第4節 郊外学習

「ツゥーバ、今日は庭園に行くぞ」

「庭園、ですか?」


 談話室で静かにアーカイブを覗いていたツゥーバは、突如、現れたカミサマに腕を引っ張られ、庭園、と呼ばれる場所に向かう。

 二人にとって、何度も行きなれた場所。

 だがカミサマが連れていく場所は、ツゥーバが今まで通った事の無い通路であり、今までの通路と同じく白い壁白い床白い天井に包まれているが、カミサマの向かう方向から眩しい光が包み込む。



 白。



 ツゥーバの体が、今まで感じた事無い色に包まれると、徐々にツゥーバの体は極彩色へと包む。

 極彩色がツゥーバの体に色を塗り終えると、その先に舞っていたのは一つの植物園だった。

 辺りには、様々な植物や花やまた謎の果実さえもあった。


「これは?」

「私が管理している植物園だ。季節や時期などはここでは関係無くなる」

「季節や時期、ですか?」

「ツゥーバ、お前は知っているだろう、植物と言うものは、花がなる時期、果実がなる時期、それが全て決まっている」

「はい、知っています。この、バナナは南国で自生しているとアーカイブで確認しました。ですがこちらのストロベリーは春に実がなるものです」

 ツゥーバはカミサマの言葉に確認を取るように、植物園を観察する。

「今日から君はここに来てもいい」

「え?」


 カミサマの言葉にツゥーバは、驚いたような表情を見せる。

 二回目のカミサマからプレゼントに、ツゥーバはゆっくりと辺りを見渡し、見た事の無い世界に息を飲み続ける。



『植物の理想郷』



 庭園の一部に飾られた看板にはそんな名前が書かれており、名前の通り、ツゥーバは辺りにある多くの植物たちが喜んでいるようにも感じられた。

 赤い花や緑の葉っぱ、紫色の果実に白い果肉。

 熟したような香りと植物特有の青さの香りが入り混じり、植物もまた生きた生物なのだと認識する。

 ツゥーバ自身も今までアーカイブでしか見た事の無いもの達に対し、興味を示すようにじっと見つめる。

 蓄えた知識と経験は別物で、初めて、と言うものを得たツゥーバは目の前の光景に爛々と目を輝かせた。


「カミサマ、あちらは……?」


 すると、植物園の歩き回っているツゥーバは、あることに気付く。

 植物園に区切られたような扉、その向こうから感じる謎の気配。

 植物たちとは違い、生きている、というよりは『動いている』と言う感覚が感じられる。


「……動物場だ」

「動物場、ですか」

「あぁ、様々な生物がそこにいる。魚から鳥、爬虫類から両生類、哺乳類から昆虫まで、様々な生物があそこでは屯している」

「動物、あそこに……では、行っても」

「駄目だ」

「……なぜでしょうか?」


 興味を示すツゥーバに、食い気味で断る神様。


「お前は知らないだろうが、動物と言うものは危険だ。お前と同じで牙を持ち、爪を持ち、毒を持つ。お前一人では、命は儚く散ってしまう。それに、まだ時期じゃない」

「そう、ですか……」

「だが、ここに居れば少なからず会える」

「え?」

「この植物園とて一部の昆虫はこちらでも活動できるようにしていなければ、意味が無いからな」


 すると、ツゥーバの目の前に一匹の蜂が通り掛る。


「今は、これで我慢しなさい」


 カミサマはゆっくりと目を瞑り、言葉を紡ぐとツゥーバの前には小さな動物たちが通り過ぎた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る