第3話 宇宙船、発見

「えっと、そもそもニューリアンってなんなの? ロボット?」


 ニンジャなんとかのなんとかかんとか、登録名・アノヨロシに聞いてみた。すると、少し困った顔で答えてくれた。


「有機物で作られた、いわゆるバイオロイドです。優れた身体能力と頭脳をもち、人間のために働いています」

 なるほど。映画で似たものを見た気がする。


「総合スコアっていうのは?」

「それは……その……なんと言いますか……」

「わかった、見た目のよさ!」

「ちーがーいーまーすー! って、あれ? 外見も評価項目にはいってたっけ……? うーん……うーん……」


 正直なところ、指を頭にあてて考え込むしぐさがたまらなく可愛いかった。この子はすごい。まず顔がいい。

 つぎにスタイルがいい。ほどよく存在を主張する胸、すらっとした脚、モデルでもなかなかいない。あと声も好きだ。透き通っていて心地よく耳にひびく。


 俺が通っていた学校にいたら、絶対にアイドル的存在として男子のあこがれになるだろう。


「オーナー?」

「はいっ、なんでございますか!?」

 あぶない。思わず見とれてしまっていた……。


「立ち話もなんですし、歩きませんか?」

「そうだね……で、どこにいくの?」


「え……?」

「……」


 しばしの沈黙。どうやらノープランだったようだ。仕方ない、道がわからないどうしなら、俺が先導してみよう。


「アノヨロシ、あっちに行こう」

「あ……はい!」

 ぴょこんと跳ねて、嬉しそうについてくる。


 トラックが来た道をもどるのは気が進まなかったので、がれきの山にそってぐるりと回りこむように歩く。


「そういえば、さっき俺のことオーナーって……」

「あー! あれを見てください!」


 彼女が指さした向こうに巨大な『何か』が鎮座していた。いやちょっとまて、ゴミにしては大きすぎないか!?


 自然と早くなっていく歩みとともに全体像が見えてくる。横半分が山に埋もれ、砂ぼこりをかぶっているにもかかわらず、圧倒的な存在感をかもしだしている。俺は影の下から、『鋼鉄のクジラ』とも言うべき物体を見上げた。


「船……宇宙船だ……」

 直感。人間がこんなものを作るとしたら、それしかありえないと思えた。埋まってるぶんを考慮しても全長100メートルはあるだろう。


「未来だなぁ……!」

「あそこから入れそうですよ!」


 彼女はそう叫び、走って行ってしまった。

「あ、ちょっと!」


 慌てて追いかけていくと、人がはいれるほどの穴があった。中は通路になっているようだが、あちこちがゆがんでいる。


 数歩ほどで行き止まりになってしまった。頑丈そうな扉が閉まっていたのだ。アノヨロシがペタペタさわっても、あるいは爪をたてて動かそうとしても、びくともしない。


「どうにかできませんかね。むむむ!」


 あれこれと試している彼女をよそに、俺は周囲を観察していた。ここは2人が並んで歩いても問題ない広さがある。今はほこりだらけだが、この船が使われていたころはさぞ美しかったのだろうと想像できる。


「わかった!」

 突然の大声で、飛び上がりそうになった。狭い空間だから響いたぞ……。

「な、なに?」

「これです。きっとスイッチで動く扉なんですよ!」


 そう言いながら、壁の一部を指さす。見てみると、そこには操作パネルらしきものがあった。しかしボタンがあるべき場所に、比較的あたらしい、無骨な金属の塊が溶接されていた。


「固いフタがされてますけど……こう、なんとか押せれば……」

「でも、電力が通ってないと反応しないんじゃない?」

「え? 動力は生きてますよ? 音がしてますから」


 耳をすませてみたが、何も聞こえない。

「もしかして感覚が鋭かったりする?」

「それなりに、だそうです。身体能力ほど劇的じゃありません」


『身体能力ほど』か……ってことは、そっちは相当なものらしい。そういえばトラックの運転手も、ひとりで銃を持ったやつらを返り討ちにしたんだよな……。


「力はどのくらい強いのか知りたいなあ」

「体験してみますか?」


 アノヨロシが右手をさしだし、『にぎってみなさい』と言わんばかりに、指をわきわきしてみせた。ええぇぇ!? 会ったばかりなのに、そんな……すごくドキドキするんだけど!? でも、またとないチャンス!?


 いったん深呼吸をしたあと、彼女の小さな手をぎゅっとにぎった。ほんのり暖かかい……あと、細くてやわらかい……これが、女の子の手なんだ……。


「いきまーす」

「お、お願いしましゅ!」


 ぎゅっ……。




 どうしよう。美少女と手をにぎりあっている! ひょっとして、俺はまだ眠っていて、これは夢なんじゃ!? 彼女いない歴=年齢の男子高校生が、こんな幸運に!




 メキメキメキ……ッ!


「グオオォォォちょちょちょちょもうムリムリムリムリ!」


 右手が、骨が、やばい! 引っこめようとしても、びくともしない! さいわいギブアップしてすぐに、彼女は手をゆるめてくれた。


「大丈夫ですか?」

「……なんとか。すごい力だったよ」

 痛かったけど、ご褒美というか、なんというか……もう少し握っていたかった。でも、あれ以上つづけていたら粉砕……。体がぶるっと震えた。

 まだアノヨロシが心配そうにソワソワしていたので、右手をグーパーしてみせる。


「大丈夫。ほら、このとおり……あれ?」


 違和感。痛みによるものじゃない。手のひらの上が……『パリッ』とする感覚におそわれた。意識を集中させてもう一度……『パリッ』ときた!

『これを使えば操作パネルをなんとかできる』という確信がわいてくる。


 よし、やろう。




「ハッ!」


 パネルのフタに手のひらをぶつける。すると、土のような色になってボロボロと崩れ落ちていった……! ドアの開閉ボタンが姿をあらわす。


「すごい! すごい! それ、何の力ですかオーナー! 東洋の神秘ですか? ヤマトダマシイですか!?」


「わからない……って、アノヨロシが俺にくれた能力とかじゃないんだ?」

「違うに決まってるじゃないですか! そんなスゴいことができる人なんて過去の記録にありませんよ!」

「なら、一体……」


 俺はコールドスリープ状態だっただけだ。異世界に転生とか、転移をしたわけじゃない。凍ってるだけで特殊な力が身に着くなんて、ありえるのか……?


 疑問はつきないものの、今は考えるより行動しよう。あらわになった緑色のボタンを押すと、ドアが軽快な音とともに開いた。




 その瞬間、照明がつぎつぎに点灯していった。

 まるで俺たちを歓迎しているかのように。

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