第29話最後の1病棟②

隔離室に3週間閉じ込められ、毎日糖尿病食のみの生活で体重は一気に88kgまで減った。

担当医のナラザキ先生に毎日毎日訊かれた質問だが、

「もう絶対に問題は起こさないね?」

「実際に起こしてないでしょう!」

「確かに起こしてないな。ヨシ。隔離開放!」

3週間ぶりに隔離室から大部屋に出られた。


アラフィフ女性看護副師長のマキさんが、豪志の唱える「LGBTの研究」に対して、

「だって、エビデンスがないじゃない!」

「これから研究するんじゃ」

「先に結論有りきなんて科学的じゃないわよ」

マキさんがあまりに豪志を攻撃するので、

「たかが看護師じゃないか」という言い方をすると、

「だって、根岸さんなんて何の資格も持ってないじゃない。わたしたちは国家資格よ」


それでも、旧1病棟から馴染みの看護師長のソノダさん、副師長のスガ君、マキさんは気心が知れていて。ソノダさんとスガ君は

「根岸さんが隔離から出られるようにナラザキ先生に進言しておいたから」と言ってくれた。

精神病院はチーム医療であり、師長や副師長の意見は主治医の判断にも重大な影響力を持つ。ソノダさんやスガ君が最初から味方してくれたのは大きかった。


病院スタッフとは随分話した。

「結局、根岸さん、東大出て何がしたかったの?」

「東大出てプロサッカー選手になって、Jリーガーやヨーロッパ、アジアの国で活躍したかったんじゃ」

「サッカー選手だったら東大出る必要なくない?」

「いや、できればワールドカップ、ヨーロッパチャンピオンズリーグ、アジアチャンピオンズリーグで活躍して、引退後は監督、JFA理事、AFC理事、FIFAの理事などを歴任する」

「今からやれば?」

「今から東大やワールドカップはちょっと厳しいので、東洋大学哲学科から文学賞、音楽賞を取って、作家、研究者、ミュージシャンを狙っている(´・ω・`)」

「「LGBTの研究」でノーベル医学生理学賞も取る。そして、その先の坂本竜馬的なグランドナラティブ、大きな物語で世界を良い方向へ変えていく。put all the world to rights!」


「オバマ大統領の広島スピーチ。あれは世界平和だったんじゃ」

「でもその後全然世界は平和になってないじゃない」

「世界平和って一瞬なんじゃ(´・ω・`)。オバマ大統領の広島スピーチの瞬間は確かに世界平和は達成された」



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