第3話

 身の回りの整理が終わった日、この町ですることも無くなった俺は最期に、大学の友人たちと居酒屋に飲みに来ていた。

 どうせなら最期に騒いでこの町から、大学から消え去ろうと思ったのだ。


「あれ? お前タバコなんて吸ってたっけ?」


 目ざとい一人が、タバコを取り出して吸い始めた俺にそう聞いてきた。

 まあ実際、それまで吸っていなかった人間がタバコなんてものを吸い始めたら気にもなるだろうし、俺でも聞くだろう。


「いや、今日が初めてだよ、どんなものか気になって買ってみたんだ」


 そう伝えると、まあ大学生でタバコを吸うのは珍しいことでもないと思ったのかその話はそれで終わりとなって、また騒ぎ始めた。

 俺は、タバコを吸っているせいなのか少し冷めていたので、この一本を吸い終わるまでは静観することにした。


 ……これでこいつらと話すことが出来るのも最後か、と思うと少し目の奥が熱くなるような感覚もあったが、こんな場で、そしてこいつらの目の前で泣くなんて恥ずかしすぎるのでなんとか堪えて、タバコの火をもみ消すと一緒になってバカ騒ぎをし始めるのだった。



 翌日からは、まずは家族、そして全国各地に散らばっていた友人たちに会いに行った。

 それぞれの場所で一泊程度して、そして今生の別れを果たしてきた。

 突然来た俺に対して不審がる友人もいたし、特に何も考えずに、久方ぶりの再会を喜ぶ友人、そして連絡が急すぎると文句を告げてくる友人もいた。


 そして最後に、親友で幼馴染な相手に会いに行くことにした。

 親友なのに最後にしていたのは、最後に会うのならこいつがいいと考えていたからだろうか、それともこいつの察しの良さを恐れたからだったのだろうか。

 それは分からない。


「……榊、修哉、美穂、智貴、真央、それと悠馬は元気だったか?」


 話し始めてしばらくしてから、唐突に目の前の幼馴染、敬太がそう呟いた。

 敬太が今あげていったのは、俺が最近、最後に顔を見ておきたいと思って会いにいっていた友人たちだった。

 まさかここまで簡単に当てられるとは思っていなかったものの、不思議と驚くことは無かった。

 だから、次に言われることも分かっていた。


「じゃあ、次は愛莉の所か」


「そう」


「そうか」


 それからしばらく、二人とも無言でちびちびと酒を飲んでいた。

 しばらく無言の時間を過ごし、グラスの中身が無くなりそうになってきたところで、一度タバコを咥えた。

 すると、敬太が俺のタバコを一本奪い、咥えた。

 そして、二人とも火を点けると煙を吸い込み、そして吐き出した。

 不思議と、気まずさや不安感と言ったものは無く、むしろ久しぶりの安心できる時間だった。




 敬太の家に一泊して翌朝、かなり早い時間ではあったものの二人とも起きていて、あまり言葉を交わすことも無く俺の旅立つ準備が整った。


「……じゃあな」


「……ああ」


 簡単に別れの挨拶を済ますと、そのまま顔を見合わせることなく二人は離れていくのだった。




 きっと、あいつはこの先のことを予見してしまったのだろう。

 そして、俺がそれを察したことも察していて、そのうえで何も求めていないことも分かっていたのだろう。

 だから、いつも通り、いつも通りの二人を過ごしてくれたのだろう。

 ……ああ、惜しいな、あいつに会えなくなるのは素直に惜しい。

 けれど未来は変わらない、それなら俺たちはこれで良かったんだろう。


 ……どうか、○○○○○○○○……。

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