12

 "お前たちがそう伝えてくるのを待っていた"


「……はぁ!?」


 思いがけず声を上げてしまった。


『どういうこと?』


 "現在の記録にあるかどうかは分からないが、かつて石崎の一部の地域に、ある伝説が存在していた。明治のある年の大火の時に、八幡神社から男二人、女一人の三人の天狗が現れて、人々を火災から救って回った、という"


 ……三人の天狗だって?


 ぼくらは思わず顔を見合わせる。


『まさか、それってぼくたちのこと?』


 "そう考えるのが妥当だとうだ"


 ……。


「だったら最初からそう言えよな……」あきれ顔でぼくが言うと、ヤスも苦笑いする。


「最初からおれらがそう考えるように仕向けていたのかもな。なんだかすっかり手のひらの上で転がされた、って感じだ。さすがは『神』、ってところかな」


「で、どうする? 天狗になって助けに行くか?」


「そりゃ、歴史がそうなってるんだったらそうするしかないだろ。やらなかったらそれこそ世界線が変わっちまう」


「シオリは?」


「ウチもお兄ちゃんに賛成やよ」ためらいなくシオリがうなずく。


「だけど……危ないぞ? ぼくらはまだ中学生だし、人命救助の素人だ。火災現場は危険も多い。死んじゃうかもしれないぞ?」


 ぼくは彼女の目をしっかりと見ながら言った。


「女の天狗もおったんやろ? ほんならウチもいかんなんがやないの?」


「そうだけど……お前にもしものことがあったら……」


「なんもやって。ウチかて部活で毎日体鍛えとるしぃンね、身体能力は大丈夫や。それに、ウチが行かんかったらぁンね、『神』様と話できんがやないけ?」


「……」


 そうだ……人命救助と言っても、どう考えても素人のぼくたちだけではできることは限られている。「神」にも手伝ってもらわないと。そうなると、やっぱり「神」とコンタクトできる、シオリがいないと話にならない。


 ぼくがヤスの顔を見ると、彼もコクリとうなずく。


「……分かった。それじゃ、一緒に助けに行こう」


「うん!」


 シオリが笑顔でうなずくのを見て、ぼくはスマホに入力する。


『もしぼくたちが人命救助に向かったら、何か協力してくれるの?』


 "もちろん、私のできる範囲であれば、協力はやぶさかではない"


 ようし。それじゃ、まずは人命救助の方法を考えなくちゃ。


「ヤス、どうやって人命救助したらいいと思う?」


「そうだなぁ」一瞬ヤスが考え込む仕草をしてから言う。「一番簡単なのは、村人を別な場所に避難させることだろうな。しかし、いったいどれくらいの人間を避難させなくてはならないかが分からない。そもそも、爆弾をいくつ送ったのかも分からないからな。それを聞いてみてくれ」


「OK」スマホに入力。


『爆弾はいくつ転送したの?』


 "一個だけだ。私の本体に致命的な被害を与えそうなものは、一つだけだった"


 え、一個だけ? それで大火が起こっちゃうの?


「いや」と、ヤス。「考えてみれば昔は単純な木造家屋が多かったんだろうから、一度火が点いちまえば燃え広がるのは早いのかもな」


「確かに」と、ぼく。「それに、よく考えたら、ベトナム戦争時代に米軍が使っていたナパーム弾なら、一発でもかなり広い範囲を燃やし尽くすことができるからね」


「具体的にどの時刻のどの場所に爆弾を送ったのか、聞いてくれるか?」


「了解」


 ぼくがそのままスマホに入力すると、すぐに答えが返る。


 "爆弾が石崎に送られたのは明治21年10月12日の13時35分23秒。場所は八幡神社だ"


「八幡神社は石崎の町のほぼ中心だ」と、ヤス。「そうなると、かなりの人間を避難させなくてはならなくなるな」


「だったら、爆弾が落ちる数時間前くらいに転送してもらえればよくね?」


 ぼくはそうスマホに入力した。


 だけど。


 "それは無理だ"


『なんで?』


 "バッチャンと過去の石崎を結ぶ、最初のワームホールを開くことができる時刻は宇宙の時空構造により決まっていて、それはほぼ動かすことはできない。そして、そのワームホールも約十分間くらいしか開くことができない。その間であれば、ワームホールの付近にいくらでも別のワームホールを作ることができるから、お前たちを送ることはできるが、最初に開くワームホールが出来た時刻以前にワームホールを作ってお前たちを送るのは不可能だ。さらに、爆弾を送る時刻も歴史的事実となっているので動かすことはできない。それは最初のワームホールが開かれてから二分十秒後だ。その約二分間で、お前たちは村人を全員安全な場所に避難させなくてはならない"


「そんなのできるわけねえだろう! ったくもう、神だっつーのに使えねえヤツだな!」


 ヤスが大きく声を上げる。


「お兄ちゃん……そんなこと言うと、バチが当たるよ」と、シオリ。


「かまわねえよ。だってマジで使えねぇんだもんよ。だいたいさぁ、たった二分でいったい何ができるって言うんだよ。村人を探しだすことすらできねえよ」


「でもさ」ぼくはヤスを振り返って言う。「伝説では三人の天狗が人々を助けたんだよね? いったい、どうやって助けたんだと思う?」


「さあな」と、ヤス。「回復魔法でやけどを治すとか……だけど、この『神』ってヤツに、そんなことが出来るとも思えないしなぁ……ワームホールを作ることくらいしかできないんだからな」


「そうか……」


 その時だった。


 ん……ワームホール?


 ぼくの脳内に閃きが走る。


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