15.その者の青きドレス
その日の早朝、街の人たちは、うら若き乙女がふたり、髪を振り乱して王宮に向かって全力疾走する姿を目にした。
ふたり――私とエステル様が着ていたのは、青い服。
私が着ていたドレスをほどいて作った服だった。。
貴族のドレスに使われている布の総量は、約十一メートル。
簡単な服なら、二着作って充分足りる。
作ったのは、貫頭衣だ。
布を二つに折って、折った部分に頭の出る穴を空ける。両脇をざっと縫い、共布で作ったリボンを結べばもう完成という代物。襟付け二十分のじつりょくを発揮して、猛スピードで縫い上げた。
フープもコルセットも装着しない。お世辞にも令嬢としてきちんとした格好とは言えないけれど、シュミーズ丸出しでなければいいと、エステル様にも納得してもらった。
そうして私たちは、まんまと窓からの脱出に成功したのである。
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私たちは、雪崩のように王宮の敷地内に駆け込んだ。
教会の鐘が鳴り始める。
やばい。約束の九時だ。この鐘が鳴り終わるまでに王妃様の謁見の間までたどりつかないと。縞ドレス令嬢はとっくに向かっているだろうから、エステル様の仕事を横取りされてしまう。
「おまえたち、いったいどこへ――!」
私たちの姿を見つけて、血相を変えて駆け寄って来る人影があった。アラン様だ。
一晩中捜し回ってくれたのだろう。夜会服のまま帯剣してる。
髪は汗で乱れ、目は血走り、疲労の色が濃い。しかし、憔悴しきった様子さえイケメンにはちょっとした演出に過ぎない。
むしろ乱れた襟元から色気がだだ漏れている。
うーん、妹のために必死になる騎士の新規絵、いい。
――じゃなかった。
「事情はあとです! とにかく王妃様のところに行かないと!」
「――わかった。ついてこい」
私が叫ぶと、アラン様はそれ以上だらだらと問いただすようなことはせず、駆け出した。飲み込みが早くて助かる。
近衛騎士団長の鬼気迫る様子に圧倒されたんだろう。その後私たちは一度も呼び止められることなく、王妃様の部屋までたどり着いた。
最後の鐘と同時に部屋に飛び込む。
そこにはあの縞ドレスの女と、父親らしき男がいて、王妃様に話しかけている最中だった。
王妃様は執務机に頬杖をつき、気怠げに目を通していた。
「エステルか。今ちょうどそなたからの辞退の書状を受け取ったところなのだが――今日はまた変わった出で立ちだな」
エステル様はすかさずカーテシーを――できずに、跪いた。
「このような格好でお目通り致しますこと、お詫び致します。その書状は、昨日、そちらの家の者に拉致され、無理矢理書かされたものにございます。閉じ込められてドレスも奪われておりましたため、この服は急遽こちらのローズが仕立てました。今すぐ捜索していただければ、残りの布と私どものコルセットが見つかるはずでございます」
「な……っ!」
反論しようとした女と父親をアラン様が制し、他の近衛兵に命じる。
「すぐに捜索に向かわせろ。この者たちは、隠蔽工作の指示ができないよう、しっかり見張っておけ」
アラン様の命で、その場がにわかに騒然とする。
縞ドレス女が口走った。
「だ、大丈夫よお父様、部屋には鍵をかけてきたもの」
「ばか――」
この様子なら、推薦状があっても仕事が奪われることはなかったかもしれない、とちょっと思った。
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