魔導具


「ここがアルベルトさんが言ってた魔導具ギルドか」 


俺たち三人は目の前に立ちはだかる巨大な煉瓦の壁を見上げていた。


いやデカすぎだろ……この時代に4階建ての建物ってあったか?いやあったわ。北門の塔もこのぐらいの高さだった気がする。クラクフ城も三階建らしいし。でも民間やん。どんだけ金かかったんだよ。ていうかいくら儲けてんだよ!

ワンチャン魔法で作った説もあるか?

でも魔法って多い人でも一日に二桁以上を使える魔力はないらしいし。たしかアルベルトさんいわく、先代の統一事業の中で、各地の魔法使いがクラクフに集められたおかげて、魔法産業が発達したと言ってた。もし人海戦術でやったのならとんでもない数の魔法使いがいるのでは?


「さすがクラクフ最大のギルドですね」


「ああ…地下には倉庫もあるらしい」


「とりあえず中みてみましょ」


マリアに催促されて俺たちは魔道具ギルドの扉を開いた。

だだっ広いエントランスの正面には魔術師みたいなローブをきた男性が受付をしていた。とうぜん魔法業界は女子禁制だから、きれいな受付嬢とかはいなかった。

エントランスの両脇には階段があり、吹き抜けの天井の方へ視線を移すと、二階の廊下には人影が見える。


視線を先程の受付に戻すと、例の魔術師のような男は俺の顔をじっと見つめていた。

目がった瞬間あたまを下げる男の下に、俺たちはゆっくりと歩いて行く。


「アキラカナ・アキラという。購入資金は10万ペニーだ、だれか接客係を頼む」


「……ご予約は…」


「していない、この街には今日始めて来たんだ。噂は聞いてなかったか?」


「……それは聞き及んでおります…なんでも公爵殿下に臣従したとか…」


「うむ、私は殿下の騎士となったのだ。そして契約が果たされた暁にはこの国の宰相と元帥になる。殿下から魔道具ギルドはこの国の主要な産業だと聞いた。ぜひ見させていただこう」


殿下という言葉に受付の男の顔が少しだけピクリと動いた。するとエントランスの角に居た召使の方に目伏せをする。


「かしこまりました。でしたら恐れ入りますが、お客様の接客は私がさせて頂きましょう。そこのお前、受付を頼む」


「はっ…はい!」


こちらへ、という男の合図に従い、俺たちは男の後を追いながら階段の方へと歩き出した。


「本日はどのようなものをお探しで?」


男の言葉に俺は階段を上る足を止め、おくれて左横に並んだマリアとヤロスワフの方に顔を向きなおした。


「そうだな…二人にはまだ話してなかったが、俺はこの街に移住するつもりだ。

 宰相と元帥になるのだし、そうでなくとも殿下の騎士になったから、この街に屋敷を構えたい。だからそこで必要な生活道具をそろえようと思う。あとはそうだな、戦場に出ることになるから装備とか……それ以外にもなにか面白いものが有れば見せてほしい」


「ならこのギルド内全てになりますが、よろしいですか」


「ああ、よろしく頼む」


俺がそう言うと男はゆっくりとまた頭を下げた。


「かしこまりました。でしたらまずは家具をはじめとした生活道具にいたしましょうか」


そういってまた俺たちは男の背中を追う形で階段を上り始める。

二階へとつながる階段をのぼりつめ、その先を見た瞬間、俺はとっさに息が漏れてしまった。


各天井にはめ込まれた照明の数々。この時代の明かりなど日光か、蝋燭、松明ぐらいしかないので、都市の中は全体的に暗い印象が強かった。だがこの二階の光景はまるで日本に居る時に見たデパ地下というか、ケ〇ズデンキのような光景に酷似していた。ここだけ何百年も時代が進んだ、いやまるで隔絶されたような異物感を感じる。


「……すごいわね」


「驚かれましたか、ここに来た貴族様や帝国商人の皆さまも同じようなお顔をなされますよ」


「……そりゃ…な」


「これならいろんな魔道具が入手できるかもしれませんな」


魔道具ギルドの二階は主に家具を中心とした生活道具や設備が売られている様だ。まるで日本の電化製品店のようにいろいろな家具や冷蔵庫らしきものが並べられていた。


「こちらはマイヤー・ジギスムント作の大型冷蔵庫です。保存できる容量も多いですし、上と下で冷蔵と冷凍が分けられていますので、多様な食材を保存できます。召使も多いですし、貴族様や商人のような屋敷住まいの方には好評です。魔石の補充は横の蓋を開けると見えます、この中のボックスの両端にあるミスリル棒に魔石がはまるように装着していただくと、中が冷却されて行きます」


そういいながら接客係の男は縦三メートル、横2メートルの大きな冷蔵庫の扉を開いて中を見せてくれた。


「これなら沢山の食材が入りそうね、あなたにちょうどいいかも」


「そうだな、これにしよう。いくらだ」


俺はすぐに即決した。同じ商人列には別の冷蔵がたくさん並べられていたが、それを全部見るつもりはない。めんどくさいしね。


「1万ペニーでございます」


ほぉ⁉1万ペニー⁉冷蔵庫に1万ペニー……ガチっすか……。

他の冷蔵庫はどうなんだろう……いや、でもここで聞いたら値段聞いてヒヨってるみたいに見られるよね。それだけはおれのプライドが許せねぇ。


「そうか、冷蔵庫はこれでいい、他の家具も見せてくれ」


俺は少し誇らしげに、彼らには到底及ばない鼻を高くしながら言い切った。


「かしこまりました、次は加熱器具を紹介いたしましょう」


そこから俺はどんどん即決しまくった。正直良いカモだと思うけど、ぶっちゃけどれが良いか俺には判断しにくいし、女みたいにあーだのこうだの店をグルグル回りたくないので接客係が最初に紹介したモノを買うことにした。

大型冷蔵庫に加熱コンロ、空調機器×4、アラーム付き小型時計×4、水洗式トイレ×2、耐久エンチャント付きソファー及びベット×4、テーブルスタンド×6、フロアスタンド×4、そして面白そうだと思った魔道具をいくつかの、合計22万ペニー。


ぎゃぁああああ⁉俺の財布が燃え尽きちゃう!!

俺の全財産はこれまで軍馬のサブスクで稼いだ6000ルピーと、トルンの領主を恫喝パワハラして手に入れた25万ルピー。そして公爵殿下から現金でもらった今月分の24000ペニーだけ。アルベルトさんから聞いた話では300坪ほどの小さな屋敷の建設費は安くても30万ルピーらしい。あれ?……おれ死ぬのか?俺……消えるのか?

この世界に来て2か月と3週間。ついに借金か……外国人の俺に貸してくれる人が居ればいいけど。

次期宰相と元帥が小さな屋敷も自前で建てられずに借金地獄なんてなったら、ガチで殿下に首切られそう。話を聞く限り、あのオッサンはマジの人だ。

ていうかトルンのデブの事例を見れば、この時代の貴族なんて俺たち一般人の命とか、その日に食べる朝食より軽いだろ。


「あなた……大丈夫?やっぱり無理してた?」


「はは、アキラ様は懐の大きいお方ですから、心配ないぞ」


ギルドを出た瞬間、呆然と空を眺める俺にマリアは心配そうな顔を浮かべながら俺の顔を覗いてきた。


「ぁ……あぁ……もちのろんよ……」


眺める夕方の空は東西を境にオレンジと紫色に割れていく。


「空……きれいだね」


「少し肌寒いわ、あなたも突っ立ってないで、とりあえず宿に戻りましょ?」


「はは、男はつらいですな」



次に俺の意識が戻った時には宿屋で、俺は樽に盛られたシチューを食べているときだった。宿に戻るまでの記憶は……なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る