第10話 来て……せんぱい……っ♥

「………………」

「………………」


 大事な部分は手で隠しているものの、すぐ目の前には、彼女の……。


 ドキッ……ドキッ……。


(今から……ほんとに……)


 凛々葉りりはちゃんが部屋の明かりを薄暗くしたことで、彼女の身体のラインがより鮮明に浮き出ていた。


「…………っ」


 目は正直なようで、逸らそうとしてもついそこを見てしまう。


「こう見えて、こっちには自信があるんですっ。バランスを極めた的な……っ?♪」


 たっ、確かに、大きすぎではないが、年不相応という。まさに神のバランス。


 ………………。


 瑞々みずみずしい果実を目の前に、思わず頭がぽわーんっとしてしまう。


 油断すると、理性が保てなくなる。


 すると、追い打ちをかけるように、凛々葉ちゃんは甘い声で囁いた。


「ちなみに……サイズは……『D』です……っ♥」


(なん……だって……っ!?)


 D……Dカップって、確か……半玉のメロン一個分と同じくらいの重さだった気が……。


 昔、思春期真っ只中のときに調べた知識が、まさかこんなところで発揮されるとは……。


 そんなことを考えていると、凛々葉ちゃんはこっちに向かって手を広げた。


「来て……せんぱい……っ♥」


 それから、彼女をベッドに優しく押し倒すと、上から見下ろすように覆いかぶさった。


「焦らなくていいんですよ……っ♡ 最初は、ゆっくりでいいんです……♡」

「わ、わわ、わかった……っ」


 理性を抑え込むんだ! 欲望のままに動いてしまったら、ここまでの流れが台無しになってしまう。


(落ち着け……落ち着くんだ…………え)


 緊張するあまり、自分の『それ』が『あれ』になっていなかった。


 そんな……どうして……


「……ふふっ。せんぱい、チューしましょう♡」

「え」

「今度はじっくり……♥」


 彼女は、まるで赤子を抱くように優しく抱きしめてきた。


 さ、さっきとは違うチューをするんだよなっ!? これから……っ。


 二度目のキス、それは……最初のキスより、相手を強く感じるキスだった。


 まるで、お互いの想いをぶつけ合うような……。


 そしてゆっくりと顔を離すと、唇と唇の間に唾液の糸が繋がっていた。


「ふふっ♥」


 扇情的な微笑みを浮かべる彼女に、俺は目を奪われた。


「女の子の身体はデリケートなので、“優しく”触ってください……っ」

「わ、わかった……」


 震えた声で返事をすると、ゆっくりと彼女の胸に触れた。


 ――ふにゅっ。


(ッ!? こ、これは……ッ!?)


 手のひらに広がるマシュマロのような感触。


 唇と同等、いや、それ以上に……柔らけぇ……っ。


 ――ふにゅっ――モミっ。


「あっ♥ んっ……♥」

「……っ!!!???」


 彼女の口から漏れる艶のある声が、否応に脳を刺激する。


 ……ゴクリ。


 今度こそ、理性を失ってしまいそうになったが、彼女が最初に言っていた『優しく』と言う言葉を思い出して、なんとか踏み止まった。


 落ち着け……落ち着くんだ、俺……っ。


「せんぱい……っ。欲しいです……っ♥」

「――――…ッ!!?」


 欲しいってことは……。


「ふふ……っ♥」


 か、覚悟を決めるんだっ! まずは、“あれ”を……あ、しまった……。こういうときのために、“あれ”は絶対に必要じゃないか!! これだとまるで、そのままでしたいと言っているようなものじゃないか!!


「はぁ……」


 すると、凛々葉ちゃんは枕元に置いてあったピンクのポーチを手に取った。その中から出したのは……


「ふふっ。これはエチケットですよ、先輩っ♡」

「つ……次からは気をつけます……」


 帰ったら一人で反省会だ……。


「ねぇ、せんぱい。私が処女じゃなくて、がっかりしましたか?」

「!? そっ、そんなことないよ……っ!」


 俺って奴は……彼女に気を遣わせてしまうなんて……。


 漫画みたいに全員が全員、そういうわけではないのだから。


「男の子って、どうして経験がない子の方がいいんですか?」

「え? えーっと……初めての相手になれるから、かな……?」

「へぇー。でも経験がある子の方が、血を見なくて済みますよ?」

「それはそうなんだけど……」


 躊躇ちゅうちょがないな……。


「……緊張、少しは解れましたか?」

「え」


 そういえば、さっきまで肩に力が入っていたのに、少し軽くなった気がする。


 凛々葉ちゃん、もしかしてそこまで気にしてくれていたのか……?


 ………………。


 気づいたときには、俺は彼女を抱きしめていた。


 優しく……優しく……。


 凛々葉ちゃんは不意のことに目を丸くすると、すぐに「ふふっ」と笑みを浮かべた。


「じゃあ……いよいよ、本番ですね……っ♥」


 彼女の言葉を合図に、俺たちは…――




 彼女の部屋のベッドの上。花の香りに包まれながら、二人は重なり合った。


『あっ……♡ せん……ぱい……っ♡』


 そして、元カノと再会した日。俺は、




 …………………………童貞を卒業した。

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