第四話 転生特典、あんまないじゃん!

 『Queen Bee』。それは、女王蜂が持っている最初のスキル。社会性を持つ虫系統は、ほぼ必ずこれに似たスキルを持っているらしい。そして、それがもたらす影響は……。


「ありがとう、女王。俺はこれから、君の盾となり力となる。俺にできることはなんでもしよう。……えっと、女王!」


「あ、ノーネームだと不便か。……レジーナ。レジーナ! よし、今決めた! 私は今日から、迷宮蜂の女王レジーナ! これからよろしくね。シャルル!」


「お、おう。そんなあっさり。いや、良いか。よろしく、レジーナ!」


 大仰なしゃべり方から一転して、シャルルは少し砕けた口調でそう告げた。

 さっきのはアレか、誓いの言葉的な奴だ。


 にしても、『Queen Bee』の力は絶大だ。

 自分が産んだ子どもたちだけでなく、別の巣からも本人の承諾さえあれば引き抜くことができる。


 これがあれば、子どもを産むまでの期間も仲間を作り続けられる! って、いつかはシャルルともをしなければいけないんだけど……。


「さて、それじゃあ私の質問に答えてもらおうかな」


 私には情報がない。だから、いろいろ知ってそうなシャルルから聞き出すことにした。Lv50だし、きっと詳しいだろう。


 私はシャルルに目を合わせる。すると、再び彼のステータスが表示された。


 おそらくだが、彼の持っている『隠蔽』のスキルを使わない限り、目を合わせれば相手のステータスを確認できるのだ。非常に便利だが、私も早いうちに『隠蔽』を獲得しなければならない。


「まずさっきから気になってる『アストラの承認』っていうスキル。これの効果が全然わからないんだけど、そんなにすごいスキルなの?」


 私は空中から下がって木の幹にとまり、彼に質問を投げる。体重が軽いとはいえ、いつまでも空中にいるとめっちゃ疲れるからね。


「当然だ。無印で『アストラの承認』を持っている者は少ない。俺が知る限りだと、人間の勇者ヒカル、英雄ジェリアス。それから妖精王オベロンに、竜王アルカサスくらいなものだ。どれもランクS。超ド級の実力者たちさ」


 超ド級って、ちょっと古臭いな。

 ってか、このスキルそんなに貴重なものなんだ。これはやっぱりアレか? 転生特典的な、ご都合主義的なSomethingか?


「で、具体的には何ができるの? それに、無印って何?」


「『アストラの承認』は、進化に関する条件を解放するスキルだ。進化は五段階で、ランクDからランクSまで。このスキルがあれば、ランクAまではLv30ごとに進化できるようになる」


 ほへ~、進化条件の解放か。それはありがたいけど、だからってそんな強いスキルにも思えないかな。


「ちなみにシャルルはランクCだけど、進化条件はなんなの? シャルルもランクDから始まったってことでしょ?」


「そう、それこそがこのスキルのヤバいところだ。本来はLv30を突破した時に、大主神アストラからの審査が入る。俺の場合はLvに対して功績が足りないとかで、結局48まで粘ってようやく進化した。けど、『アストラの承認』があれば無条件に進化ができる。どうだ、ヤベースキルだろ?」


 うん、確かにヤベー。だって、私がLv30になった段階で、もうLv50のシャルルと同等ってことでしょ? こいつはとんでもないスキルだ。


「じゃあ無印ってのは? 無印じゃない『アストラの承認』もあるの?」


「ああ、『アストラの承認B』とかだな。その名の通り、ランクBまでの進化条件を解放する。これは持ってるやつ結構多いぜ。あ、ちなみに言っておくと、ランクSになるには大主神アストラと直接話をしないといけないんだ。ランクSは現行の最強種。それへの進化権は、大主神アストラが慎重に見定めてるんだ。こればっかりは、スキルじゃどうしようもないな」


「え!? 大主神アストラって、話ができるの?」


「ん? ああ、人間の街に頻繁に来てるぜ。世界樹の森にはあんまり入ってこないけど……まあそのうち会う機会もあるだろうな」


 ほえ~、とんでもない世界だ。スキルとか進化とか、世界の中心とも言える神っぽい存在に、そんなフランクに会えるもんなの?


 そういう神様って、ラノベだとだいたいラスボスなんだけど。「この世界は失敗作だ」とか言って襲ってくるパターン!


「大主神アストラは茶の好きな婆さんでな、小さな村や里にも訪れて、子どもたちと遊んでるような人だ。……ってそんなことはどうでもいい! 他に聞きたいことはないか?」


 えぇ、大主神アストラってそんな感じなんだ。でも、なんか安心したかも。正直、神様と戦う的なムーブは私には無理。だって、戦闘系のスキル全然ないし。


「じゃあ次、『Queen Bee』。これって何ができるスキルなの? 同種族を眷属にできるってことはわかるんだけど、なんとなくそれだけじゃない気がするんだよね」


「お、察しが良いな。けど、それに関しては俺から言えることないぜ。それに、『Queen Bee迷宮蜂』なら見たことあるけど、『Queen Bee』単体は俺も見たことがない。これから使っていくうちに、必要になったら教えるさ。俺もよくわからんけど」


 なるほど。やっぱりオス蜂にはわからないスキルもあるか。これは、私自身が解決しないといけない問題かな。


「なら、次からはシャルルのことを聞くよ。……まず、この一番凶悪なスキル『強制受精』ってなに!? こんなスキルが存在してていいの!?」


 半ば脅迫のように、私はシャルルに詰め寄り聞いた。


 そう、ずっとこのスキルが気になっていたのだ。こんな、まるでエロ同人みたいなスキルがあって良いのか? ってか、こんなのがなんの役に立つっていうんだ。


「ハハハ、レジーナはやっぱりこれが気になるのか。まあ、外に出てきたばかりじゃ仕方ないと思うけどな。野生動物なら結構持ってるやつも多い、一般的なスキルさ。繁殖能力が格段に増す」


 な、なるほど。確かに、野生下では繁殖力が大切と聞く。それに人間でも、なかなか子どもができなくて苦労する夫婦もいるというじゃないか。そう考えれば、悪いスキルでもない?


「それに、俺の固有スキル『限界突破』と併用すれば、働き蜂を強制的に女王蜂へ昇格させることが可能だ。もし女王蜂が倒されて巣が壊滅しても、生き残った者たちで新しい巣を作り出せる希望のスキルさ」


 な、なんと! 『Queen Bee』や『クリエイトダンジョン』など一部では強力なスキルを持つ女王蜂を、彼は容易く作り出すことができるというのか。


 シャルル、恐ろしい子!


「もちろんこれはアクティブスキルだ。常に発動してるわけじゃない。だから……。もしレジーナが楽しみたいというのなら、使わないでおくことも可能だ」


 シャルルは小さな声で、色気たっぷりにささやいた。それも、情熱的で煽情的な表情。私は今まで、男性にここまでのエロスを感じたことがない!


(い、いかん! いや、シャルルは確かにイケメンだ。DQNっぽいけどイケメンだ。……けど、これはあまりにも……)


 シャルルからのお誘いは、前世では男性経験のまったくなかった私にとって刺激が強すぎる。というか、端的に言うのならばえっちすぎる!


 く、くそう。こんなDQN男にここまで感情を揺り動かされるとは。

 これも、私の肉体が変化した影響か? 前世ではもっと爽やかで清楚な感じの男性がタイプだった。


「そ、そうだ! 『変身』! これって、人間とかになれるスキルだよね。どうやって手に入れたのかな~」


 ま、マズい! ちょっと取り乱して声が裏返っちゃった!


 シャルルには……気づかれていないOK!


「『変身』はランクCに進化すれば無条件で手に入るぜ。レジーナなら、とりあえずLv30を目指すのが良いんじゃないか? ついでに『解析』と『隠蔽』も、ランクCで手に入るぞ」


「なるほどね~ランクCか。人間の街ってところにも行ってみたいし、そうしようかな」


「うんうん、それが良い。レベル上げは大切だ。レジーナは『レベルアップブースト』も持ってるしな。階級が高い種族に多い、そこそこなレアスキルだ。特に、迷宮蜂の女王はだいたい持ってるな!」


 『レベルアップブースト』、転生特典じゃなかったんだ。ってことは、効果もあんまり期待できないかもなぁ。


「それに、進化するとスキルレベルも上がる。『クリエイトダンジョン』なんかは、進化と同時にかなり高性能になるぞ。なあ、レジーナの家に案内してくれよ」


 私の家? というと、私が生まれた大きな木のことか。


 考察するに、迷宮蜂の女王は生まれつきひとつのダンジョンを持っているんだろう。私の場合は、あの木に空いている穴か。あそこから私の迷宮譚を始めろ。そういうことだな。


「分かったよ。……あ、けど。その前に試したいことがあるんだ。ちょっと寄り道するよ」


「もちろん構わないぜ。時間はたくさんある……うん、たくさんあるしな」


 ちょっと含みのある言い方。でも、そんな気にすることでもないかな。今は一歩ずつ、歩みを進めていくのだ。

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