出会いは校門で

 花咲き誇る季節から新緑の季節へと移りつつある晴れた昼下がり。

 樹木の葉が陽光に照らされ生き生きと輝く。

 吹き抜ける爽やかな風が木々の囁きとともに並んで歩く彼の空色アズーリの肩まで伸びるサイドテールを揺らし、風下にいる私の許へ彼の甘い髪の香りを運んでくる。

 校舎から校庭を抜け学園の門へ向かうところだ。



「リコットー! お待たせー!」



 いつもマイペースなソラ君の声が珍しく弾んでる。


 校門前でしゃがみこんでいた人影がソラ君の声を聞いてすくっと立ち上がる。

 輝くような満面の笑みを浮かべた杏色アプリコットのツインテールが目を引く小柄な少女。

 Tシャツにオーバーオールにごついブーツを履いている作業着スタイルだ。

 この服装って確か――。



「だ、大丈夫なのです! 今着いたとこなのです! 待ってないのです!」



 待ち合わせの常套句を言いながら地面に書いていた落書きを足で擦って消している。

 長い枝をポイするのも見えた。

 その量はおびただしく辺り一面の魔法陣のよう。

 魔法陣というより呪詛? 

 待ちくたびれさせた腹いせ? 

 話し込んでいたからずいぶん待たせてしまっただろうな。

 ごめんね、と心の中で呟く。


「ど、ど、ど、どちら様なのです!?」



 私の姿を捉えて、それまでのきらっきらな笑顔が一転して曇り急に挙動不審になるツインテール少女。



「はじめまして。オークルオード、と言います。魔術師ウィザード科、ソラ君のクラスメイトです」



 お待たせしてしまったのもあり丁寧にお辞儀をする。



「くくく、クぅラスメイトぉぉぉぉ!?!?!?!?」



 数瞬、リコットと呼ばれた少女が叫んだ顔のまま固まる。私のくせ毛はメデューサじゃないんだけど。



「リコット?」



 ソラ君が声をかけ目の前で手のひらをかざし上下させると、眠り姫が王子様のキスで目覚めるかのようにツインテ美少女は動き出す。



「はっ⁉ ちょっと呼吸を止めて肺活量を鍛える訓練をしてたのです! はじめましてなのです魔物使いテイマー学科のリコット=バオシャオと言うのです! どうぞよろしくなのです!」



 肺活量? 突拍子もないことを口走る子だ。

 そんなはずないだろうにソラ君はへーすごいねーと真に受けている。

 なにやら敵視されている様で小動物のような子の視線が痛い。

 そういうつもりはありませんが……。

 リコットと名乗った少女がアプリコット色のツインテールを揺らしぺこりとお辞儀する。



「リコットはねー僕の「幼馴染なのです!!」」



 ソラ君が紹介しようと口を開いたのに何か言わせまいと遮ってきたリコットちゃん。

 普段なら色恋沙汰なんてどうでもいいと一蹴する私が、この露骨さに興味が湧いてくる。

 がるるる、と歯茎むき出しで唸り声が聞こえる。

 ははぁ、なるほど、そういうことか。

 こんなド天然相手は苦労しそうね――。


 校門で立ち話を続けるわけにもいかず三人で帰路に就くと、リコットちゃんがおっかなびっくり口を開く。



「おーくるおーど? さんは苗字は何というのです?」


「オークルオード=ビブリオテーカよ」


「おおくるおうど・びりぶおていか? なのです?」


「オ ー ク ル オ ー ド ・ビ ブ リ オ テ ー カ 」


 わざとではないのだろうけど間違っていたので語気を強めて訂正してしまいます。

 涙目でごめんなさいと大袈裟に謝る少女。


 そんなつもりは無いのだけれど、私怖いのかしら……。



 ◇



「――というわけなんだけど」



 歩きながら図書室での話をソラ君がリコットちゃんにしていく。



「へぇーなのです!大変そうなのです!私も何かできることあればお手伝いするのです!」



 ダボダボのオーバーオール姿でぴょんぴょん跳ねるリコットちゃんは悪い子ではないみたい。



「それで、なんというお茶?植物?なのです?」


「あ、それまだ聞いてないや」



 あはははと明るく笑うソラ君。

 何やってるのですーと呆れながら笑うリコットちゃん。

 眩しいな。

 私が入り込む余地なんて少しも無いわね。

 ちょっといいなって思った気持ちを封印する。



「なんていうお茶なの?」


檸檬レモン硝子ガラスの花茶って言うの」


「レモンガラス??」


「聞いたことあるような無いような、なのです」


「あれかな、神の使いと言われる三本足の黒い鳥――」

「ヤタガラスなのです!」


「南十字――」

「サザンクロスなのです!」




 お二人で何してらっしゃるのかしら……


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