第11Q 脱ひよっこ
体験入部から2日目。
初日いた新入生(体験入部)に比べて少し増えていた。13人。あとマネージャー希望が数人いた。
3日目。
新入生が、9人。マネージャー希望が1人になったらしい。
4日目。
この日は練習が休みだった。部活もないため特段やることがないが、帰宅後ストレッチを入念にやった。
5日目。
新入生が、7人。
そして6、7日目の土日練習を終えての今日の月曜日である。
未だに校内では体験入部期間は続いているものの、気が付けばあの体験入部初日から1週間が経とうとしている。そう思うと、時の流れの速さ。ここ数日の練習を思い出す度に何もしていないのに口元に手を無意識に当て、胃液がせり上がってきそうな感覚に気分も悪くなりそうになる。
明らかに日を追うごとに、人が減っている事実。先輩達も何というか「でしょうね、想像してました」と言いたげな顔をした後、普通に練習を始めている。今日ももしかしたら人が減っているんだろうな、だなんて考えながら今日も朝練に参加した。とはいっても朝練の内容は基本ちょっと運動程度ぐらいなのだ。そんなにしんどいと感じることはない。問題は、放課後練と土日練である。
体育館が使用できる日の放課後の練習は受験明けというのもあり、新入生組は結構グロッキーになっている奴がいる。俺も受験後に体力づくりも兼ねて走っていたとはいえ、結構きついと感じる部類だ。土日練も、平日の放課後練に比べると練習時間が延びるもののボールが触れる分まだマシ。
それ以上に、体育館を使えない日の放課後の外練が地獄なのだ。バレー部やバドミントン部が体育館を使用するときは、必ずといっていいほど外練になるのだが外練をする場所が水戸市を知っている人間ならほとんどが知っているであろう千波湖。その外周1周が、約3キロ。それだけならまだいいのだが、そこへ行くのに自転車で向かってからの外周3周(約9キロ)は結構きつく、次の日には足腰の筋肉痛が酷かった記憶だ。
そんな濃い1週間を過ごし、気が付けば体験入部期間も終わりに近づいてきた頃となり、ほとんどの部活では本格的に活動が始まってきている。バスケ部では、男女共に関東大会地区予選が来週、インターハイ地区予選は1か月ちょっとに迫るという今。
朝練後教室に行こうと部室から昇降口に向かう途中、部長である須田さんに捕まった。「練習が始まる前にちょっと時間あるか」と言われた俺はわざわざ1年の俺に対して用事がある理由は分からないが時間は実際にあるので、「わかりました」と俺が頷いた姿を見ると親指を立ててから「じゃ、放課後よろしくな」と自身の3年の教室へ向かって行った。
そんな状況を見ていた人間がいたらしく、「もう体育館裏シチュエーションか……楽しめよ夜野ちゃん!」と言いながら去ろうとする山田(野球部のバッグを肩に背負う姿)に拳骨を加えた朝であったなと回想する。そんなこんなで授業も終わり、指定場所である自分が所属しているクラス(1年2組)の教室脇の廊下で待っていた。
しかし俺はその場で、とあるミッションが課されることとなったのである。
「俺が初心者達にルールとか教えろ……ですか?」
「そうだ」
「はぁ……」
廊下の壁にもたれかかる姿は180センチ以上と、それなりに背もあり一般人からすれば威圧感がある。ただ本人の背後に漂う緩い空気がチグハグな印象を与えているのが現状ではあるのだが。
「いやー本当なら俺たち上級生が教えたいのは山々なんだが、お前も知っている通り。今週には関東大会の地区予選、県大会に行ければゴールデンウィーク明けにまた試合があるし5月中旬にはインハイ地区予選だ。つまり――分かるな?」
「……時間がないのは分かりました、ただ何が言いたいのか分かりませんが」
「えっ通じない? マジ?」
目の前の須田さんの頭の上で疑問符が浮かぶ様子が見られる。正直なところ、それだけで理解できるわけなくないか? と俺は言いたい。すると、うーんと考え込んでから「なるほど」と言いたげなポーズと共に口を開く。
「やっべ、主語足りなかったわ。ウッチーなら通じてたから通じると思ってたわ、マジごめん」
「いや別に大丈夫っす」
ははは、と笑いながら謝る姿に遠い目をしそうになる。ここにはいないが、副キャプテンの苦労が少し分かってしまった。
「うちは見ての通り、人手が足らん。2年の
「まあ身長と跳躍力は、多分この学校で1番だと思うんであいつを入れる理由は分かるんですが……」
初日に見せたあの跳躍力を抜いても、彼の身体能力は凄かった。地獄の外練でも、苦とも思わせない姿で走りきる。ただ、ドリブルを含めバスケのルールや技術が足りないだけで。実際この間の屋内練習中も3歩以上歩いて、トラベリング取られていたし。
「いや、分かってる。分かっているんだ、特にあいつは1年の中でも結構変人の部類だろ?」
「まあ……」
キャラが濃いのは分かっているし、変人だというのも分かっている。というかそれ貴方が普通に言うんだ……。
「この間なんて、3歩どころか6歩も歩きやがって……何度チャーシュー麺と言ったことか……」
「突然食べ物出てくるの何ですか?」
「? だって分かりやすいだろ」
「いやわからんですが???」
「こう……『チャー』で1歩目、『シュー』で2歩目、『麺』で足上げてシュートすんだよ。……ほらレイアップできるだろ?」
「いやこうだよみたいに言われても、あとワードがパワーワードすぎて逆に頭に入らん……」
それでよく初心者に通じると思ったな!? あと実際に目の前でやられてもどう反応すればいいか分からん。
「それウッチーにも言われたわ」
「でしょうね!?」
副部長であり副キャプテンでもある、3年の内山先輩。ポジションは、朝比奈と同じ
「そんでだ、うちの副部長くんの頭痛を少しでも軽減させるべく、君が選ばれた。おめでとう」
パチパチと手を叩く。「頭痛の種は貴方もでは?」という言葉は飲み飲んだ。あと今まで言うつもりはなかったけど……。
「あの先輩、ここ1年の廊下なんで(奇行に走るの)止めてください」
「えっごめん?」
手を合わせて反射で謝られるも何に対してかは分かっていないだろうな、だなんてまたもや遠い目をしそうになる。
つい先日の体験入部初日に起こった石橋暴走列車事件。その次の日、クラスの奴らからは「苦労してんだねー」だの「夜野くんって変わってるね」だの一気にキャラが定着してしまいエライ目に合った経験がある。これ以上、変人というキャラを定着させたくないのだ。
だが、時間がないのは分かっているため少し面倒な気持ちもあるがそんな気持ちを抑えて頷く。
「まあ、はい。やれるだけやります」
「ありがとう! いやー最初2年に頼もうと思ったんだけど、今日の朝練後に何でかみんな捕まらなかったんだよな。3年含めて」
「じゃ、よろしく」と、須田さんは部室の方へ向かうために一度体育館に繋がる通路を歩いて行った。
嵐のような時間だったという感想、これから練習があるのに謎に疲労困憊である。正直言って、今日の練習は休みたい気持ちに駆られるが真面目な己が理由もなく休むことに躊躇する。重たい足取りで、体育館に向かう前に一度周りを見回して誰もいないことを確認してから思わず叫ぶ。
「上級生全員、絶対面倒事に巻き込まれたくないだけじゃねぇか……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます