テンプレ敗北者


 落下した滝澤は木のクッションに受け止められ、傷だらけになりながらも死なずに地上に落下した。

 ヨロヨロと立ち上がった滝澤は木に向かって一心不乱に素振りをしていた騎士に気が付く。


「ゲッ……今はヤバい……」


 と、言ったものの滝澤、直後に足下の小枝を踏んだ。


「ニンゲン……!?いざ、勝負!」


 厚い鎧に身を包んだ騎士は振り向くと共に滝澤に向かって斬りかかる。咄嗟に滝澤は地面に落ちていた木の枝を掴んで剣をいなし、鎧の胴に傷を付けた。


「(危ねぇ。よし、こっから反げ……)」


 滝澤はそのまま地面に倒れた。完全に疲労困憊が原因である。その一方、騎士は鎧の傷に驚愕していた。


「あの一瞬の振りでこの鎧に傷を……!?このニンゲン、恐ろしく強いが、何故こんなボロボロに……」


 滝澤は木の枝を握りしめたまま気絶していた。暫く考えて騎士は滝澤を持ち上げて木の虚へと移動させた。


「ここなら傷も癒せるし、ワイヴァーンにも見つからないだろう。また起きたら語り合うとするか」


 騎士は再び鍛錬に戻る。来たるべき戦いの為に。



「はいデジャヴュー!痛ッ……!」


 勢い良く起き上がって頭をぶつけた滝澤はのそりと虚から這い出る。騎士は変わらず鍛錬を続行していた。


「えっと……確か……返し技寸止めして……」


「起きたかニンゲン」


 騎士が剣を振る手を止めて滝澤に歩み寄る。


「俺は滝澤だ。そこらの人間とは違うぜ」

「ニンゲンは皆そう言うぞ」


 早速出鼻をくじかれる滝澤。決まらないなこの男は。

「……そ、そういう意味じゃなくて。多分この世界で唯一、モンスターが嫌いじゃない男だ」

「珍しいやつだな」

「あれ、何その反応……!?」


 この世界のニンゲンはモンスターが嫌いと聞いていただけに何故驚かないのか不思議で仕方がなかった。


「別にお前が特別ってわけではない。ほら、来たぞ……」


 騎士が言うが早いか、滝澤に黒い影が飛びかかった。


「うおっ!?」


 慌てて横に跳んだ滝澤は間一髪で影の攻撃を避けた。


「何故ニンゲンがいる……!答えろヴァンパイア……!」


 着地した猫耳の獣人は牙を剥き出しにして今にも騎士に飛びかかりそうな状態。滝澤は木刀を構えようとして木刀を置いてきた事を思い出した。


「獣人よ、お前の主と同じモンスターを嫌悪しないニンゲンだ」

「本当かしら。にわかには信じ難い話なんだけど」


 獣人がやってきた方向と同じ方向から翠色の瞳を持った旅装束の女性が姿を現す。


「(状況が特殊すぎて分からないが……何か俺、凄い事に巻き込まれてないか……!?木刀無いんですけど……)」


「ガラス、どうする……?」


 獣人は素早く女性の傍へ跳び返った。


「その男が助っ人と言うのなら私は別に構わない。ラムゼ、準備はいい?」

「当然。一人でも二人でも構わないぜ」


 獣人は改めて滝澤に狙いをつける。木刀のない滝澤、大ピンチ。


「お、俺はどうすれば……」

「お前ほどの手練ならば自己防衛くらいは出来るだろう。獣人、お前の相手は私だ」


 騎士はラムゼに向かって剣を構えた。一瞬時が止まったような静寂が訪れ、次の瞬間には滝澤そっちのけで激しい攻防戦が始まった。


「腕を上げたなヴァンパイアッ……!」

「剣士だからな、一昨日と同じだと思うな!」


 堅い爪を剣が弾き、素早い剣を爪がいなす。互いに一歩も譲らない闘いに、滝澤置いてけぼり。


「あれ?俺が主役だよね……?」


 もしかしたら違うかもね。何か出来る事は無いかと辺りを見回す滝澤。

 ラムゼの主であるガラスは、木の上から何かを叫んでいた。しかし、その声は高すぎて滝澤には聴こえない。


「(そうか、ケモ耳特権で聞こえんだな、あの声が……)」


 獣人特有の聴覚を利用した戦術。実に見事である。ならば自分は……と滝澤は落ちている木の枝と枯れ葉を拾い集めた。


「ならば喰らえっ!滝澤流火起こし術(滝澤命名)……!」


 原始的な方法で焚き火をする滝澤。獣人の敏感な鼻が煙を感知する。


「うっ……臭ぇ!なんだこの匂いは……」


 よろめいたラムゼは騎士に蹴飛ばされた。滝澤君、これは嫌がらせ合戦ではないんですが。


「ラムゼ、大丈夫!?おい男、何をした!」

「チョット寒カッタンデ火点ケタダケッスヨー」


 わざとらしいカタコトで答える滝澤。自分を主役だと思っているなら何故こんな好感度の下がる行いを繰り返すのか……。


「大丈夫だガラス、まだ戦える。それに、この匂いにももう慣れた」


 獣人は再び騎士に襲いかかる。今度の猛攻を捌き切れなかった騎士は胴に強烈な一撃を喰らってしまった。


「くっ……!」

「今度はこっちの番だぜ、覚悟しろよニンゲン」


 迫る獣人、動かない騎士。このまま傍観していたり、逃げ出したら間違いなく滝澤を介抱したあの騎士は死ぬ。

 だが、今の滝澤は丸腰。鋭い爪を持った獣人には到底敵いそうになかった。


「でもまぁ、自己防衛のうちと考えて」


 滝澤は獣人の前に立ちはだかる。


「退いてろよニンゲン。小生意気なヴァンパイアを殺すんだよ」

「ただの恩返しだ。殺すなら俺からにするんだな」


 滝澤に勝てる自信はない。恒例のハッタリだ。だが、その一瞬が滝澤と騎士を救った。


「わーすーれーもーのー!」


 ハーピィの少女が木刀を抱えて飛んできた。そして泉の前での戦闘時と同じように木刀が滝澤の手中に収まった。


「ありがとな。えっと……」

「……ルナ。ルナだよ」

「ありがとなルナ!これで戦えるぜ!」


 滝澤は獣人に木刀を向ける。その肉体には先程とは違ったオーラのようなものが宿っていた。


「ラムゼ、下がって!その剣……確実に神通力を持ってるわ。今闘うのは危険よ!」


 女性の命令で獣人は滝澤の前から飛び退いた。


「チッ……じゃあなヴァンパイア!次に会った時は確実に殺すからなッ!」


 女性と獣人は滝澤を警戒しながら森の中へと姿を消した。滝澤としては闘わなくて済んだので万々歳である。


「この人、だぁれ?」

「命の恩人だ。多分だけど。ルナ、起きるまで様子を見ていようか」


 滝澤とルナは騎士の傍に座り、互いの事を話し始めた。



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