異世界で女子刑務所の看守になったけど、誰ひとり更生してくれない件

水間ノボル🐳@書籍化決定!

第1話 3人の少女囚人

 とある企業での面接中だった。


「刑部計太(オサベケイタ)さん、志望動機をどうぞ」


「御社の志望した動機は――」


 突然、俺は光に包まれた。


 ◇◇◇


 赤い絨毯の敷かれた広い部屋に、たくさんの若者たちが集まっていた。

 

「はーい!みなさん!ここに並んでください!」

 

 魔法使いのような格好をしたお姉さんが、指示を出している。


「1人ひとり、神官様の前に出てください」


「神よ!この者にジョブを授けたまえ!……おお、お前は勇者を授かった。魔王討伐へ旅立つがよい」


 どうやら俺はいわゆる異世界へ転移したようだ。これからジョブを授かるらしい。

 

「神よ!この者にジョブを授けたまえ!……おお、このジョブは――」


「このジョブは?」


「看守だ!」


 看守?

 刑務所で囚人を見張る仕事だよな。


「看守はまったく魔王討伐の役に立たない。転移者でこんな最低辺のジョブを授かる者がいるとは……。嘆かわしい!無能は出て行け!」


「出て行けと言われても、どこへ行けば……」


「看守ですから、刑務所へ行ってもらいましょう」


 俺は魔法使いのお姉さんに連れて行かれた。


 ◇◇◇


 俺は馬車に乗せられて、辺境にある刑務所へ向かった。


「せっかく異世界に転移してきたのに、看守なんてかわいそうだな」

 案内役の兵士が同情してくれた。


 しばらく行くと、森の真ん中に、大きな要塞が見えてきた。

 あれが俺が働く刑務所らしい。

 しかし、看守なんて危険な仕事、俺にできるだろうか?

 生まれてこのかた、犯罪者と関わったことなんてないのに……。

 不安になりつつも、俺は馬車を降りて、刑務所に入った。


「はじめまして!わたしは所長のティナです。今日からよろしくね!」


 小さな女の子が元気良く俺を出迎えてくれた。

 黒いツインテールに、くりくりした丸い瞳。背は130センチくらい。

 どう見ても小学生ぐらいの子なんだけど、胸だけは成人サイズだ。


 俺は所長のティナさんに着いていく。

 刑務所と言うが、中は普通の建物と変わらないように見えた。

 窓に鉄格子もなく、警備員もいない。

 俺は所長室に通された。


「転移者で看守になってくれる人がいて嬉しいです。ここは人手不足ですから」


 俺はまだ実感がなかった。


「オサベくんの担当する官房は、一番南にある第8官房ね。3人の女の子がいます。彼女たちを更生させるのがオサベくんの仕事です」


「囚人は女の子?」


「ここは女子刑務所ですよ?聞いてなかったんですか?」


「何も聞いてなかったです……」


「オサベくんは、女の子苦手?」


「実は、苦手です」


「オサベくん、苦手そうだもんね」


 さりげなく、グサっとくること言うなあ。


「これ、担当する子たちのファイルに目を通しておいて」


 俺は渡されたファイルをパラパラとめくってみた。


================

 囚人番号:801 

 名前:テレサ(16歳)

 属性:聖女

 罪名:殺人

 

 囚人番号:802

 名前:ミーシャ(15歳)

 属性:獣人

 罪名:窃盗


 囚人番号:803

 名前:グレイス(17歳)

 属性:エルフ

 罪名:詐欺

=================


 この3人が俺の担当する子たちだ。


「彼女たちが更生できるかどうかは、すべてオサベくんにかかっています。さっそく官房へ行きましょう」


「いきなり?研修とかないのですか?」


「うちは現場で仕事を覚えてもらいます。オサベくんならきっと大丈夫!キャサリン看守長、お願いしまーす!」


「ふん!こいつが新人か」


 所長室へ入ってきてたのは、グラマーなお姉さんだった。

 背中からコウモリのような羽根、悪魔のような尻尾が生えている。

 エロゲによく出てくる「サキュバス」と呼ばれる種族だろう。

 サキュバスだからか、胸もお尻も豊満すぎる。はっきり言ってエロすぎる身体。目のやり場に困ってしまう。


「新人のオサベくんです。彼は転移者だから期待の持てる人材です」


「所長のご命令なら。ただ、転移者のくせに看守になるような半端者に、この仕事が務めるかどうか……」


 半端者とはひどい言い方だな。

 俺だって好きで看守を授かったわけじゃないのに。


 ◇◇◇


 俺とキャサリン看守長は、廊下を歩いている。

 この刑務所は、真ん中に職員のオフィスがあり、それを取り囲むように東西南北に囚人の官房があった。


 第8官房の前に来た。

 官房の分厚い鉄の扉に、鍵が2個もついている。

 さすが刑務所だ。やっぱり逃げられないようになっている。

 この扉の向こうに、凶悪犯がいるのか……。


「特別に囚人と接する心得を教えてやる。まず、囚人に舐められるな。一度舐められてたら、奴らは言うことを聞かない。貴様はいかにも女子に舐められそうな優男だから、気をつけるがいい」


 うう……。やっぱり俺って少し気弱に見えるのか。


「次に、奴らがもし舐めたことをしてきたら、これで調教してやれ」


 キャサリン看守長は、鞭を俺に渡した。

 ずっしりと重たい乗馬鞭だ。これで叩かれたら相当痛いだろう。

 しかし、調教って……。エロゲじゃあるまいし。

 どうしてもそっちの想像をしてしまう。


「最後に、1番重要なルールがある。囚人と恋愛は禁止だ。もし貴様が囚人と性行為に及んだら、わたしが貴様のモノを引きちぎってやる」


 凶悪犯と恋愛するわけねえだろ……。


「わかりました」


「ふん。貴様のような優男は、逆に囚人から襲われるかもしれんな。せいぜいケツに気をつけろ♡」

 

 なぜか嬉しそうに話すキャサリン看守長。

 俺に逆リョナの趣味はないぞ!


「開けるぞ」


 キャサリン看守長が扉の鍵を開けた。


 官房の中には、3人の少女がいた。

 しかも――全員めっちゃかわいいんだが。


「801、802、803!整列しろ!」


 キャサリン看守長が大声で命令する。

 3人の少女は、部屋の真ん中に並んだ。

 殺風景な狭い部屋だ。白いレンガの壁に、小さな窓がひとつだけあった。左右に二段ベッドがある。


「点呼だ! 囚人番号801!」


「はい!」


 ヤバイ。すげえきれいな子だ。まるで天使みたいだ……。

 たしかさっきもらった囚人管理ファイルによれば、囚人番号801の名前は、テレサ。聖女だ。ブロンドのきらきらした髪に、蒼い瞳が澄んだようにきれいだ。

 子どもの頃、デパートのおもちゃ売り場で見た、外国の高価なお人形のようだ。美少女という言葉がここまでぴったりと当てはまる人を見たことがなかった。

 声も優しげで柔らかい。今、刑務所にいるという現実を忘れてしまいそうだ。

 こんなに美しい聖女が、人を殺したなんて……。


「次、囚人番号802!」


「はい……」


 低い小さな声だ。


「もっと大きな声で!」


「はーい!」


 明らかにやる気のない声を出す少女。囚人番号802の名前は、ミーシャ。コミケのコスプレでしか見たことがないような、もふもふの猫耳。ふさふさした尻尾がせわしなく動いて、見ていると目が回りそうだ。


 ふふん……。


 今、俺を見て鼻で笑いやがった。

 キャサリン看守長にバレないように、生意気で挑発的な視線を俺に向けてくる。この子はかなり反抗的だ。

 目は暗く濁っている。だいぶスレた子というか、テレサと正反対でお世辞にも育ちがいいとは言えない。こいつは泥棒やっていたと言われたら、疑いなく信じてしまう。

 そんな俺の考えを読んだのか、ミーシャはにっこりと俺に笑いかけた。

 あからさまな作り笑いだ。

 この子は、一筋縄ではいかなそうだ……。


「次、囚人番号803!」


「はいはーい!」


「なんだ!そのふざけた返事は!」


 キャサリン看守長が怒鳴った。


「あら、ごめんなさい。今日はお天気が良くて、つい嬉しくなってしまって」


「貴様!わたしを舐めているのか?」


「舐めてませんよお!看守長を舐めてもおいしくないもん!」


「何を言っている……」


 斜め上の返しに、キャサリン看守長の力が抜けた。


「あらあら!新入りさんじゃない?はじめまして。あたしはグレイスよ。よろしくね」


 ずいっと俺に近づいてきた。


「うふふ。かわいい子じゃない!あたしの担当になる看守さんがこんなにかわいいなんて嬉しいわ」


 この距離感がおかしすぎる囚人番号803は、グレイス。エルフの少女だ。3人の中で一番年上のおねえさんだ。

 どう見ても天然の不思議ちゃんにしか見えないのだが、囚人管理ファイルによれば罪名は詐欺だ。もしかして不思議ちゃんな行動もぜんぶ演技なのか?


「今日から貴様らの担当になる看守、オサベだ。オサベ先生と呼ぶように!」


「はーい! よろしくお願いします!オサベ先生!」


 先生か……背中がむずかゆくなる。


「おい!それはなんだ?」


 二段ベッドの枕元に、食べかすが落ちていた。


「食べ物を官房に持ち込むのは規則違反だ。誰だ?食べ物を持ち込んだのは?」


 一気に官房の空気が張りつめる。俺も手に汗をかいてしまう。


「誰も名乗らないのか?それなら連帯責任だ。全員に懲罰を与えるしかないな」


 懲罰――恐ろしい言葉だ。少女たちの顔が引きつった。


「全員、ベッドに手をついて尻を突き出せ」


 まさか……俺はさっき渡された鞭をちらりと見る。


「オサベ。看守の仕事だ。こいつらを調教してやれ」


 

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