第41話 とっておきの対策

「ところで、レントはなにか対策浮かんだかい?」


 そう言うのはミラだ。

 彼は彼でずっと自室に籠って何かをしていた。


「どうだろうなぁ」

「僕はそれなりに準備は整ったよ」


 今まで訓練しながらなので口だけで対応していた訳だが、1度休憩しようとミラの方を向いたらとても形容しがたい見てくれをしていた。


「お、おいおい。なんだそれは」

「ん? 完璧だろう! 対魔装備だよ」


 首からは1度の絶命を無効にするペンダント、服のあらゆる所に防御魔術をより高性能にする御札、指にはなにやら様々な色をした指輪をし、頭を見やるとなんとも仰々しい兜を被っていた。


「重くない? それ」

「確かに機動力はだいぶ落ちるよ。特にこの兜のせいでね」


 それになんの効果があるのか分からないがあまり動く必要のない防御特化のミラとしてはありなのか? と一瞬頭をよぎるがすぐさま一蹴する。


「それは脱ごうか」

「えぇ!? これはあらゆる物理攻撃に対してかなりの軽減率を誇る"らしい"装備なんだよ!?」

「"らしい"って……」


 そんなもの脱いでしまえと半ば無理やり頭を抱えると兜を取ってしまう。

 持ってみるとわかるかなりの重さ。

 こんなので軽減しても首とか体への負担が増えるだけだろう……。


「はぁ……これは没収だ。そこに飾っておこう」

「えぇ……」


 レントは兜を持って歩くと、訓練場にある案山子の頭の部分に被せる。


「これで少しは耐久力上がったかな? 不確かな効果と言うよりは単純な防具として」

「酷いこと言うなぁ。それは僕のもてるあらゆるコネを使って取り寄せたものなのに」

「らしいで救われる怪我なんてたかが知れてるよ。それなら避ける機動力位は確保しておこうよ」

「むむ」


 ミラは不満なようだが"らしい"とかいう効果に頼っていてはまだまだダメだ。

 その情報すら満足に得られてないところを見るとその指輪も聞いた方が良さそうだ。


「その指輪は?」

「よくぞ聞いてくれた! 見てくれ、量の手にそれぞれ同じ色の指輪が4つ着いているだろ?」

「そうだな」


 右手の人差し指には青、中指には黒、薬指には金、小指には赤の指輪が着いている。

 これは左手も同様のようだ。


「青い指輪は魔術に対する耐性増加、黒い指輪は攻撃魔術の威力増加、金色の指輪は魔術の効果範囲増加、赤の指輪は魔術の消費魔力の軽減をしてくれるんだ」

「それはらしいじゃないんだな?」

「ああ! これは間違いない!」


「なら」とミラから黒色の指輪を抜き取るとレント自身の薬指に装着した。

 もうひとつはリンシアにでも渡しておこう。


「あぁ! 僕の指輪が!」

「何を考えてるんだ……。ミラが魔術の威力を上げても仕方ないだろ」

「それはそうだけど、もしかしたら使える時もあるかもしれないでしょ?」

「じゃあ、使える魔術何があるか言って?」

「えぇと……まずは弾系の『光弾ライトボム』、そして回復系の『天の恵み』、それと……『灯火サーチライト』」


 攻撃魔術は『光弾』だけだし、最後のなんて周囲を明るくするだけだ。

 思ったよりミラは防御に特化しつくしているようだ。


「『光弾』の威力が上がったところで必要な時にも大した影響はないよ……撹乱という意味なら威力は必要ないし」

「うーん」


 どうやら理解はしているらしいが納得が出来ないようだ。

 レントとしては有効活用しているつもりだが、ミラとしては自分の成果を取られたと思っているようだ。


「なら、試合中これは借りておくよ。もちろん、ミラからの提案としてね」

「まぁ、仕方ないか」


 いささかちょろい男ではないだろうか。

 男がチョロくても何もいいことは無いぞ、ミラよ……。


「で? レントの方は?」

「あぁ、あれからリンシアにも協力してもらってひとつの魔術を完成させた……い」

「い?」


 龍神族との対戦は明日に迫っている。

 レントとしてはまだまだ完成とは言えない出来で、リンシアが来たら再開しようと思っていたところだ。


「なるほどなぁ、でリンシアは?」

「さぁ?」


 時間にしてもうすぐ昼になる頃だ。

 いつもならもう来て一緒に訓練しているはずなのだが、リンシアの事だから他になにかやることが出来たのかと1人でできることをしていたのだ。


「レントはまだまだリンシアのことが分かってないね」

「そりゃ兄妹よりもわかることは無いでしょ……」

「あれはまだ寝てるはずだよ。寝起きは最悪なんだ」


 先も言ったがもう日が天に昇る時間だ。

 いくらなんでもとは思うが、ミラの顔を見るとその通りなようだ。


「起こしに行くかい?」

「流石にもう少し手を加えたいし……何より昼食だ。起こそう」

「了解」


 そうして2人は訓練場から出ると女性寮へと向かうことにした。





 女性寮に来るといつも通り寮母さんが迎えてくれた。


「おやおや、お兄さんと彼氏さんじゃないか」

「彼氏!?」

「うぇっ!?」


 ミラがどういう事なのか聞きたいようでびっくりしながらこちらに顔を向けるが、生憎レントも言ってる意味がわからない。

 とりあえず首を振っておく。


「あはははっ、ノリが悪いねぇ。モテないよ?」

「はぁ、びっくりした」

「いつかは自然にそういう人が現れるよ」

「若いねぇ」


 ふぅ、とため息を漏らした寮母さんはすぐさまリンシアの部屋の鍵を手渡した。


「いいかい? 女の子の部屋は秘密の花園さ。くれぐれもいきなり入るんじゃないよ? 鍵は渡しておくけど使わないに超したことはないからね。今はこんなだがね、私も若い頃は……」

「分かりました」

「行こう、レント」


 どうやら長くなりそうだったのと少々肉付きのいい妙齢の女性の話を聞くのは荷が重いので、強制終了させて貰いリンシアの部屋へと歩いていく。

 彼女の部屋は階段を4つ上がって左に歩いてすぐのところだ。


 コンコンッ


 寮母さんも言っていたが流石に断りもなく入るような野暮はしない。

 ノックをするのは人として常識だ。


「出ないね」

「まぁ、寝てるからね」


 コンコンコンッ


 今度はもっと強めにノックをする。

 中ではゴソゴソと音がする。


「どうする? お兄さん」

「辞めてくれよ。寒気が走った……。もう入っていいんじゃないかな」


 お兄さんの断りも取れたわけだしリンシアには悪いが鍵を使って入らさせていただく。


 ──ガチャリ


 ────ドンガッシャン、ガラガラ


 景気のいい音が響いた途端、中からすごい音を立ててその音は近づいてくる。


「待って!」


 リンシアの切羽詰まった声はなかなか聞けない。これだけでも来た意味はあっただろう。

 そんな感じで満足そうな顔をしているとミラが睨みつけてくる。


「何を考えてるんだい?」

「ん? いいや、なんでもないよ」


 これは触れてはいけなさそうだ、心の中に閉まっておこう。


 待つこと数分、中からリンシアが出てきてすぐさま扉を閉めた。


「さぁ、行こう」

「待って待って、さすがに身だしなみは整えようよ。これから昼食なんだ」

「昼食?」


 リンシアは懐から時計を取り出すと驚愕の顔を浮かべる。


「寝すぎた」

「いつも通りじゃないか」

「お兄様は黙ってて」


 そんな会話をかわすと、さっさと部屋に戻りまたもや勢いよく音を立てている。


 そして再び待つこと数分。


 今度はいつものリンシアのように身だしなみを整えて出てきた。


「行こう」

「まぁ、それならいいか」

「お腹すいたなぁ」


 何も気に止めてないミラはさておき、昼食を終えたら訓練場に戻る事になるリンシアを不安に感じてしまうレントだった。









「よし、これから完成……とはいかなくても完成に近づけよう」

「ん」


 訓練場へと戻ってきた3人はすぐさま訓練に入る。

 今は時間が惜しいのだ、1秒も無駄にできない。

 リンシアはそう返事だけすると、いきなり魔力を展開させていく。

 レントも遅れながらも展開を開始する。


獄水牢ウォーター・ジェイル

黒帝葬シャドー・バインド


 2人の対象は同じもの、ひとつの案山子だった。

 2つの魔術は案山子を中心に絡み合い、そしてやがてひとつに……



 ──バチンッ


 ならなかった。


「うーん、何がダメなんだろう?」

「拘束技じゃダメなのかも」

「あぁ、それは試してなかったね」


 今まで試したのは拘束技と能力上昇技と結界だ。

 イメージ的には攻撃魔術の方が難しそうだと思ったもんだが、そんなことは無いのかもしれない。


「じゃあ、今度は攻撃してみるか」

「威力は揃えて」

「わかってるよ」


 そう言いながら2人は更に魔術を展開していく。

 このさまを見ているだけのミラは羨ましいのか妬ましいのかなんとも言えない目でレントだけを見つめている。

 気にしないでおこう。


水弾ウォーターボール

影斬シャドースライス


 遅い。

 いや、リンシアの『水弾』は普通の速度だ。

 影魔術特有の遅さがかなり遅い。

『水弾』の着弾から数秒遅れて着弾している。

 速さでいうなら3分の1……それ以下かもしれない。


「合わせるのむっずいなぁ……」

「もう一度」


 またもや2人は同じ魔術を展開する。

 そして放つ。

 今度はレントが先に放ち、それを追うようにリンシアが放つ。


 そのふたつの魔術は案山子にたどり着く前にぶつかり合い、そして今までに無い魔術の暴力そのものというような威力を纏って案山子へと突き進む。


「言うなれば『水影弾』と言ったところか」

「そのまんま」


 ネーミングセンスはどうやら先天性のものらしい。

 レントにそれは無いようだった。


「ちょっと待って今何したの?」

「ん? 2つの属性を反発させないように合成する訓練だよ」

「そう」


 何回か色んな属性と試して見たが、基本四属性は比較的簡単に合成できたのに対して影魔術や天魔術が絡むとどうにも失敗が続いていた。


「属性と飽和の問題……かな」

「どういうこと?」


 ミラが何か知っているようで話を続ける。


「まず魔術にはそれに適した形、これは弾系だったり結界だったりする放出パターンだね。それには大まかに内包できる威力が決まってるんだ。いくら威力を上げても下位魔術である弾系では中位魔術である槍系には威力で勝てないんだ」


 確かそんなことを授業で言っていたような気がする。

 リンシアもレントも不真面目なもので聞き流していることが多い。


「そして、それに対して込められた魔力が大きすぎる。それが飽和。簡単に言うと、弾や斬の魔術同士で組み合わさると内包魔力が過多になって四散するんだよ」

「ほう」

「そんで属性の問題は、そもそも基本四属性は相対属性とは言ってもそれなりに親和性があるんだ。例えば水魔術と雷魔術。本来なら水魔術は雷魔術を簡単に通してしまって意味が無いんだけど、それは攻撃と防御と見たらの話で攻撃と攻撃同士ならこれ以上ない組み合わさり方になるんだ」

「あぁ、なるほど」

「で、ここからが問題で僕やレントの基本四属性では無い影や天はそもそも他の属性と反発するんだ。何回試してもリンシアとは組み合わさってもレントは合わなかったはずだよ」

「確かに、僕の魔術は1回も成功してない」

「私は全部成功」

「そもそも反発するもんだからかなり気をつけてやらないと合成なんて出来ないんだよ。それがどの文献にもその魔術が載ってなかった理由。そして、それを今君たちはやってのけた」

「世紀の発見?」

「間違いないね。未だ成功の試しはないからね。相しょ……」


 そこまで言って口を噤んだミラはそっぽを向いて話を強制終了させた。


「話はここまで! 僕はもう行くからね!!」


 なにやら怒らせてしまったようだ。

 リンシアも心当たりは無いらしくキョトンとしている。


「とりあえず威力のある魔術で何回か試してみよう」

「ん」




 この日は日が暮れるまで訓練場は爆音が轟いたそうな。


 ちなみにミラは一人で自室で唸っていたのはまた別の話である。

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星導の魔術士 かもしか @Layn

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