第9話 クッション抱き、縦でいるか横になるか
マギヤのウリッツァやヴィーシニャとの二人きり禁止令が解かれた翌日。
異性についての記憶を無くしてたマギヤが、ヴィーシニャと二人きりになるのを禁止された理由を知りたくなって、ヴィーシニャのところへ殴り込んだら……マギヤが年甲斐もなく大泣きした。
殴りこんでから泣くまでの途中過程は、一言で説明するのが困難なほど混沌としてたが、まあ、それはそれとして。
トロイノイは日常警護班女子で比較的良識的かつ気遣いのできる部類に入るメルテルを呼んで、ヴィーシニャのフォローを任せ、マギヤをヴィーシニャの部屋から連れ出す。
マギヤがあそこまで泣き叫んだのを見たことある人間は、あの場にも聖女邸全体にも、この世にすらいないと言ってもいい。
トロイノイやウリッツァは、マギヤが感情の高ぶりから涙を流したのを見たことがある。
玉ねぎを切るとか目にゴミが入るとか生理的な涙を流すレベルならもう少し増える。
が、泣き叫んだとなると、マギヤが赤ん坊の頃に、物心というか自我というかがある者でないと見たと認識できまい。
ここは聖女邸内にある会議室の一つ。
会議室と言われるだけあって、班内会議や班長・副班長会議によく使われる。
トロイノイとマギヤが今いる会議室は、会議室というより談話室やリビングと言った方が近い、威圧感というか圧迫感というかの無い部屋だ。
そこでトロイノイは今、マギヤの背中を見ている。
部屋に入るなりスツール等の椅子類ではなく、出入口近くの床に置かれたクッション達の一つを手に取って抱きしめて、別のクッションの上に体育座りし、トロイノイからそっぽ向いて、うなだれてるマギヤの背中を見ている。
マギヤはもう泣き止んでいるようだが、トロイノイの怒鳴りが余程応えたのか、あまり口をきかなかった。
「……あのとき怒鳴ったことは、さすがに謝るわ。けど、どうしてヴィーシニャを押し倒すみたいなあれになったの? 答えて、マギヤ」
トロイノイが出来るだけ優しい口調で、そう尋ねて、トロイノイの体感で二分、実測で一分経ちそうな頃、マギヤが頭だけトロイノイを向いて答える。
「……ヴィーシニャさんを見た瞬間、体が勝手にそうしてて……それ以外の心当たりはあまり……」
トロイノイから見るとマギヤの前髪が邪魔でマギヤの表情はよく見えなかった。
「……マギヤはね、前にヴィーシニャに……性的暴行を加えてこの前まで二人きり禁止されてたの」
「知ってます」
あまりに素早いマギヤの返答に、トロイノイは「……思い出したの?」と尋ねる。
「……そもそも忘れてなかったので」
マギヤはトロイノイの方に正座で向き直り、抱えてたクッションと手を膝辺りに置いてそう告げた。
……ただし、顔は少し持ち上がりつつも、ややうつむき気味のまま。
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