第38話 瑠理からの誘いと思惑

 昨日は菜乃と入ったカラオケボックスで、歌いもせずにイチャついてしまった。

 彼女は自信を失っていたが、大好きな気持ちを伝えてキスをすると元気を出してくれた。

 すると菜乃は、ご褒美と言ってふとももをあらわにし、ひざまくらをしてくれたのだ。

 うっかり彼女のパンツまで見てしまい、最高に満たされてしまった。


「ねえ! カレンちゃん!? どうして呼んどいて来なかったの⁉」

「……」


 カラオケボックスへ行った翌日、教室に入ると瑠理がカレンの席に近寄り、強い態度で詰め寄っていた。


「私、ずっと待ってたんだよ?」

「あ、そう。ごめんねー」


「ヒドイなぁもう! それで? 健ちゃんのことで大事な話って何だったの?」

「栗原も敵だからなぁー」


 カレンに遠慮気味の瑠理が、めずらしく積極的に話しているので俺も近寄る。


「何? どうしたの?」


 俺がふたりに話しかけると、瑠理は笑顔になりカレンは表情を険しくする。


「健ちゃん、おはよ~」

「健太はヒドイ奴よねー。昨日は私のことを助けてくれないしさー」


 カレンが怒ってそっぽを向く。

 カレンの怒る理由が瑠理には分からないようで、不思議そうにした。

 昨日はなぜか瑠理の都合が悪くなり、一緒に事務所へ行けなかったので、俺たちがモメたのを知らない。


 俺は昨日瑠理が来れなかったのが、さっきのカレンとの会話に関係ある気がした。


「なあ、瑠理がいま言ってた、俺のことで大事な話って何のことだ?」

「そうなの! 昨日そう言われて、秋葉原へ呼び出されたのよ。なのにいくら待ってもカレンちゃん来ないんだもん! ねえ、カレンちゃん! 何の話だったのか教えて?」


 カレンへふたりで詰め寄ると、彼女はとても鬱陶しそうにする。


「別にー。栗原が私の健太に気があるようだから、そう言えば来るなーと思っただけ。別に話なんてないしー」

「ヒドすぎだよ! 話がないのに何で呼ぶの?」


 また、私の健太と言われた!

 しかもクラスのみんなの前で!

 カレンが距離を置くって言ったんじゃないのか⁉

 それでカレンへの想いを忘れたのに、勝手すぎるだろうが!


「なあ、カレン。俺はカレンのものじゃないだろ。だいたい、自分が彼氏を作って俺と距離を置くって言ったの忘れたのか?」

「私のものを私のものって言って何が悪いの? それに彼氏とかそんなのとっくに清算したしー」


 彼女にはまったく悪びれる様子がない。

 完全に開き直っている。

 長い付き合いで分かってたが、話が全然通じない。

 俺はクラスの奴らから注目を集めるこの状況が、耐えられなくなってきた。


 カレンは瑠理の方を向くと目を細める。


「いや、話あったわー。栗原は分かってると思ってたんだけどなー。でもあえて言うわよ?」


 そこで言葉を切ったカレンは、瑠理を正面から見据える。


「私の健太に手を出すなッ!」


 カレンの悪態が教室に響き渡る。

 いつの間にかクラス中が静まり返っていて、みんなが俺たちのやり取りを見守っていた。


 俺は「私の健太」を連呼されて、恥ずかしさで急いで席に戻る。

 瑠理はポカンとしていたが「私も遠慮するのやめようかな」とつぶやいてから席へ戻った。



 昼食時間になり、屋上へ向かいながら瑠理に昨日のことを説明する。


「乗り込んできたの⁉ 事務所に⁉」

「そう。それで登録者数の勝負とか言い出して」


「それで私が邪魔だったんだ! ヒドイなぁもう」

「社員さんが呼んだ警備会社のお陰で、カレンを帰らすことができたけどさ。こっちも大変だったよ」


 実はその後、菜乃とカラオケボックスでイチャラブしたので、不満などまるでない。

 むしろカレンの横暴のお陰で、菜乃と甘いひと時を過ごせたとも言える。


 だが秋葉原まで呼ばれて、ひとり待ちぼうけを食らった瑠理はつらかっただろう。

 彼女の気持ちを考えて、あえて苦痛を共有するように話した。


「今日は菜乃、ほかの人らと食べるらしいよ」

「じゃあ、健ちゃんとふたりだけだね!」


 屋上に出ていつもの場所に座る。

 昨日ひどい目にあったのに、なぜか今日の瑠理はいつにも増して笑顔だ。

 他愛もない話で盛り上がりながら、瑠理と弁当をつつく。


「もう、カレンちゃんには失礼しちゃうよね!」

「あいつ、なんなんだろうね。相変わらずの自己中と言うか。それで、カレンから俺の話って言われて何だと思ったの?」


「あれね。健ちゃんのことで場外戦かなって」

「何それ?」


「何でもないよーだ。それよりもなんだけど……」


 瑠理は弁当箱を片付けると、俺の目を見ながら大げさに頬を膨らませる。


「昨日は私、仲間外れでひとり寂しく何時間も立ってたんだよ?」

「確かに災難だったよな。心中察するよ」


「3時間よ、3時間! あと少しって待たされて!」

「あいつ、救いようがないな」


「健ちゃんは私を可哀そうに思ってくれてる?」

「ああ。瑠理の気持ちが晴れるように協力するよ」


「じゃあ、私が楽しくなること、健ちゃんは付き合ってくれるよね?」

「楽しくなること? ネトゲで遊ぶとか?」


「それ楽しそう! あ、でもね……」


 瑠理は、チッチッチと顔の前で人差し指を振った。


「もっとしたいことがあるんだよね!」

「したいこと?」


「実はね、よく一緒にゲームするネッ友の女子がいるでしょ? 彼女が働いてるメイド喫茶があるの!」

「それってバトロワのメンツの!? 彼女、メイド喫茶で働いてんの? 秋葉原の?」


 瑠理とアペックスというアクションシューティングで遊ぶときに、よく3人目として参加するネッ友がいるのだ。


「うん、そう。でも、メイド喫茶だからね、女子ひとりだと行きにくいんだ。だから、健ちゃんに付き合って欲しいなって」


 あのネッ友もバトロワ上手かったな!

 会ってコアな話ができるのはテンション上がる!


「いいね! 行くよ! あ、いや、ちょっと……」

「どうしたの? 秋葉原だよ? 楽しいよ?」


 でもこれって、菜乃を誘いにくいんだよな。

 俺らのネッ友に会いに行く訳だし。

 メイド喫茶へ自分の彼女を連れて行くのも変だし。

 でも、瑠理とふたりだとデートみたいになるぞ。


「瑠理はホント秋葉原が好きだな。でも、ふたりきりだとマズくないか?」

「なんで? 別にいいじゃない」


「あ、えーと、俺と菜乃はさあ……」

「あーあーうーうー聞こえない聞こえない! 仕方ない。じゃあ、お姉ちゃん連れて来るから」


「まあ、それなら」

「じゃあ、今度の日曜日に行こうね!」


 瑠理は楽しそうに笑って立ち上がる。


 まあ、俺も楽しみだしいいか。

 でも菜乃にはちゃんと言わなきゃな、ネッ友に会いに栗原姉妹と秋葉原へ行くって。

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