特技、平気なフリ

 学生時代のことを思い出す。一番は、やっぱり部活動とか、学園祭とか、修学旅行の楽しかった思い出。


 恋は? 恋は別枠。

 部活動にも、学園祭にも、修学旅行にもくっつくていたもの。どこまでも。どこにでも。気づくと心はその人のことばかり。若かったなぁ。



 私は痛みに強い。大概のことでは泣かない。記憶が正しければ、今まで痛みで泣いたのは3回だけ。


 9歳の時、高鉄棒にぶら下がってた私。意地悪な男子に足を捕まれ、腕が限界で、落ちて右腕を骨折したとき。

 先生には、大丈夫、大丈夫と号泣しながら1人徒歩で帰宅。



 11歳。知らない男子に背中からブランコを強く押され、何十分も止めてくれず水平近くて恐怖だった。身体が吹っ飛び転んで膝が血だらけになったとき。友達には大丈夫、大丈夫とハンカチで膝を抑えながら、メソメソ帰宅。



 最後は、高校の修学旅行のとき。

 小6の時から隣同士の子。互いに気持ちが通じていたその初恋の人が、別の女子と寄り添い前を歩いているのを見た。美しい京都の街で失恋したとき。

 大丈夫、大丈夫と心で唱え、友達には言わず、大部屋のお布団の中で声を出さずに大号泣。



 ものの本によると「大丈夫ですか?」とは聞かない方がいいらしい。

 答えは「大丈夫」しかないらしい。

 いつだって、「大丈夫、大丈夫」これが私の口癖。心配されるのが気まずくて。



 大丈夫なわけはなかった。

 頑張って、限界まで働いて、それで「大丈夫、大丈夫」と笑顔を返す。だから反動でバタンと倒れる。

 いつも優しい人の、心配の中にチラリと浮かんだ迷惑そうな表情を見たくなくて。




 もう平気なフリはやめよう。だ〜れも得していないじゃないか。私だけが大損の法則。

 人に迷惑かけたくなくて、私のために人の手を煩わせるのが申し訳なくてそうしてきたけれど。結局、誰にも気持ちは伝わっていなかった。



 それならいっそやめよう。声に出そう。

 辛いよ。痛いよ。苦しいんだよ。

 助けてよ!



 窓を開けて、ちっさな声で叫んだら、金木犀の香りが鼻の中にすぃーと飛び込んできた。

 思い切り深呼吸してみる。あ〜、いい香り。心の奥まで癒される秋の匂い。



 今日はほんの少しだけ心が軽くなっている。明日はもっと軽くしよう。

 そう思えるのは、とことん「平気なフリ」をして、とことん打ちのめされたから出来ること。




 私の固い頭の中の辞書がまた書き換えられた。

『平気なフリは美徳でも気遣いでもない』


 これからはこう言おう。


「大丈夫?」

「ありがとう。本当は……辛いの。聞いてくれる?」

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