番外編 箱の中の女盗賊(R15) 2/2

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 脳全体がしびれるような刺激。

 身体がふわりと浮くような感覚と共に、エレノアは絶叫した。

 叫ばなければ、正気を保ってはいられなかった。

 そして、すさまじい快楽と共に全身を震わせた後――。

 目の前が真っ白になり、意識を手放しそうになった。


(このまま、気を失ったほうが楽なんじゃ……)


 そう考えたエレノアは、薄れゆく意識を手放そうとした。

 だが、そうはならなかった。

 それはジョゴスが許さなかった。

 大量の魔力を身体から放ったことで、ジョゴスはさらに活気づいた。

 そして、体積を増しながら箱の中で動き回る。

 それによって与えられた快楽が、エレノアの意識を取り戻させた。

 エレノアは絶望的な表情を浮かべる。


 絶望と甘美。

 彼女の頭の中は、その二つで満たされていた。

 今や、肩から下の部分がすべて増殖したジョゴスに浸かっている。

 その蠢く『水面』からは、ジョゴスがエレノアの口内に侵入することを試みていた。


 このままでは、いずれ窒息してしまう。

 そう考えたエレノアは、箱の中を見回した。

 そもそも、この箱の中は非常に狭い。

 密閉されていたら、中に入っている人間は窒息してしまうだろう。

 だが、この箱に入っていたネクは死んではいなかった。

 箱から出てきたとき、特に苦しそうにもしていなかった。

 ということは、どこかに空気穴があるはずだ。

 エレノアはそれを探した。

 そして、あっさりと見つけた。


 箱の天井から30センチくらいの場所。

 そこに、ほんのりと明るくなっている穴があった。

 その穴は、斜めに開けられていた。

 おそらく、雨水が入ってこないようにするためなのだろう。

 最悪なのは、その穴にジョゴスが迫っているということだ。

 この唯一の通気口がふさがれてしまえば、本当に窒息してしまう。


 だから――エレノアはその穴に口をつけた。

 ジョゴスによって塞がれないようにした。

 だが、問題は解決していなかった。

 エレノアは通気口に口をつけたことで、顎までジョゴスに浸かってしまっていた。

 大量の水分を分泌する箇所がジョゴスに近づいたことで、ジョゴスの群体は一斉にそこを目指した。

 口と通気口の隙間に入り込もうとするジョゴス。

 口を通り越して鼻の穴に入り込もうとするジョゴス。

 それらの侵入を避けるためには、片手では済まなかった。


 だから――エレノアは股の部分から手を離した。

 そして、両手を使って口と鼻を保護する。

 目をつぶり、眼球にジョゴスが入ってこないようにする。

 すると――。


「ああぁぁぁぁああ……っ、ううぅ……!?」


 遮るものがなくなった股のあたりで、ジョゴスが活性化した。

 これまで手が出せなかった水分。

 魔力を多く含んだその体液に、ジョゴスは群がった。

 それは下着から染み出たものを吸収するだけでなく、徐々に下着の中に侵入していく。

 そして、エレノアの中で最も敏感な部分を刺激し、そこから水分を吐き出させた。


 エレノアはそれ以上の侵入を許さないよう、硬く股を閉じる。

 突き刺すように甘い刺激が繰り返しもたらされ、身体をよじる。

 だが、そのよじり方も今は制限されてしまっている。

 大きく動いて通気口から口を離せば、エレノアの命はない。

 だから、必死に耐えた。


 目からは涙があふれるが、今度はその涙を吸収すべく、顔にジョゴスが張り付いてくる。

 箱を破壊しようと力を入れてみるが、魔封印された箱は素の身体能力では壊れない。

 身体強化によって何とか箱を壊そうとするが、それも上手くいかない。

 魔法の素養があるわけでもなく、自己流で何とか使っていた魔法。

 集中力を欠いた状態で、そんなものがまともに使えるはずがなかった。

 効果を生まなかった魔力が体外に排出されるだけ。

 そして、それはジョゴスを活性化させることになる。


 つまり――エレノアは既に詰んでいた。


 箱からの脱出は不可能。

 ジョゴスから逃れることも出来ない。

 だから――彼女は、このまま拷問に晒され続けることになる。


 勿論、永遠にというわけではない。

 ネクの魔法効果が消えれば、一息つくことくらいは出来はずだ。

 あるいは、アンダーウッド家に到着して箱が開けば、この状況からは脱せられる。


 だが、それはいつのことだろう。

 アンダーウッド家に到着するまでの時間。

 それを彼女は全く想像することが出来なかった。

 一時間か、十時間か、それとも一日以上かかるのか。

 いずれにせよ、今の彼女にとっては、永遠にも近いように思えた。


「ああああああぁあぁぁぁぁああああっ!」


 一秒ごとに、何度も快楽のスパークが全身を駆け巡る。

 それに身を任せることは、彼女には許されていない。

 身体を動かせない状態になったことで、快楽を誤魔化し放出することが出来ない。

 発生した甘美な感覚は身体の中を何周もして、それようやく落ち着く。

 だが、それが落ち着くまでには何倍もの新たな快楽が発生している。


 思考を放棄することも出来ず。

 あふれる涙もジョゴスの栄養源となってしまう。


 だから――。

 エレノアは自らの理性を手放した。

 発狂し、野生動物のように叫び助けを求める。

 だが、その助けは決して現れない。


 どうあがいても絶望。

 その感情と快楽が、エレノアを支配していく。

 暗闇の中、時間の感覚も失ってしまった。

 もはや、何時間もこの拷問を受けたかのように錯覚してしまう。


 実際には、蓋が閉められてからまだ十分しか経っていないのだが。


 箱の中の彼女が、その事実を知ることはなかった。

 もしかしたら、彼女にとってそのことだけは幸いだったのかもしれない。

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