第2話 学園生活の始まり?

真新しい制服に身を包んだ彼女は、陽気な足取りで学校指定のバス停へ向かった。

彼女が向かう学校は国立憂怜学園。国が運営する学校である。憂怜学園の教育目標は臨機応変な生徒の育成。なんとも言えない建前にしか聞こえない目標だ。

バスの出発予定時刻の10分前にバス停に着いた彼女はスマホをいじりながら、バスの到着を待っていた。すると後ろから声がした。

「ねえねえ、君憂怜学園行く子だよね?」

彼女が後ろを振り返ると、私より少し小さいぐらいの背丈で、太ももあたりまで綺麗な黒髪が伸びているTHE美少女のような容姿をした女の子だった。

「そうだよ。君も?」

何気ない答えを返す。

「うん!今日からお互い入学だよね?」

「私はそうだよ!お互いってことは君も一年生か」

「当たり前じゃん!そうじゃなきゃ話しかけてないよ」

「それもそうだね」

とりあえずはいい感じで話せたのではないか?そんな感情が彼女の中で生まれた。

そこから特に話すこともなくバスを待つ。ここで話が続かないから友達ができないんだ。なんて語り手が自我を出すのも変なものだが。

バスが来た。停車し数秒後に一般的な形で扉が開く。空いた扉から彼女と同じ境遇の並んでいた人たち数人がバスに乗り込んでいく。バスの中に入るとまるで電車の中のような作りになっていた。横に並んだ長椅子、吊り革、明らかに独立している個人席。あまり市営バスとかでは見ない作りをしていた。

すでにいくつか座席が埋まっており、座っていた人たちもおそらく新入生であろう。

空いていた席に彼女は座った。隣には明らかにいままで野球をやってきた頭をした男がいた。続いて彼女の隣に、先ほど話した美少女が座った。するとその子は、

「君、名前は?さっき聞けなかったから」

名前を問われた。彼女は本名を返す。そして、テンプレート通りに名前を聞き返す。

「私は一ノ瀬香織。そこらへんの高校一年生になる人だよ」

それはその通りだろう。どこの中学卒業か、そんな何気ない会話をしながら約30分間変わったバスに揺られ学園前のバス停に到着した。慣性の法則を守って停止したバスは扉を開き、前の方に座っていた人からその扉から降りていく。そこには明らかに大きい施設があった。

(ここか…思ったより、それより全然大きいなぁ)

一ノ瀬さんと彼女は二人並んで凱旋門の3回りぐらい小さい門を通り、役員

らしき人の案内を受けながら下駄箱へ向かった。二人はクラスが一緒らしい。これもまた運命なのか。入学式開式まであと20分ぐらいある。それまで教室待機らしい。二人は1年F組、今年の一年生は1年A組からF組までの計6クラス。2、3年生も同様に6クラスらしい。続々と待機中のクラスに人が集まってくる。もうすでにある程度グループが出来始めているのは流石と言ったところか。一ノ瀬さんと話している彼女、明らかにギャル風に着崩した制服姿の4人、何かは知らないが、スポーツをやってきたであろう3人。こんなところだろうか。それ以外は己の空気を楽しんでいる。

「下駄箱に向かうときにさ、明らかにマンションみたいなのあったよね。あれって寮なのかな…」

「流石にないんじゃない?!学校説明の資料読んだけど寮があるなんてどこにもかいてなかったよ!」

一ノ瀬さんが返す。それはそのはずだ。普通寮を設置している学校は説明の中に入れるはずだ。

「まあいいか」

特に気に留めることもなく雑談をしながら約5分が経過した。

突然爽やか系の男子が、

「ねえ!みんな。全員初対面だからよかったら自己紹介しない?」

ありきたりな展開だ。こういう人が学級委員になるのだろう。

『さんせー』『いいんじゃない?』(めんどくさ)

こんな声が飛び交った最後のは誰かが思ったであろうことを代弁しただけだ。

「じゃあまずは提案した僕から。僕の名前は涼宮零。中学校の時はテニスをやっていてこの学校でもテニス部に入ろうと思っているよ。何か質問はあるかな?」

「はいはーい!彼女いる?」

「僕は人生のなかで一度も彼女はできたことはないよ。」

「ええ〜いがぁーい」

「あはは…そんなこともないけどね」

苦笑いしながら答える涼宮くん。

「じゃあ次のこ行こうか。」

「はーいじゃああたし!」

先ほど質問していた女子だ。制服を着崩して私は一軍女子ですと服装で言わんばかりだ。髪は金髪で制服からはわずかに谷間をのぞかせ、おそらくスカートも折っているだろう。

「あたしは宮下茜!特技はだれとでも話せること!逆にそれが欠点であったりもするんだけどねえ。」

よくわかっているじゃないか。見た目の割に結構理解している。

「あたしは今は彼氏募集中でぇ〜す!みんなよろしくね!」

陽気な自己紹介を終えた宮下さんは、席についた。

「次は…だれかいる?」

涼宮くんが話す。こういう自己紹介は早めに済ますのが得策だと思うが、、、どうだろう。30秒ほど待ったが誰も出なかったので涼宮くんが

「じゃあ左奥の角にいる人たちから行こうか。」

まさかの角で目立たないようにしていた、一ノ瀬さんと彼女のところだ。

「はあーい」

一ノ瀬さんが気だるそうに返事を返す。かわいい。

「私の名前は一ノ瀬香織。まあ趣味は、特にないかな。あはは、、まあよろしくね」

何も喋ることもなかったのだろう。少し気まずい空気を作ってくれた。それに続き、

「よろしくね。一ノ瀬さん。じゃあ次、隣の彼女」

やはりそうだ。一ノ瀬さんと似たような感じで行くか、陽キャ臭漂わせるか。悩ましいところではあるだろう。

ーーーーーー結局一ノ瀬さんと似たような感じで自己紹介を済ませた。

その後隣の一ノ瀬さんから、

「ねえ、なんて呼んだらいい?苗字でさん付けって距離感じちゃってさ、なんかあだ名とかない?」

「わたしは中学の頃からはーちゃんって呼ばれてるかな。それがなれてるからそれでよければ」

「はーちゃんか。なるほどねぇ」

「逆に一ノ瀬さんはなんて呼んだらいい?」

「私は全然香織って呼んでくれていいよ〜」

(とりあえずある程度距離は縮まったかな?)

一ノ瀬さんに助けられた。

そうこうしているうちに入学式の準備と生徒会らしき生徒から告げられ廊下に番号順とやらで整列した。たまたまはーちゃんと香織は隣に並んだ。嫌な偶然と言えるだろう。そのまま入学式へ向かった。

入学式が始まった。一人一人名前が呼ばれていくあるあるの展開だ。

その後、校長挨拶、どこかのお偉いさんの挨拶が続いた。皆が苦しむやつである。

約30分間入学式開始から経過した。そのとき、生徒会長挨拶と言って生徒会長が登壇した。

「新入生の皆さん、初めまして。この学校で生徒会長やらせてもらってます工藤恭次郎です。この学校はかなりイレギュラーで常識外れなことも多いと思います。2年以上この学校で生活しているわたしたちですら苦しめられ続けました。決して脅しているわけではないのですが覚悟をもち期待と不安と共に学校生活を楽しんでください。」

短めの挨拶が終わった。意味深な言葉を残し降壇していった工藤生徒会長。新入生がざわついた。そこらから聞こえてくるクスクスとした笑い声、大丈夫かなと心配するような声などその人の人柄が出るような気がした。

はーちゃんと香織は特に反応することもなく、静かにしていた。

 入学式が終わり再び教室待機となった。先生が来るまでの間再び自己紹介をしていこうという話になった。

10分ほどかけて36名の自己紹介を終えた。

「ねえねえはーちゃん、先生遅くない?もう10分も経つよ…」

「そだね。こんなかかることあるのかな?何やってるんだろう」

「まさか、もう会長がいってたイレギュラーなことかな?」

「そんなことある?先生がHR開始時間に来ないだけだよ?」

そんな不穏な会話をしている二人。

瞬間、はーちゃんの後ろから朝と同じ気配を感じた。

はっとした彼女は咄嗟に後ろを振り返る。その刹那、視界が歪む。瞳に映っている世界の端になにか蠢くものが入ってきた。大丈夫…?と香織が投げかけているが彼女の聴覚をほぼ機能していないといっても良いだろう。反応がない。彼女の顔面全体に蠢いていたものが飛びついてきた。

彼女はここで理解した。これは怪異だと。

この世界で怪異と呼ばれるものは彼女のような状態になってから起こる。

度々ニュースで見かけていた怪異を身をもって体験させられている彼女。

なにも動けずにいた。周りの人には見えていないのか特にざわつく様子などはない。

すると突然彼女のほぼ機能しない耳にひとつの囁き声が入ってきた…

『ようこそ地獄へ…』

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