第十五話 これからのことを話し合います!

 あれからも私は、迷宮の作業に取り掛かり続けた。レベルが上がったせいか、以前のように疲れて寝込んでしまうこともない。まあ、これがLv182の力ということだろう。


 と言っても、とりあえずは第二階層までだ。ここには長肢蜂が来ることになっている。


 せっかく私には、迷宮蜂以外の蜂も配下に加えるという、尋常でない能力があるのだ。それに、現状この迷宮の迷宮蜂は1%に満たない。


 もうここまで来たら、各階層ごとに出現する蜂を変えようという結論に至った。

 つまりあと四種類、場合によってはもっとたくさんの種類の蜂を仲間にする。


 そして最終層は、当然迷宮蜂だ。


 蜂は同じように見えて、実は各々性質が異なる。生態も戦い方も。扱う毒も違う。


 侵入者は従来の迷宮蜂の巣とは違い、それらの異なる蜂に対して策を練らなければならない。それだけでも、この迷宮の難易度は跳ね上がる。


「にしてもここは熱いな。第二階層、炎の間。だったか?」


 そう、私とシャルルが今いるのは、まさについさっき改造を終えた第二階層だ。


 ここには第一階層とは違い、炎や爆発系のトラップを多く仕掛けている。また、階層自体の気温も高めに設定しておいた。


 これも『クリエイトダンジョン』がレベルアップした結果だ。ダンジョン内の環境まで変えることができるようになった。


「ふっふっふ、人間というのは体温が上がると血流が速くなるのだよ。第一階層でとんでもない量の毒を体内に受けた人間は、この階層でまずダウンするだろうね。気温40度を超えるこの階層では、毒が速攻で回る」


 完璧な作戦だ……!


 正直に言うと、蜂の毒は言うほど強くない。確かに人間を殺すことは可能だが、時間がかかるのだ。それを補うのが、七階層構造と高温の部屋というわけ。


 それに、燕蜂は移動能力が高く集団も巨大。相手するには、どうしても大立ち回りする必要がある。血流はどんどん加速するだろう。追い打ちにこの階層だ。


「けどよ、ここには長肢蜂が巣を作る予定なんだろ? こんなに暑くちゃ参っちまうぜ」


「そこもちゃんと考えてあるよ。巣は壁の中にあるでしょ? そこは適温になるよう調整してある」


 全階層において、蜂の巣は壁の内部にある。

 通路にいくつも穴が空いていて、計画ではそこから大量の蜂が現れ、侵入者を襲うことになっているのだ。


「それに、『女王の加護』でレベル補正がかかってる長肢蜂のみんな的には、ここの暑さも大丈夫っぽい。長肢蜂は種族的に高温に強いのかも」


 ここの燕蜂が平均レベル20程度に対して、長肢蜂は平均レベル30だ。燕蜂をここに置くよりは、長肢蜂を置く方が良い。


 と言っても、新しく生まれてくる子どもはその限りじゃない。それはまた対策を考えないと。理想を言えば、『高温耐性』とかのスキルがあれば良いね。


 それに、この部屋の気温をこれ以上高くするわけにはいかない。

 侵入者を撃退するのが目的ならもっと高温にすべきなんだけど、43度を超えると複合蛋白毒は分解される可能性がある。


 というか、40度超えてる時点で、少し毒性は下がってしまう。ここがギリギリのラインなんだ。


 ま、これに関してはテトロドトキシン等、熱耐性毒の生成に成功すればクリアできるけど。それを見越して炎のトラップを仕掛けてるわけだし。


「でもよ、これだけ最強の迷宮を作っても、肝心の侵入者が入ってこれないんじゃ意味ないよな。どうするつもりだ?」


「よく聞いてくれた! 実は私も、新しく得たスキルについて調べてたんだよ。そしたら、ついに見つけた! ……この『世界樹の支配者』ってスキル。これで世界樹の魔力をある程度制御できるんだ。だから、混乱の魔力も取り払うことができるよ!」


 ふふん、私も無知のままじゃいられないからね! 自分なりにいろいろ調べてたんだよ。

 って言っても、『解析』でスキルの詳細を眺めてただけだけどね。


 どうやらランクAになると、『解析』の効果も拡張されるみたい。これがすっごく便利!


「おお! それじゃあやっとレベリングができるな! レジーナにはもう必要ないけど、燕蜂は全体のレベルアップが必要だ!」


「うん! それに、この迷宮での戦い方も慣れさせておかないとね! 森で戦うのとはだいぶ違うはずだから!」


 これからの夢が広がる。思わず頬が緩んでしまうのだ。


 だって、自分の作り出したものが完成に近づいている。そして今、確かな成果を出そうとしている! これほどワクワクすることは、きっと他にない。


 シャルルに目線を合わせると、彼も少年のような笑顔で目をキラキラさせていた。

 うんうん、男の子はこういうの大好きだよね。私も大好き。


「あっつ~い、何ここ。あ! 女王レジーナさま! クオンさまが最奥の間で、話があると言っていました。シャルルさまも一緒に来るようにとのことです!」


 私たちが夢に胸を膨らませていると、サガーラちゃんが飛んできた。

 今日もかわいらしい。「ボク」って言ってくれないかな。


「わかったよ~サガーラちゃん。今行くね」


 でへでへと、自分を客観的に見てもそんな擬音が聞こえてくる。正直キモい。

 けど、キモくてもいいじゃないか。サガーラちゃんはかわいい。


 私たちはサガーラちゃんの後に続いて最奥の間へ向かう。もちろん正規ルートではなく、蜂しか通れない縦穴を使った。これがないと、この迷宮は長すぎて移動が大変だ。


「お待ちしていました、女王レジーナ様。シャルル様もありがとうございます」


 縦穴を使い、一分もしないうちに私たちは最奥の間へたどり着いた。

 近道もそうだけど、私たちの飛行スピードもだいぶ上がっている。


「構わない。それで話というのは?」


「はい、サガーラの報告で迷宮はかなり形になってきているということですので、次の目標を定めておくべきかと思いまして」


 ふむ、なるほど。次の目標か。


 最終的な目標は勇者を閉じ込めるか、もしくは撃退できる迷宮を作ることだ。それはもうみんなにも話してある。


 だからここで議論すべきは、その過程のことだ。


「まず早めに対処しないといけないのは、シャルルの古巣かな。私がぶっ飛ばしてもいいけど……」


「いや、そこは俺に任せてくれ。俺もあれからまた強くなった。多少戦力を借りることにはなるだろうが、これは俺の問題だからな」


 うん、シャルルならそう言うと思った。彼はあれで、芯のある男だから。きっと自分自身で決着を付けたいだろうと思っていたよ。


「でも、無理はしないでよ。自分一人じゃ危険だと思って、私に相談したんでしょ。強くなったって言っても、私を頼って良いからね」


「わかってるよレジーナ。俺たちの女王は規格外だからな」


 よし。シャルルはちゃんとわかってくれているみたいだ。彼に危険が及ぶことこそ、私が一番避けたいことだからね。一人で無理するつもりがないならいい。


「それよりも厄介なのは、やっぱり勇者だろ。俺じゃ時間稼ぎにもならん。Lv182のレジーナでも……たぶん瞬殺だろうな」


「そうだね。勇者の存在を確認してから少し時間が経ったし、そろそろ動きを見せてもおかしくない。どうにか人間の街に潜入して、調査する必要があると思う」


 これは前から計画してたことだ。予定では私が行くということになってたけど……。


「そちらはワタクシに任せてください。ワタクシはランクC。『変身』も使えます。燕蜂は擬態が得意ですから、少なくとも勇者一行以外にバレる心配は薄いかと。それにこれほど強力な迷宮なら、ワタクシの指揮もしばらく必要ないでしょう」


 ふむ、クオンさんか。確かに、現状彼は知識提供や作戦立案として動いてもらっているけど、勇者の調査に回しても大丈夫そうだ。


 というか、今の段階で『変身』が使えるのは私とシャルルとクオンさんだけ……。


「じゃあお願いしようかな。……勇者はすっごく危険だから、十分に注意すること。あと、できれば人間の街についても情報を持ち帰ること」


「お任せを。このクオン、必ずお役に立って見せます!」


 気合は十分。彼は経験豊富だし、引き際もわきまえているだろう。安心して任せられる。


「あとは……あ、そうだ! ワイバーンは? 私が『サテライトキャノン』で倒しちゃおうか? 花畑に長居できないって、エイリーンちゃんから苦情が来てたよ」


「いや、ワイバーンは進化条件の達成としては十分だ。とにかく安全マージンだけ徹底させて、しばらくは放置しててくれ。……もし味方に危険があったら、即座に殺して構わないが」


 仲間の命優先。けど、大主神アストラに功績を認めさせるために生かしておく、か。

 そうだよね。勇者を相手にするんだから、そのくらいしないとダメだ。


「う~ん、とりあえず話し合っておくべきはこのくらいかな? なんかあったらまた……」


「いや、レジーナ。ひとつ忘れている。戦力増強という意味でも、迷宮の体裁を保つという意味でも、まだ君にはやるべきことがあるはずだ」


 ドキッ……っとした。素直に言うと、私はいつその話をされるかと気にしていたんだ。


 シャルルが、熱い視線でこちらを見てくる。とてもまっすぐな視線だ。

 ……今度こそ、彼は私にアレを求めている。そう確信した。


「わ、わかったよ! 私も覚悟を決める!」


(ってか、一回覚悟決めたのを打ち砕いたのはシャルルだけど! 昼間のアレはなんだったわけ!?)


 私は大きく深呼吸をして、シャルルの目をまっすぐ見返した。


「今日の夜、私の部屋に来て」


「ああ、任せろ」


 パチパチ。クオンさんとサガーラちゃんが拍手を送ってくる。それがうれしいやらなにやらで、ちょっと微妙な心境。

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