第2話 レオン・ザック・スコフィールド

一章 〈レオン・ザック・スコフィールド〉


  1


 それは夏が終わり、そろそろ木々の葉が色づきはじめようとしているときだった。

 アメリカのデトロイト州に密かに存在している、退魔組織アメリカ支部。そこは教会ではあるものの、サント・クロワ大聖堂などには足元にも及ばないほどの大きさだ。

 そんな三角屋根の教会の周囲にある庭のベンチ。男はそこに腰をかけて煙草を口にくわえていた。ライターをコートのポケットから取り出して、煙草の先端に近づける。しかし可動させようと力を込めても、火は灯らない。

「ったく、ついてねえ」

 左右に頭をふる男──レオン。わずかに揺れる銀の髪。

「仕事終わりだってのに」

 ゆっくりと煙草を吸うことさえ許されないというのか、とレオンは深く嘆息する。何回か試行錯誤をしているなかで、やっと火がともり、煙があふれて、空へと昇っていく。口元から離して、息を吐く。また唇で煙草をはさんで、息を吸って──繰り返しである。

 気持ちよく喫煙をしているところ、もともとそこに座る予定だったのかそうでないかはわからないが、ある『同業者』の中年男性が向かってくる。

 レオンがなんだ、と訝るように眉根にしわを寄せて、男をにらむ形になる。中年の男は一瞬足をびくりとさせて、すぐさま振りかえり、そのまま逃げるように教会のなかへと帰っていったのだ。

まったく。

 軽く舌打ちをして、レオンは地面に煙草を棄てようと投げかける。

 ところが、


〝たばこ、じめんにすてちゃダメっ‼〟


 最近、妹にそう注意されたことを思い出し、灰皿に煙草に先端を押しつけ、火を消す。そのときも舌打ちをするが、少し苦笑ぎみに、その口元は自然とほころんでいた。

 ひざ元に置いていたハットを頭に乗せ、レオンは立ち上がる。

「さて、仕事ねえかな」

 そう思ったとき、彼のもとに修道服を着たシスターがやってきた。

「スコフィールド様。本部からの言伝をあずかりました」

「本部から? なんだ?」

「退魔十二騎に属する方たち全員に招集がかけられていまして」

「それならオレはまだ〝予定〟のはずだろ」

「予定の方も例外ではないそうです」

「……そうかい。わかった。通達ごくろうさん、もう行って大丈夫だ」

 そう言うと、シスターは一礼をして去っていった。

 レオンは苛立たしそうに後頭部を掻くと、すぐに荷物をまとめ、ニューヨークへ向かった。


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