、ぶっ壊れ性能だ。


 早速装備したいがリングピアスの輪が完全に閉じていて外すことができない。

 困った。


【全能力倍化のリングピアス】の効果が無くなることも覚悟して、肉串の鉄串で穴を開け、吸い込まれるような深い海の色の宝石のついたピアスを装備する。


 ちゃら~ん




 その頃から魔王軍の最優先目標が俺になったようで、俺のいるところへ進軍が集中してきた。


 ちゃら~ん


【神威の額冠サークレット】は、『武器を高く掲げ指定の詠唱(コマンドワード)を唱えることで一定時間敵に与えるダメージが10倍となる』、これもひどい高性能。


 ピアスのように耳に穴を開けなくてもいいから、こういうのは気楽でいいね。

 装備してみると、なんだか体が軽くなった気がする。そして頭の中に『コマンドワード』が浮かび上がる。


 あ、あげぽよ?・・・うえ? うぇ?





 俺が街にいると魔王軍の進撃で街に被害が出るかもしれないので、歩いて1日の距離の廃鉱山、誰も住まない廃墟の町に移ることにした。

 魔王軍は思惑通りこちらの廃鉱山の町に向ってきた。味方はいないがその分気楽に暴れられる。


 ちゃら~ん



 魔王軍幹部や四天王を名乗る強敵が次々と遅いかかってきた。


 ちゃら~ん

 ちゃら~ん

 ちゃらちゃら~ん

 ちゃららら~ん



「我は魔王軍最高指令、【キングサイクロプス】のダムドである!」


「デカくなったなあ、以前は四天王を名乗っていただろう」


「貴様、我を知っているのか」


「忘れるものか。

 最愛の者、そして人生を預けることのできた仲間たちの仇だ。」



 俺は静かに剣を構える。


 その髪は戦闘開始を察知すると装備効果で金色に光り輝きながら逆立ち、カラコンは燃えるように赤く煌き、高級感のあるミスリルの白鎧からは青い陽炎が立ち昇る。

 両耳にピアスを各5つと、左の目尻に2連、鼻の両側にひとつづつ、下唇にも3連、口をあければ舌にもひとつ、首にはチョーカーとネックレスを大量に、腕輪、バングル、ミサンガなどなど、各指にも指輪が所狭しと、つける場所があれば押し込まれるように。




 剣を高く掲げる。


「あげぽよ~~~、うぇぇ~~~い!!!」




「ぶ、ぶるすこふぁ・・・」


 ちゃら~ん



 かつて集められる最高水準の冒険者100人規模で挑み敗北した相手に苦もなく勝ちを収め、王国にその首を献上する。





 1ヶ月ほど廃鉱の町で過ごすが魔族の進行はあれ以来ぴたりと止まった。

 街に戻ってもいいかなと思い始めた頃、聖皇国からの使者が赴いてきた。


『魔王からの停戦・和平交渉の場に是非立ち合ってもらいたい』



 なんだか豪華で乗り心地の良い馬車で、拉致されるように有無を言わせず聖皇国に連れていかれてしまった。


 道中、立ち寄る街でみんなに世界を救った【英雄】と呼ばれるが、むずむずする。

 俺はただ死に場所を求め、復讐のため魔族どもを殺し続けただけだ。

 血で汚れた俺なんて、【狂戦士】【死神】呼びで十分。



「教皇様がお待ちです。こちらにどうぞ」


 なにがなんだかわからないうちに、皇城大広間に通される。




「【救世の英雄】アレス様のご入場です」


 大広間に案内の人の大きな声が通る。









教皇「・・・チャラいな」







――――――――――――――――

構想&本文1日で完成


本来不可能なはずのアクセサリ装備効果を重ねることができることを知った主人公、際限なくアクセサリを重ね着していってどんどんチャラくなっていくお話。


20話前後を想定してプロットをまとめてたら仕上がってしまいました


オチの後に報奨金貰って、そのまま【人類救済の英雄】が夜の蝶につかまって最高級キャバレーに連れ込まれる、あるいは聖国の接待で無理矢理という冒頭の話だけど、これでは言外の流れは伝わらないよな。

オチは教皇のこの一言で決めたいし、なかなか難しい。


第一の目標であるコミカルな表現というのも、主人公の過去編が話の頭から暗いのでうまくいってないし。あげぽようぇ~い!

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どうしてこうなった・・・ 健康中毒 @horiate1d2

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