第二章 迷宮完成と遺伝子汚染!?

第四十二話 人間の街リンデンスルル!

「へ~、ここが世界樹の森に一番近い街、リンデンスルルか~! 人間の街って初めて来た。って、名前言いにくすぎ!?」


 勇者の襲撃から一か月。無事に私たちは人間たちとの共存へ足を踏み出していた。


 やはり勇者の発言力は凄まじかったらしく、反対の声も多い中私に有利な提案を悉く通らせたらしい。彼には本当に頭が上がらないな。


「そうだな、俺も小さな村には行ったことがあるが、ここまで大きい街に来たのは初めてだ」


 私の隣を歩くシャルルも、私と同様に少し興奮した表情をしている。

 やっぱり人間の放つ雰囲気というのは、魔物からしても良いもののようだ。


 まあ、シャルルが特別人間に対する抵抗感が薄いというのもあるけど。


(うん、やっぱりエイニーちゃんは置いてきて正解だったね。あの娘は人間に対して攻撃的すぎる。こんなに人が多いんじゃ、いつトラブルを起こすか分かったもんじゃないし)


 そう、今回は初めて正式に人間の領域へ入るということで、メンバーもちゃんと厳選してきている。


 まずは冷静沈着で頼れる私のパートナーシャルル。

 防衛の関係上今まで二人で外を出歩くことは少なかったのだが、デューンがその強さを証明したために、こうして二人揃って外を歩くことができている。


 そして二人目は、エイニーちゃんに代わりサガーラちゃん。

 この一か月で無事に進化を果たし、ランクCに至っている。『変身』のスキルに一番興奮していた。


 艶やかな黒髪に赤メッシュがとてもかわいらしい。耳に付けた赤と黒のイヤーカフも煽情的で美しい。


 最後に荒事担当としてジュリーちゃん。

 あの後何度か勇者と手合わせをし、自力でランクBへの昇格も掴み取った。デューンさんの見立てでは、すぐに彼を追い抜くだろうとのことだ。


 正直彼女は血の気が多すぎて連れてきたくなかったのだが、シャノールさんからの推薦で仕方なく同行を許した。


(本当はジュリーちゃんじゃなくてシャノールさんに来てほしかったんだけどなぁ)


 彼女は実力も確かだし、勇者襲撃の際は私の子どもたちを別の巣へ隠し防衛させるほど信頼もしている。だから彼女にこそ街の調査を依頼したかったのだが……。


(今は街の調査よりもずっと大切な仕事についてもらってるからね)


 迷宮のことはベテランの彼女に任せて、私はシャルルとデート……人間の街の調査だ。


 ちなみに、不審者よろしく私たちは全員サングラスを着用している。


 当然ながら、ステータスを盗み見られたくないからだ。人間の街はそこそこランクの高い者も多く、目を合わせただけでステータスを看破されてしまう。


 そうなれば、私たちが魔物であることもバレてしまうのだ。


 ……まあ、実際人間の街はサングラスをしている人が非常に多い。みんなステータスを覗き見されるのは嫌だし。


 この街でサングラスをしていないというのは、ステータスを見られても気にしない者か、『隠蔽』のスキルに自信のある高ランクの冒険者や騎士ということになる。


 ま、本音を言えばこの目を見られたくないってだけなんだけど。


 一見して白目と黒目が反転したようなこの瞳は、見ただけで人外であるとわかってしまう。


 おもむろにシャルルの方へ目を向けると、そんな私の心配など知らぬと、今は背の高い建物に興奮している様子だ。


 ……世界樹の方がずっと大きいのに、人工物の方が好みなのだろうか。


「レジーナ様、お待ちしておりました」


 私がシャルルと共に街の門をくぐると、すぐに横から声がかかった。


 わざわざ見なくてもわかる。私の配下で屈指の頭脳を持つ男だ。


「クオンさん、こうして顔を合わせるのは久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」


 久しぶりに顔を見るクオンさんは、以前と何も変わっていなかった。


 艶の抜けた黒髪に年不相応な赤メッシュ。歴戦を思わせる風貌、その体躯。

 とても長肢蜂数人と少数で人間の街に潜伏していたとは思えないほどたくましい。


「久しぶりだね、レジーナちゃん!」


「カミーユさん! お久しぶり!」


 クオンさんの後ろから出てきたのは、この街でサングラスを付けない数少ない人物。

 ランクA冒険者のカミーユさんだ。


 彼女は人間の街にしては珍しく妖精種という種族で、まさに人間離れした美貌を持っている。


 空気に溶けそうなほど透き通った金髪に、幻想的とも言えるほど整った顔。元気にはにかむその表情は、同性異性問わず誰もが虜になってしまう。


 そんな彼女とは、勇者襲撃の一件で知り合い現在ではある程度の友好関係を築けている。


 どうやら人質として捕らえた時の対応が良かったらしく、あれ程のことをしておきながら気に入られるという不思議な状態に至っていた。


 まあ、ウチのメイドちゃんたちが本気で接待したらそうなる。どんな人間も骨抜きにしてしまうのだ。カミーユさんは人間じゃないけど。


「カミーユさん、警戒はしててほしいっすよ。一応、俺あの戦いで死にかけてるんスから」


 続いて現れたのは、スキンヘッドのBランク冒険者ガインさんだ。

 カミーユさんに隠れるように出てきた彼は、エイニーちゃんがいなかったことにホッとしたようで胸をなでおろしている。


 どうやら彼は迷宮で受けた毒がトラウマになったようで、今でも私たちを警戒していた。


 特に、ウチで一番攻撃的だったエイニーちゃんにビビっている。

 ランクBの冒険者が情けないとは思うが、実際彼女はそれだけのことをしたのだ。


 ……もちろん、使用禁止毒を許可なく使ったエイニーちゃんには厳罰を下した。

 人体を発狂以上の狂気へ陥れる毒とか、よほどのことがあっても許可しない。


(ま、ガインさんに毒を入れたのは私なんだけど。なんか私のことは警戒してないっぽいし、エイニーちゃんがヘイト集めてくれてるんだよね)


 エイニーちゃん、ガインさんとは直接対峙してないはずなのに、何故か怖がられてるんだよなぁ。


 言伝てに聞いたのか、あのあと再戦でもしたのかはわからないけど。


 その点私は全然警戒されてない。


 正直無害だと思われているのは心外だけど、友好関係を築くのならちょうどいいと割り切っている。実際、それで上手く行ってるしね。


「もう、ガイン君。それは君が未熟だったからでしょ! あの時は敵対関係だったんだし」


「そうっすけど……」


 ……ガインさんの動きがあんまり良くなかったのはそうだけど、そんなに責めなくてもいいんじゃないかな。悪いのは私だし。


 だが、敢えて言葉にすることもない。これは先輩後輩の問題なのだ。


 余談だが、アドリアーナ&アドルフォの赤毛姉弟は元のパーティーに戻ったらしい。

 あの娘たちはまた、他の迷宮探索に勤しんでいるとか。


「……? そういえばヒカル君がいないね。なんかあった?」


 一応彼にも今日リンデンスルルに行くという話はしていたのだが、まあ彼は多忙だしな。きっと用事でも入ったのだろう。


「ああ、ヒカル君なら竜王のところに行くとか言って昨日出て行ったよ。たぶんしばらく帰ってこないと思うけど」


(あ~、竜王アルカサスね。彼も地球人らしいし、600年来の仲って言ってたから、積もる話もあるんだろうな)


 勇者というのはとても忙しいもので、この一か月間ずっと働きっぱなしだ。

 たまには旧友と余暇を過ごすのもいいだろう。


「じゃあ、今日はカミーユさんに甘えちゃおっかな! まずは冒険者組合に行ってみたい!」


「お、わかったよ~! お姉さんに任せなさい!」


 私とシャルル、サガーラちゃん、ジュリーちゃん、クオンさんに長肢蜂の調査部隊、カミーユさんとガインさん。かなりの大所帯で、私たちは人間の街を観光……調査に勤しむのだっ!

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