23

 ヤスの部屋に集まったぼくらは、さっそく調べ物を開始した。


 しかし……


 正直、全然わからない。乗り物、って何だろう。「神」の乗り物、ってことなのか?


 スマホでいろいろ検索してみたけど、役に立ちそうな情報は全然なかった。それは自分の机でノートパソコンに向かっているヤスも同じようだった。


「ダメや。いろいろ本を探して見とるけどぉ、それっぽいことなんも書いてないよ」


 目の前にたくさんの本を積み上げたシオリも、すっかりお手上げの様子だ。


「あんたたち、お昼ご飯やよ」


 一階から伯母さんの大声が聞こえてきた。


---


 昼ご飯は残り物のおかずに、インスタントラーメンだった。


「今日は祭りの準備で忙しくて、手抜きになっちゃってご免ね」


 伯母さんが申し訳なさそうに言うが、すぐに笑顔で付け加える。


「夕飯は美味しい惣菜屋さんにオードブルを注文しといたさけぇ、期待しといてま」


「はい」ぼくは無理やり笑顔を作って応える。正直、頭の中はそれどころじゃなかった。一刻も早く「西にある乗り物」の謎を解かなくちゃ、大変なことになる。


「……どうしたんや?」伯父さんだった。「なんや、今日はみんな朝から元気ないぜ?」


「……」


 困った。どう説明したらいいんだろう。こんなこと、伯父さんに言ったところでとても信じてくれそうにないし……


 だけど、それに続く伯父さんの言葉は、ぼくらを激しく驚かせた。


「お前たち、一昨日おとといと昨日の夜、どこかに行っとったな」


「……!」


 ギクリとした。ぼくら三人の眼が、同時にまん丸になる。


 なんてことだ。全部バレていたんだ……


「怒らんさけ言うてみ? 何をやっとったんや?」


 伯父さんが優しく微笑む。


 正直、そのセリフを言葉通り受け取れるほど、ぼくらは子どもじゃない。「怒らないから」と言って正直に話したら怒られた、なんてことを、ぼくらは既に何度も経験しているのだ。


 それに。


 正直に話したところで、絶対に分かってもらえないと思う。どうせ「寝ぼけていたんだろう?」なんて言われるに決まってる。


「……」何も言えず、ぼくはうなだれるだけだった。


 その時。


 ため息を一つ吐いた後に伯父さんが発した言葉に、ぼくらは脳天からぶちのめされた。


「やはりか。お前たちも、もうそんな年齢としになったんやな。どうせ……『神』に会ってきたんやろ? なんもけ違うか?」


「「「……ええーっ!」」」


 ぼくら三人の声が、ピタリと揃った。


---


 結局、ぼくらは昼ご飯を食べながら、一昨日からの出来事を全部話してしまった。伯父さんも伯母さんも神妙な顔で聞いていたが、ぼくらが話し終わると、伯父さんは深くため息をついて、


「そうか……今の依代よりしろは、シオリなんやな」


 と言った。


「よりしろ?」と、ぼく。


おいやああ。『神』と直接繋がれる人間のことや。代々ウチの家系の女が十三、十四歳くらいの時になるげんな。俺のおん、つまりお前たちのばあちゃんもそうやったらしいし、俺たちの時は、ヨシエだった」


「え、ヨシエって……まさか……」


「そう。カズヒコ、お前の母さんや」


「……!」


 ぼくの母さんは、伯父さんの一つ違いの妹だ。そうだったのか……ってことは……


「伯父さんと母さんも、昔ぼくらと同じような経験をしたんですか」


「おいや。俺とヨシエ、そしてここにいる母さん……いや、ヤスコと三人でな」


 そう言って伯父さんが伯母さんに視線を送ると、伯母さんはニッコリしてうなずいた。


「ええっ!」


 やっぱり、伯父さんたちもそういう経験してたんだ。それはぜひ聞いてみたい。


「伯父さんたちの時は、どんなことがあったんですか?」


「いやぁ……それを話し始めたらぁ、まんでとても長くなっさけぇな。それよりもぉ、今はそんな時やないやろ? まずは『乗り物』を見つけんなんがやないがけ?」


「!」


 そうだ。確かに。「乗り物」が見つからないと大変なことになる。


 ぼくの表情が変わったのに気づいたのか、伯父さんが安心させるようにほほ笑む。


「なんも。大丈夫や。俺に心当たりがある。西にある、と言えば……たぶんアレのことやな」


「「「ええー!」」」再び三人の声がシンクロする。


 すごい。ぼくらが今まで悩みに悩んでいた問題が、一気に解決してしまいそうだ。これほど心強い味方が、こんな身近にいたなんて……


「ほんなら、昼ご飯食べたらさっそく出かけるぞ。ほんとはお前たちに大掃除手伝ってもらいたかったところねんけど、それよりもよっぽど重要な話やさけぇな」と、伯父さん。


「はい!」


---


 車庫の中にあった伯父さんの車は、スズキ・エスクード。ツナギの作業服に着替えた後で、助手席にヤスが乗り、ぼくとシオリは並んで後席に座った。やっぱり、ぼくの隣だとシオリはニコニコするんだな……


 セルモーターの音が一瞬したかと思うと、すぐに2.4リッター直列4気筒DOHCの野太いエンジン音が車庫の中に響き渡る。


「お前たち、喉が渇いたらこれを飲むんやぞ。熱中症になっさかいな」


 そう言って伯父さんは、500ml ペットボトルのウーロン茶をぼくら一人一人に渡し、続ける。


「シートベルトは締めたな? ほんなら出発するぞ」


 伯父さんの左手が、シフトレバーを1速に入れた。


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