第27話 応接室で、女経営者と

 カルロスである俺の初配信は、真利の勘違い発言「健太にいとキスしたい」が放送されてしまった。

 いきなりのピンチだが、コラボ相手のルリアが機転を利かす。

 なんとネタにして、俺をシスコン扱いしたのだ。

 そこで急遽、カルロスは重度のシスコン設定でいくと方向転換。

 視聴者からは変態扱いされたが、なんとか初配信での放送事故を乗り切ることができた。


「やってくれたな?」


 目の前で栗原専務が腕組みして立っている。

 だが、言葉の割には口調が優しい。

 というか少し嬉しそうだ。


「すみませんでした」


 デビュー配信を打ち合わせ通りにできず、放送事故になったことを詫びる。


 俺はあの放送の直後、マネージャーでもある栗原専務に事務所へ呼び出された。

 ここは事務所の応接室。

 デビュー後の初出社は放送事故の謝罪になった。


「何を言っている。謝ることはないぞ。まあ座って話そう」


 応接用の横長ソファに座った俺は、栗原専務の言葉の意味が分からず謝罪を続ける。


「でも完璧な放送どころか、予定にない真利の声まで放送されてしまって」


 再び頭を下げると、栗原専務は首を横に振った。


「いいか、中村さん。あなたはもうタレントなんだ。配信で視聴者を楽しませるのが仕事。今回はむしろ成功だ」

「そうですか! それならよかった……」


「この前教えたように、他人を傷つける言葉や、放送で不適切な言葉を使わなければ何も問題ない。しかし――」


 栗原専務は言葉を止めると、脚を組み替えてから笑みを浮かべた。

 黒いストッキングを穿いた脚線美と、黒いヒールの組み合わせが色っぽい。


「しかし、カルロスはシスコンになってしまったな」

「ま、まずかったですか?」


「いや。むしろ面白い。カルロスが聖天使ナノンをフッた、それは重度のシスコンだから。うむ、いい味付けだ」


 怒られると思ったシスコンキャラは、むしろいい方向に判断された。


「でもVtuberなのにシスコンですよ? 頭おかしくないですか?」

「シスコン系Vtuberは前から世の中にいる。だから別に異常ではない。むしろ事務所的には好都合だ」


「好都合なんですか?」

「ウチの所属Vは、中村さん以外全員女性だ。多くの男性ファンに支えられていると言っていい。カルロスが重度のシスコンなら、ほかのVに手をだす構図にはならない。だから、彼女たちのファンがあなたを敵視しないですむ」


 なるほど、よく考えた上でのOKなんだな。


 そこまで説明した栗原専務は、俺の目を見ると笑みを浮かべた。


「中村さん。今回のデビュー配信で分かったよ。瑠理や姫川さんがあなたを特別だという理由が」


 対面で話していた栗原専務が話しながら立ち上がると、横長のソファに座る俺の横に移動した。

 え? 何で横に座るの?

 少し距離が近い気がする。


「特別ですか? 俺が?」

「ああ。普通に見えて瞬間の振れ幅が凄い。まるで異常事態の対応に慣れているように思える」


「あ、物心ついてずっと、主張の強い幼馴染みに振り回されてきたからですかね」

「振れ幅は魅力を生み出す。中村さんならウチの事務所の起爆剤になれる! 私の悲願であった業界ナンバー1を奪取だっしゅできるかもしれない!」


 いつも冷静な栗原専務が、こぶしを握って語気を強めた。

 彼女は興奮で暑くなったのかスーツの上着を脱ぐ。


奪取だっしゅって、まさかあの事務所を超えるってことですか?」

「そうだ! 業界最大手のVtuber事務所『テラくろっく』よりも、我々『カワイイ総合研究所』が上に立つ!! だから協力して欲しい!」


 彼女の俺を見る目は真剣で、距離もちょっと近い。

 身を乗り出して話す姿から、仕事への情熱をヒシヒシと感じた。


「そ、そりゃなるべくは……」

「中村さんには期待している。会社のために、私の頼みをアレコレ聞いてくれるよな?」


 前のめりになって熱く語る栗原専務のテンションに驚いていると、応接室の扉がノックされる。


「失礼します」


 なんと菜乃が入ってきた。


 菜乃は見せキャミソールの上から、スケる素材の薄手ブラウスを羽織って、薄水色のスカート姿。

 本当に俺の彼女は何を着ても可愛い。

 いつも思うが、なんでこんなに美人のVtuberが俺の彼女なんだろう。


「栗原専務、お待たせしました。……って一体何をされてたんですかっ!!」


 どうした?

 菜乃は何を驚いてるのか?


 栗原専務はスーツの上着を脱いだブラウス姿で、俺と同じソファに並んで座り、前のめりで俺の肩に手を掛けていた。

 しかも、話に興奮して頬を染めている。


 俺は状況のあやしさに気づいて栗原専務と顔を見合わせると、急いで互いの距離をとった。



 これ、誤解された?



 眉を上げた菜乃がつかつか歩いてくると、俺の腕をつかんで立たせる。


「もうお話、終りましたよね? それじゃ、中村さんと打ち合わせするんで失礼します!」

「……あ、ああ、よろしく頼む」


 栗原専務が苦笑いで答えた。

 菜乃は俺を横目でにらんでから、腕を引っ張って応接室の外へ連れ出した。


「あの、菜乃? どこへ?」

「会議室!!」


 俺の腕を引っ張る菜乃は、いつも以上に横顔が凛々しくて少し怖い。


 そのまま彼女に会議室の前まで連れてこられた。

 扉を開けると小さな会議室で椅子4つとテーブルがある。

 先に入るようにうながされた


「菜乃? 今日はどうしたの?」

「健太と打ち合わせしろって言われたから来たの!」


 彼女は機嫌悪く答えると、あとから会議室へ入って扉を背にする。

 直後、ガチャリと音が聞こえた。


 え? 今の音は何?

 もしかしてカギを閉めた?


「ちょっと? 何を?」

「もうね。このままじゃ、誰かに先を越されかねないから!」


 菜乃はそう言って口を尖らせると、俺の腕を引っ張った。

 互いの距離がいつもより近くなる。

 驚いて目を見開くと、彼女は頬を染めて俺を見つめた。


 菜乃の瞳は黒々して可愛くて、そしていつもよりも潤んでいた。


※次回はエロ展開なので、苦手な方注意です。

(✿ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

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