クロスロードの雛たち

豆腐数

第一話

 どこかの街のどこかのT字路。一軒家の並ぶ区画。その中の一つの庭に、四季問わぬ緑の服着た常緑樹。そんな場所は、小鳥が所帯を持つのにうってつけ。今日もピィピィ、ご飯を求めてヒナは鳴く。


 朝の通勤通学時間の終わりかけの事である。Tの字の縦棒から女子、横棒右から男子がすっ飛んで来た。そして衝突。


「いってえ! どこ見てんだバカ鳥!」

「バカとは何よクソカラス!」


 バカ鳥と呼ばれた中学の制服を着た女子の名は泊木小鳥とまりぎ ことり。男子の名前は唐須黒助からす くろすけ。反りは合わないのに通う学校も同じ、歳も同じ、家も近所で母親同士の仲が良い。おそらく幼なじみというやつなのだが、二人から言わせれば腐れ縁! と揃って帰って来る始末である。行動パターンも似通っているのか、こうして遅刻しそうな時間に走って来て衝突することもしばしば。住所、通学路、行動パターン。どの要素もベタという一直線の方向に協力してなせる業である。


 流石にパンはくわえていない。残念かもしれない。


「ほら。ケガしてねーか、バカ鳥」

「あ……」


 いつの間にかクソカラスにカバンを拾われ、手を差し伸べられているのに気づき、売り言葉に買い言葉だった小鳥も戸惑ったように彼を見上げる。


 小学生の頃はもっともっと意地悪だったのに、中学に入ってからの唐須はちょびっと優しい。それは子どもなりに年齢を重ねたからかもしれないし、男子のようなズボンばかり履いていた小鳥が、学校指定のスカートを履いたら女の子だと認識されてしまったからかもしれなかった。


「ありがと」

「……ん」


 手を引っ張ってもらって立ち上がり、小鳥も貞淑にスカートについた砂などを払って見せる。ドロが引っついたズボンを「バカ鳥てめぇコレ取れねえぞ」と言われながらムダな抵抗で払ってもらった思い出が彼女の頭にふんわりと浮かぶ。制服のスカートに、唐須が触れる事はなかったけれど。


「やべーぞチャイムまで時間がねえ、急げバカ鳥!」

「わ、わかってるわよ!」


 カバン返してもらってない。と小鳥が気づいた時にはもう二人分の荷物抱えて男子は走り始めていた。


 バカ鳥などというあんまりなあだ名がそのままだから、残念な空気が漂うけれど。カラスはちょっぴり大人になって、小鳥はちょっぴり素直になった。


 人間の微笑ましいヒナを、冒頭の雛鳥がピィピィ鳴いて眺めている。


 交差点の小鳥達、巣立つまであと何日?

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