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 全軍副司令官補佐中将。それが俺に新しく与えられた階級だった。


 上官が死んで三年。俺は敵軍機を、時には潰して、時には墜として、時には原型を留めないほどに粉砕していた。

 階級は恐ろしく早く上がり、気付けばあの時の彼女に追いついていた。この戦場では戦果こそが全てだ、年齢、前歴は関係が無い。『この階級までは』

 俺は上官の死により、パワーバランスが南側に傾いたかと思ったが、そうでもなかった。

 撃墜王と呼ばれた上官も、所詮は一人の人間だった。


「クサナギさん、今度は中将ですか。すごいなあ」

 話しかけてきた大佐のシラナミは、俺と母国が同じ、三つ下の後輩だった。

 軍において階級は絶対だったが、俺は周囲の人間にそんなことは気にしないでくれと伝えていた。この基地では俺より上の者はいなかったので、俺は問題なく三年前から変わらない関係性のまま接するよう頼んだ。

「シラナミもその年で大佐だろう?凄いじゃないか、俺より上だ」

「運が良かっただけですって、僕なんかじゃ中将なんて何年かかってもなれませんよ」

 そう何年も戦争が続かなければいいな、とは言わなかった。


 上層部からの呼び出しだった。行きたくなかったが、部下の命にかかわることなので行かざるを得なかった。そんなことが起こるのは現実的でないのに、解析や介入などの可能性が懸念されるテレビ電話などは使用できない、と言ってしまうほど重要な案件のようだからだ。

 すこし留守にする、と告げ、俺は地上に向かった。


「この戦争も、ようやく終わるようだ」

 白髭を生やした男が言った。

 軍の人間の階級などについては、三年前までしか詳しく覚えていなかったが、今はこいつが一番偉そうなので、間違ったことを言っているわけではないようだった。

 だからこそ、意味が分からなかった。

「何故そのようなことが言いきれるのですか?」

 現状、両軍の戦力は補充兵の不足によりお互い減少していながらも拮抗していて、戦争が終わる気配など微塵も感じられなかった。

 白髭を生やした男が、言いにくそうな素振りだけをして見せてから言った。

「今のままでは両軍ともに日夜新たな兵器の開発に追われなければならない」

 言い訳はまたコストか、と思った。

 その後も白髭を生やした男は何かを言っていたが、多くは耳に入ってこなかった。

 要約すると、こういうことだ。月末、両軍の現在の総力戦で戦争の勝敗を決めるから、絶対に勝ってこい。


 そこから時が経つのはあっという間で、気付けば決戦と称される日だった。単に、書き手の体力が尽きてきただけなのかもしれない。

 新たに作成された「最終兵器」と呼ばれるロボットの使用権を譲渡されたので秘密裏にシラナミに譲った。

 俺は五年前、上官が死んでから俺の物となったロボットに乗ることにした。


 数時間で両軍の戦力は開始時より半分以下となっていた。

 俺も何十機か撃墜したが、やはり戦力は拮抗していた。


 さらに数時間後には高い階級の者しか残っていなかった。大佐以下はシラナミを除けば全滅だった。しばらくして、数えられるほどの人数しかいなくなった。


 戦闘開始から十時間で、シラナミが撃墜された。最後の最後まで明るい奴だった。彼が死ぬなら俺が死ぬべきだったかな、と思った。


 そして戦闘後、残っていたのは俺だけだった。


 違うな、わざわざこんな言い訳をして、これではあいつらと同じだ。


 最初から、俺一人だったよ。


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