☆第30Q 下馬評
「観客も多いっすね」
「それもそうだろ、第一試合からシード校の試合だぜ? 一般客もそれ目当てっで朝早くから見に来る奴も多いしな」
「とはいえ、平日ですよ……?」
「まるで俺を暇人扱いするとは偉くなったもんだな高岡ぁ」
「実際こうやって来てるじゃないですか」
「ったく、息子の活躍する姿を一目見に来るぐらい良いじゃないか」
スポーツに関する記事をメインに書いているWeb記者の高岡とその付き添いである楠は、2階の観客席からコートを見下ろす。
「この会場は、4面コートがあるけど1つはサブコート。他3試合分はメインコートでやるわけだ……」
「で、そのうちの2試合の対戦相手にはシード校がいる。今回だと
「確か昨年度行われた県内の新人戦1位と3位ですか」
「で、貴方の息子さんは第2試合ってわけですね」
「そーよ」
「
「とはいえよ、高校バスケは、こう……粗削りなプレーをさ、見てて楽しいんだよな。もしかしたらここから未来のバスケットマンがいるかもしれないというワクワク感がたまんねぇんだよ。シードがどうの以前にさ!」
「相変わらずのバスケ馬鹿ですね」
「それ褒めてんの?」
無精ひげを触りながら顰める楠を無視して、コートに視線を向ける。
「ッッッシャス!」
ほぼ同時に6校がコートに挨拶を始め、3面あるメインコートでアップが始まった。
サイドラインからサイドラインへ。歩きながら、ジョギングをしながら、様々な方法でストレッチを始める。
少し経つと、ボールを持って2人組となって1on1に近いようなものから、ツーメンでレイアップと各校毎にアップメニューが異なってくる。
だが、傍から見てもやはり
――やはり、強豪校は色々と抜きんでているな。
県内の中堅校に比べると平均身長も高い。アップの様子を見てもベンチメンバーも中堅校であればエース格となっていたであろう選手もいる。選手層の厚さは強豪たる所以だろう。
スコアも1回戦は必ずと言っていいほどダブルスコア。他試合も70点台より上といったほど過去数年分のデータを見ても、まぐれではなく必然に近い実力差。
そうなると、例年通りであれば
高岡は、そう脳裏に浮かべながら今年の決勝リーグへ進む高校の当たりを付ける。
とはいえだ。一応、一応である。バスケというスポーツにブランクがある高岡は第三者の意見を聞いてみようかと隣で貧乏ゆすりをしている男、楠に声をかけた。
「先輩的に気になっている対戦カードってあります? あ、勿論息子さんがいる千歳緑は除いてですよ」
「……強いて言うならAコートのあそこだな」
少し考えた楠が指差す先には、試合前に身体を温める両校。掛け声と共に軽いアップが始まっていた。
2校同じコートでアップをするのもあり、ハーフラインを境に色が違うジャージを纏う人たちが集まる。
「さーいくぞーぃ」
片や紺色に水色のラインが入っている『水咲高校』と白文字で背中に刻まれているジャージ。
「オーエイッ」
片や濃い緑に『筑波凛城』と白文字で刻まれているジャージ。だが、水咲高校に比べると明らかにコートにいる人数が多い。
「高岡、お前どうせ
「はいぃっ!?」
心の内に留めていたとはいえ、考えを当てられた高岡は動揺して手元にあるタブレットを落としそうになる。「あっぶねぇなお前、商売道具落とさねぇように気を付けろよ?」と、楠に笑われる。
――びっくりした。
こういう電子機器の代金は馬鹿にならない。落とさなくてよかったと、高岡はホッと胸をなでおろした。
「プロを含めてだが、スポーツの下馬評は当てにならねぇ」
「はい?」
「
「はぁ」
気が抜けた返事をする高岡は、「信じてねぇな!?」という楠に無意識に手が出た。隣で喚く楠を無視する。
それに対して、コートの外に立っている水咲のジャージを着る黒髪の彼を見る。アップ中の他選手と笑顔で会話する姿。今も前髪を弄る彼の様子は、緊張しているとは程遠い。
前回、梅が枝高校と対戦した水咲高校は2mに悉くやられていたのを見ている身からすれば、果たしてこの試合が一方的に終わってしまうようにも思える。
ビィィィィィィ!
気が付けば、試合開始10分前を告げるブザーが3つ同時に鳴る。突然の出来事に高岡は耳を塞いだが、何事もなかったかのように一斉にベンチへ戻る選手達を横目にタブレットとタッチペンを持ってコートに意識を向ける。
――そういうなら見てみようじゃないか。地区予選にはいなかった、7番のプレーの影響力を。
果たして強豪が勝つのか、それとも下馬評をひっくり返して中堅校が勝つのか。
得点盤には『
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