第四十三話 冒険者になったど~!

 私たちはカミーユさんの案内で、人間の街リンデンスルルをしばらく歩いた。


 この街は非常に活気があって、とても世界樹の森に一番近いとは思えないほど発展している。

 木造ながら身長の高い建造物や、優秀な農耕技術も散見された。


 何よりも一番目を引くのは、高レベルの冒険者が非常に多いことだろう。ランクBの冒険者を良く見かけた。


 気になってカミーユさんに聞いてみたけど、冒険者はランクDが一番人口が多いらしい。

 ランクCやランクBが溢れるこの街は、相当強い勢力ということになる。


 ちなみに、人間種の初期ランクはE。迷宮蜂の初期ランクがDであることを考えると、こんなところにも種族的な優劣が見られる。


「ねえカミーユさん、世界樹の森は基本立ち入れないのに、なんでこんなに強い冒険者が多いの? あの森の反対側は平和な草原しかないし、レベル上げができるような場所もないよね」


「ああそれね。この街の近くには自然発生した迷宮が二つもあるんだよ。ここの冒険者はだいたいそこでレベル上げしてるかな。どっちもかなり深い迷宮だし、最深部付近はランクAの魔物も出るから結構な難易度だよ」


 ……なるほど、自然の迷宮か。私の迷宮とは違って魔物が大量に溢れてくるし、定期的に狩らなければ街に被害も出る。

 リンデンスルルの冒険者が強いのは、二つの迷宮の存在が大きいのだろう。


「後学のためにその迷宮にも行ってみようかなぁ。自然発生した迷宮って魔物の物量がすごいって聞くし、私の迷宮と相性良いと思うんだよね」


 ウチの迷宮はメインが蜂だし、私の力を使えば迷宮内を埋め尽くすほどの物量を創り出せる。


 数という絶対的な力を用いる点で、私の迷宮と自然の迷宮は似ているのだ。


「……レジーナちゃんの迷宮がこれ以上強くなるのは、リンデンスルル筆頭冒険者としては看過できないんだけどなぁ。まあヒカル君がどうにかしてくれると思うけど」


「ちょ!? 人聞きが悪いよ! 私は人間たちを襲ったりしないって!」


 カミーユさんは何を言っているのか。私が人間を襲うなどと考えて……まああり得るか。


 初めて彼女と会ったとき、私は容赦なく攻撃したわけだし。


 それに、もし人間たちが私の子どもたちに手を出そうというのなら、何の躊躇いもなく排除できる自信がある。


「お二人、あんまり盛り上がらないでほしいっす。そろそろ冒険者組合に着くっすよ」


 私たちがヒートアップし始めると、それを宥めるようにガイン君が振り返りそう言った。


 彼はあんな世紀末な見た目をしているというのに、どうにも冷静というか。

 まあ、普段はあんな感じじゃないらしいけど。サガーラちゃんが怖いのかな。


「レジーナ。人間と友好関係を築くのも良いが、本来の目的を忘れないようにな。あくまでも調査という名目でここに来てるんだ」


「アハハ、ごめん。人間の友達って少ないから、ついね」


 危ない危ない、シャルルにも叱られたら流石に控えよう。

 彼はお母さんくらい小言を言うが、本気で叱るのは稀だ。


「そんなことよりも、見えてきましたよ。冒険者組合です。ワタクシはすでに冒険者登録を済ませていますから、あちらの方で今日の掲示板を確認しておきます」


「あ、俺も掲示板見てくるっす。カミーユさん、皆さんをお願いします」


 先頭を歩くクオンさんから声がかかる。彼の示す方へ目線を向けると、そこには他の建物にも増して大きな建造物があった。


 材質は石造で、三階建て。恐らくは一階部分が一般の冒険者向けホールだろう。


 鋭角の屋根や構築物が目立つゴシック様式の組合は、他とは一線を画す財力を伺わせた。


 ちなみに、クオンさんや長肢蜂の調査部隊はカミーユさんの推薦で冒険者登録を済ませている。


 魔物である私たちが冒険者になるには、名高い冒険者からの推薦が必須なのだ。


 それも、ただレベルやランクが高いだけでは足りない。組合長や街の住民から厚い信頼を寄せられている人物でなければ。


(ぽっと出の私たちをすぐ冒険者にできるんだから、カミーユさんも相当地位の高い人物なんだよね。ヒカル君がいなかったら、間違いなく周辺で一番の発言力を持ってる)


 ランクCのクオンさんを冒険者に登録するのはともかく、ランクAで危険度も高い迷宮蜂の私やシャルルを冒険者にできるのは、本当に彼女の実力なくしてあり得ない。


 人間たちは恐らく、カミーユさんならば私たちが暴れ出しても対応できると確信しているのだろう。実際に可能かは別にして、そう思わせるだけの実力を彼女は持っているのだ。


 もちろん、私たちが魔物であるということは一部の人間しか知らないが。


(妖精種ってことで反発もあったろうに、カミーユさんは本当にすごい人だ)


「改めてありがとね、カミーユさん。私の我が儘を聞いてくれて」


「急に何~? 良いんだよ、私も最初は苦労したからね。魔物だからって、みんなが危険なわけじゃないって知ってる」


 彼女の苦労は想像に難くない。人間至上主義を掲げるこの国で、妖精種のカミーユさんがどれほど生きづらかったことか。


 そんな中でもこんな地位にまで上り詰めたのは、彼女の努力と性格の表れだ。


「じゃあさっさと登録済ませちゃおっか。掲示板も覗きたいでしょ? こっち来て」


 私の感心もよそに、カミーユさんは私の手を引いて歩き出す。


 迷いなく組合のホールを素通りし、一般の冒険者は使わない二階への階段を上り始めた。

 彼女に続いて、私たちも階段を上っていく。


 そこには役職の高い組合の職員と、一応ベテランのランクB冒険者が数名いた。


「ようこそ、当組合へ。私はリンデンスルル組合の組合長をしています、カドラと申します。筆頭冒険者であるカミーユ様からの推薦で、皆さまの冒険者登録を承認させていただきます」


 全員が部屋に入ると、まず一番偉そうな人が話し始めた。


 整髪料でまとめた白髪に金色の瞳を持つ男性。サングラスをかけていないということは、彼も相当な高レベルなのだろう。


 纏う雰囲気は凄まじいほどの戦闘経験を伺わせる。


「本日冒険者登録をするのは、レジーナ様、シャルル様、ジュリー様、サガーラ様の四名様でよろしかったでしょうか?」


「はい、間違いありません、組合長」


 カドラさんの質問に対し、カミーユさんは淀みなく答えている。


 対する私は、このなんとも言えぬ雰囲気に緊張しっぱなしだ。

 アレ、冒険者登録ってこんなハードル高いイベントだっけ?


 なんかこう、誰か大きめの声で歌でも歌ってくれないかな。


「それでは念のため、サングラスを外して目を見せていただけますか?」


 カミーユさんの確認が取れたカドラさんは、私の方へ近づき目をのぞき込んでくる。


 私は慌ててサングラスを外すと、彼に目を合わせた。


「ふむ、一応お聞きしますが、ステータス改変系のスキルをご使用ではないですね?」


「もちろん。隠蔽のスキルも解除しています」


 まっすぐ目を見て質問するカドラさんに対して、私も毅然とした態度で答える。


「なるほど、『アストラの承認』は本物と。勇者殿の報告通りですね。どうやらどちらからも嘘は吐かれていないようで、私も安心いたしました」


 ……ヒカル君、私のステータスに関しても包み隠さず伝えていたのか。


 いや、確かに危険度を推し量るのに必要だとは思うから良いんだけどね? 一言言ってほしかったというか。


 まあでも、それで信頼が得られるなら問題ないか。


「他の皆さまも、勇者殿とカミーユ様からの報告と一致しますね。一部ステータスが向上していますが、魔物の多い世界樹の森出身ということで理解できます。危険度に関しては、迷宮の外であれば通常の魔物とさほど変わらないと」


 おお、本当に私たちの個人情報筒抜けだ。


「何より、ここ一か月世界樹の森から魔物が侵入していないのは事実。貴女方が人類へ多大な貢献をしていることは、認めざるを得ません。……私たちは、皆さんを歓迎いたします!」

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