第11話 深い謝罪の礼は90°以上

 トロイノイが目を開けると、目の前のマギヤが薄笑いながら咥えゴム――ちなみにパッケージは白くて硬質的で赤文字入り――で、自分のズボンを下ろそうとしてるのが見えた。

「何やってんのマギヤ……?」


 そう言ってトロイノイがまばたきすると、目の前のマギヤは普通に正座してトロイノイを待っていた。


 トロイノイは、ん……? と自分の目を疑い、「さっきあんた、あたしのこと……」と尋ねる。

 マギヤは、いつも通りの顔で「夢でも見たんでしょう」と淡々と答える。

「いや、でも……」

「あちらで顔でも洗ってきたらどうですか? タオルも貸しますよ?」


 ……こいつ、ウリッツァを睡眠姦した前科があんのよね。

 それも、一回や二回で済まないぐらい、そこそこな数ヤッたって自供してたし……。


 トロイノイは、いまいちマギヤへの疑惑は拭えないが、

特に物的証拠や、トロイノイ自身に体の異常・違和感も無いので、マギヤの言うことに従うことにした。


 トロイノイは自分の顔を洗って拭いた直後、時間を確認する。

 ここは本来、聖女邸の会議室。

 使用する時間を定めた上で使う。

 あと五分で退室時間になるところだ。長期戦を覚悟して時間を長めに取っておいて正解だった。

 もっとも、時間の大半は寝ていたと思われるが。


 マギヤの、細身とは言え男子故の骨や筋肉等の中々の重みに、トロイノイは倒れざるを得なくて、抱き着かれた温もりでトロイノイも寝ちゃって現在である。


「マギヤ、そろそろ出れる?」

「いつでもいいですよ」



 会議室を出ると、外の窓から夕日が差し込んでいた。

 それを見たマギヤが、トロイノイにこう尋ねる。

「トロイノイ、顔を洗い終えてすぐ、時間を確認してたようですけど、何時でした?」

「確か、四時前ぐらいだったと思うけど」


 昼過ぎにあそこに入ってから、かなりの時間が経過している。

 するとマギヤがこう呟いた。

「……ヴィーシニャさんに、謝らないと……」

 さらにマギヤはトロイノイを見据えて「……一緒に来てくれますか、トロイノイ」と頼む。

 確かにヴィーシニャと二人にして、またマギヤが暴走しないとも限らない。

 トロイノイはそれに応じ、二人でヴィーシニャの部屋へ向かう。



「ヴィーシニャさん。この度は申し訳ございませんでした!」

 マギヤのメリハリのある深々とした礼――ちゃんと謝罪の言葉の後に礼をしている――。


 そのメリハリっぷりに少し驚きつつも、ヴィーシニャはマギヤに顔を上げるように言う。

 マギヤは顔を上げず、こう続けようとする。


「貴方への罪を償うためなら、この命だって惜しくない――」

「「自分を大事にして!」」


 ステレオ再生で響くその言葉に、マギヤは思わず顔を上げ、トロイノイとヴィーシニャを見回した。

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