日常

平日の朝。

電車の中には陰鬱とした空気が流れている。

重い。暗くて、重い。

空気が流れているというより、流れるのをやめてしまった空気が、ため息をつきながら重みをかけてきているかのようだ。


座っている人も、立っている人も、追い詰められたような顔をしている、ように見える。

もしかすると電車に乗っている人みんな、この先に待ち受けている一日に怯えているのかもしれない。

みんな同じだ。

かといって、乗客たちに仲間意識が芽生えることはない。

それどころか訳もなくお互いを憎み合っているかのように、ピリピリとした緊張感を漂わせている。


電車の走る速度が、いつもよりずっと遅いように感じる。

そんなことありえないのに。


決まった目的地に到着してくれなくては困るのだが、心のどこかで、

この電車がいつもと違う場所にたどり着いたらいいのに、と思っている。

いつもと違う、どこか素敵な場所にたどり着いたらいいのに。

そうしたらきっと、その場所を旅して、何か新しいモノを見つけられるだろう。


アナウンスが流れ、次の駅に到着する。

ホームに入った電車が、振動と共に定位置で停まる。


ドアの近くに、サラリーマン風の男性と、小学生と思しき制服姿の女の子が立っている。

サラリーマン風の男性はドアの真正面に移動し、女の子に軽く手を振った。

ドアの脇に立つその女の子も、手を振り返した。

二人は父親と娘だったようだ。

小さい声で「じゃあね」と言うのが聞こえてくる。

ドアが開き、ホームに降り立った父親は階段の方へと歩いていく。

車内に残った娘は、ドアが閉まるまで父親の背中を見送っていた。

仕事に行く父親と、学校に行く娘。

毎日同じ電車に乗るのだろうか。

かき消されてしまうような、一瞬の情景。

だが、その一瞬が長い一日を支えてくれる。


無機質な音を立ててドアが閉まり、電車が再び走り出す。

行き先が、いつもと同じ場所でもいいと思った。

一日が始まるのは怖いけど、わたしたちはきっと、今日を乗り越えられる。

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