お誘いは帰り道で
「あーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
他愛もない会話をしながら三人で歩く下校中に唐突にひっくり返りそうな叫び声をあげる
この子の行動、奇想天外で全然読めないな。
「どうしたのリコット?」
動じない
「今日、フィグとカミヒコーキ飛ばし対決やる約束だったのです! 負けたら一か月トイレ掃除なのです! 間に合わなかったら不戦敗なのです!」
「なにそれ……」
「カミヒコーキというのは紙を折って作る、空飛ぶおもちゃなのです! 折り方のちょっとした差で飛び方が大きく変わって奥が深いのです! と、とにかく急ぐのです! このままでは『怪奇!便所女』になっちゃうのです!
なにそれ、はカミヒコーキもそうだけどその対決の設定おかしいでしょという意味も込められていたんだけど伝わらないよね、引き留めても悪いし説明するの時間かかりそうだしまあいいか。あとフィグって誰だろう。
オーバーオールに作業用の(おそらく鉄板入りの)頑強なブーツ姿でリコットちゃんは駆け出す。
「あ! 明日おうちで待ってるのです! お昼くらいに来てくれたらいいのです! おーくるおーどちゃんもまた明日なのです!」
言い終わらないうちに首だけ振り向いていたのを正面に戻して疾走する。
「明日?」
「明日はお休みでしょ。リコットとちょっと足を延ばして遊びに行くんだ。オークルオードさんも来るでしょ?」
「へ?」
いきなりいいのだろうか。そういうのってもっと仲良くならないと私だけ浮いちゃうんじゃないか気まずい空気になるんじゃないか私は右手の甲を口に当て悶々とする。
「リコットの中では決定事項だと思うから来なかったら悲しむと思うな―」
私の思考を読んだようにソラ君が言う。
なにそれ脅しなのかしら。というか決定事項って……。
「思い込みが激しいからねー」
視線を上げると、ただでさえ小さい背中があっという間に見えなくなっている。
「カミヒコーキかぁ。相変わらず面白いことするんだなー。」
「ソラ君、楽しそうね?」
「リコット、見てて飽きないよね。何をするにも全力なんだ」
彼の頬が赤く見えるのは傾いてきた陽に照らされているからなんだろう。
見えなくなった背中をいつまでも見送る瞳も輝いていたことには私は気付かなかったことにした。
おかげでいくつかの疑問についいては聞きそびれてしまった。
◇
明けて翌日。
何を着ていこうか、どんな髪型にしようか、ソラ君と休日を一緒に過ごせるなんてドキドキしてしまってほとんど眠れなかった。
枕を抱いてゴロゴロ。
何度も
おしゃれをしたいけど、勉強一筋できてしまった私には縁遠い話だし親にはとても聞けなかった。そんなことする暇があったら勉強しろ、とそう言われるのが関の山だ。
出かけるのも友達と勉強会ということにしていた。なにせ、おばあちゃんのお茶を探すのさえお小言を言われるのだから――。
ソラ君と、帰り道に分かれたところで待ち合わせ。同じ地区で言ってしまえばご近所さん。リコットちゃんのおうちは大通りを挟んだ向かいの地区の、さらに奥のほうだとか。ずいぶん遠くから学園に通っているのね。でも、あの足の速さならへっちゃらなのかな。
悩んだ末に決められなくて、私は学園の制服――暗い紫のローブにしてしまった。あの娘はどんな私服なんだろう。
「お待たせ―」
この季節に合う、薄い灰色をした薄手の
凹凸の無い体に馴染んだ服が美少年と美少女の中間の見た目を引き立たせていて胸が高鳴る。
「かわいい……」
おもわず口からそう出てしまい、慌てて口を押える。
余計なことを言ってまた嫌われたらどうしよう。
「うん、ありがと。オークルオードさんは
そう言って微笑む彼を見ると安心を通り越して顔が火照ってしまう。
発言を受け入れられ、その上自分も肯定されて脳内の私はスキップダンスを繰り広げる。
……私はどうかしている。
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