第5話:これなんて同人誌?

「――、ところで。荷物についてちょっと質問してもいいか?」

「どうかされましたか? 兄上様……」

「いや、カエデの方はいいんだけど――フィオナお、お姉ちゃんの方は前からずっと気になってたんだけど……何をそんなにたくさん持ってきたんだ?」

「あ、気になっちゃう?」



 不機嫌さを少しでも紛らわすために何気なく振った会話だが、どうやらうまく食いついたらしい。


 いそいそとドラムバッグの中身を漁るフィオナに、中身はどうなってるのかと興味ありげに覗けば、ごちゃごちゃと出されるそれに龍彦は頬を引きつらせた。



「えっと……それ、何?」

「これ? これは龍彦ちゃんへのお土産よ」

「俺ぇ!?」



 ――冗談か何かだろう?


 フィオナの名誉のために、あえてはっきりと口に出したりはしない。


 だが心の中では盛大に要らない、この一言をどうしても叫ばずにはいられなかった。


 体良く言えば、お土産のセンスはなかなか独創的だと言えよう。

 だが言葉悪くして言えば、壊滅的なセンスだと言わざるを得ない。

 確かに男の子は銃や刀が好きだ、とはよく言う。


 龍彦もどちらかと言うとそっち側の人間であるし、刀の展示会やエアガンショップに赴いては特に買うわけでもなく、ぼんやりと眺めることもしばしばある。



「パパに聞いたら、“あいつ銃とか刀とか好きだし、喜ぶんじゃね?”って言ってたから厳選して持ってきたわ! あ、因みにアタシ自らが手掛けたオリジナルモデルよ?」

「……えっ!? これ、フィオナお、お姉ちゃんが作ったのか!?」

「そうよ。あ、言ってなかったけどアタシの実家、昔から銃職人ガンスミスなの。これでも結構人気な方なのよ?」

「へ、へー……」



 次々と開示される情報にもはや脳の処理がまったく追い付かない。

 異世界と言うぐらいだから、てっきりと剣と魔法しかない。


 そんな歪んだイメージがどこかあっただけに、フィオナはもちろん銃の存在には違和感が拭えなかった。


 ――銃とかあったら、モンスターとか大抵一発で死ぬんじゃないのか?

 ――特にこれ、大型口径だし。

 ――一気にヌルゲーだろ、異世界ライフ。


 そうとわかっても使用しないのが、自分達武術家だ。

 代々より受け継がれ、培ってきた技術と肉体こそ最高にして最強の武器である。

 あの父が武器を使う姿をどうしても想像できず、同時に壊滅的に似合わない。

 せっかくの良い武器でも仕手によって台無しともなる、父が正にいい例だろう。

 ついくすりと忍び笑いする龍彦に、カエデとフィオナがきょとんとした。



「――、いやなんでもない。しかしなぁ……」



 見るからに実銃なのは明白で、だが少なくともこの世界にいる限り使う機会は一生訪れそうにもない。


 部屋の中で飾るぐらいはできそうだが、メンテナンスとかが面倒くさそうだ。



「後これも。いざって時に使ってね」



 と、ご丁寧に実弾まで渡してくるフィオナ。これこそ本当に使い道がない。

 引き出しの中に入れておこう。

 引きつった笑みで受け取った龍彦は、不意に袖をクイッと強めに引っ張られた。

 視線をやればふくれっ面をしたカエデがいた。



「えっと、どうかしたのか?」

「兄上様、わたくしのお土産の方も是非受け取ってください」



 と、ふくれっ面のまま風呂敷からカエデが取り出したのは、やはりこの姉妹似ている部分が多い。


 ――こっちはまさかの脇差かぁ。

 ――実用性はない、かなぁ……。


 これもフィオナの銃と同じく鑑賞行きだろう。

 ともあれ銃と刀、双方共に贈り物としてはあまりにも高価すぎる。


 これ以上のものとなると、俺はこの二人に何を返せるだろう? 自宅は決して裕福な方ではないし、数十万もするだけの価値ある物はそうなかなか簡単に手が出せたものでもない。


 ひとまず、今は保留にしておいおい考えるとしよう。龍彦はそう判断した。



「ま、まぁカエデもフィオナお姉ちゃんもありがとうな。こんなすごいものもらって……なんかすごく申し訳なくなってきた」

「いいのよ気にしないで。その代わりと言っちゃなんだけどお願いがあるの」

「お願い?」と、龍彦。



 これはある意味お返しとしてはいいアイディアかもしれない。

 内容は後に彼女らが語るとして、それを叶えてやれば釣り合うのではないか。

 もちろん限度はある。

 さすがにブランド物をたくさん購入してほしい、という願いは龍彦の財布事情を顧みるにとてもじゃないが叶えられそうにない。


 とにもかくにも、まずはお願いとやらを聞いてからでも遅くはあるまい。



「それでお願いって言うのは?」

「それはね、龍彦ちゃんと姉弟として色々なことをしたいの。例えば一緒にお出かけしたりとか」

「それぐらいだったら――」

「後は一緒にお風呂入って、一緒に寝て、そのまま子作りして幸せな家庭を築きたいの!」

「すぅ――それはちょっと無理ですね」



 大丈夫、とそう続けようとした言葉を龍彦は喉の奥へと押し込んだ。

 姉弟がやることにしては、あまりにも度がすぎたお願いと言わざるを得ない。

 どの家庭における姉弟でも、特に後者の方は絶対にやらない。それが悪しきことだと理解しているからだ。



「どうして無理なのよ!」

「いや当たり前ですから! てか何考えてるんですかまったく!」

「あ、あのぉ兄上様? わ、わたくしも兄上様とやりたいことがあって、その……ど、同衾・・を」

「…………」



 色々とやばいかもしれない。

 龍彦はすこぶる本気でそう思った。

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ぶき☆シス!!~ある日当然できた異母兄妹から「私と姉(妹)どっちと結婚したい?」と迫られて心臓が持ちません~ 龍威ユウ @yaibatosaya7895123

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