第19話 ハーレム騎士団

 大臣共への復讐を終えた後、俺はクーデリカと共に神殿の外に出た。

 新しい国王として、町中を練り歩くためだ。

 かつてこの国を支配していた連中を犬のように従えて歩くことで、国民たちに俺が王である事をはっきりと伝える。


 町の中心街へと続く道は、人、人、人で埋めつくされている。

 文字通り立錐の余地もねえ。

 案山子一本立てられねえだろう。

 この城下町はもちろん、近隣の町村の連中が全てやってきている。


「全て、お前の国民たちだ」


 クーデリカが言う。


 全員、国を開放し新たな王となった俺の顔を一目見んとして集まってきた連中らしい。

 俺は片手を上げた。

 途端に大歓声が起こる。


「我らの救世主!! バルク様ああああああ!!!!」

「この国の土地も人も全てバルク様のものです!!!」

「バルク様!!! 私たちをお導き下さい!!!」

「バルク王万歳!! ロートリア万歳!!!!」


 大歓声が止まない中、前方から10隻の飛空艇がやってきて、町の上空を何度も旋回して行った。甲板で焚かれた煙幕によって『バルク王』の文字が描かれる。

 更にドンドンという音が鳴って、色付きの煙幕弾が地上から放たれた。

 いわゆる昼花火とか言う奴だ。

 それが100も200も、街のあちこちから打ち上げられる。


 ふむ。

 思った以上に俺への支持は固まっているようだ。

 これは練り歩く必要すらなかったか。


 ちなみに、これらの催しがある事を俺は聞かされていない。

 きっと俺が王になると決まってから、こいつらが勝手に用意したのだろう。

 つまりはそれだけこいつらが俺に服従を誓っているという証拠になる。


 ……。

 とはいえちょっと金も時間もかけ過ぎだが。

 これじゃ、なんのために王族の遊興費を削減したり、戴冠の儀を略式にしたのか分からん。


 なんて俺が内心苛立っていると、更に城の跳ね橋の辺りから、角笛を吹きながらやってくる美しい女騎士たちの隊列があった。

 騎士は全部で100名近く居る。

 その先頭に居る騎乗した女騎士の槍の先には、『聖バルク騎士団』と掛かれている旗幟が掲げられていた。


「名前は、恥ずかしながらこの私クーデリカが付けさせてもらった。お前の名の下に正義を執行する特別な騎士たちだ」


 そう言ってクーデリカが俺の足元に傅いた。

 よく見ると、騎士たちの右胸にはクーデリカと同じ天秤の刺繍が入っている。


「女ばっかだな?」


 俺は尋ねた。

 というのは、騎士団に所属しているのが女騎士ばかりだったからだ。

 100余名のうち、女が9割以上を占めている。


「そうだ。皆、牢に囚われていたか野に伏していた連中で、お前が王になると聞いて再度使えさせて欲しいと願い出てくれたのだ。自分たちを救ってくれた救世主として、お前に忠誠を誓っている」


 なるほど。

 まあ、つええ男は先の戦争でみんな殺されちまっただろうからな。

 残ったのがこいつらって事か。


「強いのか?」


 そうなると、気になるのがスペックだった。

 張り子の虎じゃしょうがねえ。

 色気たっぷりなハーレム部隊よりも、使える部下が欲しい。


「皆一様に高レベルの戦闘スキルを持っていてな。トロルはもちろんの事、戦鬼オーガクラスが相手でも一対一で狩れる。だが何よりも彼女たちは気高い。どんなに危機的な状況でも、信念を保ち決して剣を離さなかった奴らだ」

「そうか。育てれば一流になるか?」

「任せてくれ。必ずや大陸最強の騎士団にしてみせよう。そして我らが正義を世に知らしめる!」


 クーデリカが豊満な胸を叩いて言った。

 その目には、己が正義を貫かんとする意志が燃えている。


 ま、俺が必要としているのは能力だけだが。

 正義の執行とやらはクーデリカに任せる。


 やがて女騎士の一団が俺たちの列に合流した。

 まるで俺を守護するかのように、列の左右に展開してついてくる。

 そいつらの表情からは、戦場の厳しさを味わった連中に特有の冷酷さを感じる。


 なるほど。

 女だてらに強者というのは嘘じゃないらしい。


 そんな風に俺が思った矢先、


「きゃっああああバルク様よおおおお!?」

「今私今目が合っちゃった!? もうこの目閉じない!!!」

「妊娠しちゃううううう!!!」

「むしろしたいいいいい!!!!」


 女騎士たちはそれまで保っていた冷酷さ崩し、まるで5歳の女の子みたいにギャアギャア喚き散らしだした。


 なんだこいつら。

 見た目はまともそうなクセして、中身はしっかりロートリア兵してやがる。


「だ……団の風紀が乱れている……! けしからん連中めえええ!!」


 途端にクーデリカが呟いた。

 握った拳どころか全身が震えている。


「「バルク様ぁ!!」」


 なんて事をやっている内に、俺は女騎士たちに囲まれてしまった。

 いつの間にか全員馬から降りている。

 騎士服をちゃんと身に付けているクーデリカに比べて、露出がきわどい奴らが多く、俺の腕にはみ出た下乳やら腰を押し付けてくる。


「うそー! バルク様の腕ふっとーい!!!」

「え! 今晩ってぇ、予定空いてますかぁ!?」

「私達の部屋に来てください!」


 金髪や銀髪の女騎士どもが、ワラワラと俺の腕やら腰に絡みついてきた。

 百合だかラベンダーだかバラだか分からねえ女の匂いに包まれる。

 その様を見て、増々クーデリカの目が吊り上がった。


「クィィクキキキィ~~~~ッ!? キサマらそこになおれええええい!!! 団の秩序を乱す者は成敗してくれるううううう!!!」


 叫んで、クーデリカが剣を抜いた。

 剣を天に掲げて仁王立ちするその顔は、まさしく鬼の形相である。


 お前が一番乱してるぞ。


「け、剣を抜いたぞおおお!?!?」


 それに気付いた街の連中が悲鳴を上げて逃げ出す。


「きゃああ団長怒ったああああ!!」

「おー、ここで一発やりますかー!」

「ちょうどいいや! バルク様にアタシらの強さ見て頂こう!」


 女騎士たちの内3人……それぞれ胸に1・2・3と番号が振ってある……が一斉に剣を抜いた。

 あっという間に斬り合いが始まった。

 無数に斬り交わされる剣閃。

 それに巻き込まれる形で、ちょうど目の前にあった前女王ベルダンディの彫像が紙屑のように細断されてしまった。

 かつて像だった破片が、轟音を立てて崩れ落ちる。


「ぎゃあああああ私の像があああ!? 長年かけて作った富と権力の象徴があああああああああ!??!!?」


 ベルダンディが両膝を突き、元自分の像であった瓦礫の山を見て嘆いた。


 ほう。

 あの像はたしか、『絶対に壊れない像を』とのお触れで造らせたアダマント鋼製。

 アダマント鋼はダイヤモンドの3倍の破壊靭性と摩耗抵抗を持つ希少金属だ。

 それを剣だけで砕くとは、中々の実力だ。


「こんのバカ者どもがあああああ!!!」


 それに3人がかりとはいえ、あのクーデリカ相手に互角の勝負をしてるのもいい。

 これなら働きも期待できそうだ。

 だが。

 これ以上暴れられてケガ人でも出ると面倒だ。

 王として君臨する以上、余計なトラブルは少なくしたい。


「お前ら。そこまでにしとけ」


 千を越える剣閃が飛び交う中、俺は歩みを進めた。

 そして、2本の指で4人の剣先をまとめて摘まみ上げ、そのままクーデリカや女騎士を持ち上げて見せた。


「ば、バルク!?」


 宙に浮かんだまま、クーデリカが驚愕の声を上げた。


「きゃはは!!!?」

「え、うそ!?」

「すごーい!!」


 一方女騎士どもはキャラキャラと笑っている。

 慣れたものだ。


「おい! あれ見ろよ!!」

「ば……バルク様すげえええええ!!!」

「バルク様こそ世界最強だあああ!!!」


 広場から逃げ出そうとしていた民衆たちも、俺の姿を振り返り見て驚いていた。

 俺は摘まんでいた剣を離す。

 クーデリカを含め、全員がその場に落下して尻餅を突く。

 俺は叱りつける目的で、女騎士どもをギロリと睨みつけた。


「よく聞け女ども。

 俺は弱い奴に興味はねえ。

 俺に気に入られたかったら全員もっと強くなれ」


 俺が一声かけると、


「……! は……はぁい……っ!!」


 それだけで騎士たち総勢100名がその場に平伏した。

 今まで喧しかった奴らが、全員生娘のように頬を赤く染めて俺に忠誠を誓っている。

 急にしおらしくなったのは、俺のことを圧倒的格上の存在だと認めたからだろう。


「「「「ははーっ!!」」」」


 更にその騎士たちに倣うように、周りを取り囲んでいた民衆たちも地面に平伏していった。

 まるで人間でできたカーペットみてえだった。

 それが遥か向こうの俺の城にまで続いている。


 この道の先に俺の覇道がある。

 どこまでも俺の有能さを知らしめてやろう。


 俺は民衆たちの大歓声の中、騎士どもを従えてロートリア城に入城した。

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